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感謝

物語が作者に書かせました。

時給一年 18/19 冬 感謝


9章大晦日

0:00になった。

12/31とうとう最終日。この世界が終わる。

そして私も消える。みんなは『現実の世界』に戻る。そう、私の行けない世界へ。

あれ?なんで震えてるんだろう。

なんで!?そんなの分かってる、怖いから!

本当なら来ないで欲しかった、私が消えるのを影の薄さが物語ってくるから。終わりが一歩一歩近づいてくるから。


私が『呼ばれた』意味が分かったとして、その私が今日で消える。穏やかなわけがないじゃない!

2ヶ月前に『2ヶ月後の○月△日に死ぬ』って言われてその命日を穏やかに過ごせる!?無理よ!


0:05

眠れない。震えが、止まらない。

怖い、怖いよぉ

灯。お父さん、お母さん。


ピロン

『寝れないー、外ー』


灯からのメッセージだった。

布団から出て外を見た。街頭の照明の中に灯が立っていた。

すぐに防寒着を着て飛び出した。と言っても寝巻きにコートを羽織ってるだけ。寒い。


「灯!?どうしたの!?」

「へへ、眠れないんじゃない?」

「どうして!?」

「私も眠れないから」

「…どうして?」

「………。怖いから。同じじゃないかな?」

私は無言で頷いた。怖いよ、どうしようもなく。

「ちょっと座ろうか」

灯はそう言って近くの公園のベンチへ向かった。私も灯の隣に座った。

「こんな時に慰められなくてごめんね。」

灯は申し訳なさそうに言った。私は首を左右に振った。慰めの言葉なんて、正直要らなかった。

ただ、怖かった。そばに居てくれるだけで、それだけで本当に救われるような思いがする。

ふと春を思い出した。


「私はお仕事とかでは考えてないかも。ただ居てくれてありがとう。そう言われるような人になりたいかな」


「灯?」

「ん?」

涙が溢れてきた。視界は涙で埋め尽くされた。鼻水が止めどなく出てくる。下顎がガクガクして言葉が上手く出てこない。言葉にしようとしても音にならない。首を左右に振りながら、なんとか言葉にして伝えようとした。

灯は真正面に向き直って、ただ私の言葉を待ってくれていた。

「『た゛だ、い゛、いでぐれ゛で、あり、あ゛り゛か゛と゛う゛』」

灯の目にも涙が浮かんできた。

「ーふふ、どういたしまして。おいで。」

私は灯のコートの中に誘われた。灯の家で『全部』聴いたあの日のように灯にもたれかかった。灯は私の体重を抱えてくれている。

「へへ、寒いからね。このコート、お父さんから借りてきたんだ。」

私が入ったら狭い。だけど十分すぎるくらい暖かかった。

灯の手が私の頭を撫でる。

それ以上の言葉は無かった。ただ、頭と背中を優しく包み込んでくれて外のはずなのに家の中よりも暖かくて安心できた。体全体ではなく顎が震えている。

言葉が上手く出ない。寒いわけではない。灯への感謝が言葉じゃなくて涙になって止めどなく溢れてきた。秋に泣いた、暴れた時と違って暖かい。私自身を溶かしていくような涙だった。

「ーふふ。」

灯の笑みを感じる。

「澪、こんな感じだったんだね。私いつも濡らす側だったから」

灯の服を濡らして地肌まで浸透していったらしい。

「あ゛、こ゛め゛ー」

「離れる方が嫌だよー」

灯は私が離れて行かないように頭と背中を包んでいる手にギュッと力が入ってきた。手が震えている。

「私だって、離したくないんだから。」


どのくらいこうしていただろう?

お互い言葉はない。ただ抱き合って存在を確かめ続けた。


◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇


気付いたら明るくなってきた。途中で一瞬うとうとしたと思うが体勢は昨夜のベンチに腰かけて灯と抱き合ってるままだった。頭は右手で、背中は左手で包まれている。

「朝?」

「起きた?」

灯が訊いてくる。

「あれ?寝てた?」

「うん、5回くらい頭がガクンってなったかな?」

あれ?灯の方は一睡もしていないってこと?

「灯?」

「うん?」

「寝れた?」

「………うん」

「嘘が下手くそ」

「へへへ」

「今度は灯が寝たら?少しだけでも」

「うん…」

そう言って灯が私の肩に頭をあずけると、5秒ほどで寝息が聞こえてきた。コートから手は出せなかったから右手で灯の背中を包んで、左手で後ろに転ばないように支えた。

5分くらいして、パチンと目が開いた。

「澪!?」

「ん?大丈夫、ここにいるよ」

「…よかった。」

いくら時間があっても足りなかった。


◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇


「そろそろ着替えないとだね。」

お互い寝巻きにコートの格好。真冬の寒空のはずだったのにそんなことまったく感じなかった。灯の胸が名残惜しい。灯も私の頭と背中からなかなか手が離れなかった。

「このまま時が止まってしまえばいいのに」

「ねー」

時計は7:10を指していた。


◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇


お互いの家で着替えて集合場所に向かう。向かっている途中で灯が声をかけてきた。

「灯?」

「澪?」

『昨日はありがとうね』

2人が完全に重なって笑いながらお互いの肩を軽く叩いた。

いつもの合流場所に着くと先に朔と透がいた。

透が朔の肩に手を置いて左目を押さえてぐったりしている。

朔は透を肩で支えながら何か書き物をしていた。

「2人が先って珍しいね」

私が言ったそのすぐ後で

「今度は何を企んでるの?」

と灯が続く。

「ん?おぅ!来たか!」

朔が私たちを確認して言った。

「『今日は』何も企んでねえから」

透が小さく続く。左目を押さえている。

「痛むの?」

「疼く」

「ちょっと(能力)使い過ぎたらしい」

「同じことやっても負担が半端ない」

「どんなことを予知したのやら」

「ふふ、さあな」

「あれ!?私が最後!?」

蓮とムギが来た。蓮はほぼ私と重なるように近くまで来る。ムギの頭が私の右膝にぶつかる。

ムギは何に当たったのかと周りをキョロキョロしている。

「ムギー!私が分かるー?」

ワシャワシャワシャワシャ。

ムギはお座りの体制で蓮を見上げている。

そうか、そうだよね。

蓮の方を見る。「澪をもう、認識できていない」悲しそうな顔をしている。私も蓮と同じような顔をしているんだろうな。

私はムギの大きな体に抱きついて、

「ムギ、ありがとうね。いっぱい撫でさせてもらってありがとう。蓮をよろしくね」

と小さく言った。

「澪?なんか言った?」

蓮が確認してくる。

「ううん、何も言ってないよ?」

「そう?ムギがね、『うん』って突然言ったから」

ムギー!!ワシャワシャワシャワシャ

灯がしゃがみ込んで頭を差し出してきた。

「やきもち?」

「たぶんね」

2人で笑いながら私は灯の頭をこれでもかと撫でまわした。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


夕方。もう、お別れしなきゃ

私は一歩前に出た。みんな私の方を見た。

「朔ッ!」

「おぅ!」

透がバインダーを準備しその上に朔がノートを広げた。

「みんな、今日はさ。ううん、今日までありがとう!突然だけどさ、今日が、最後の日、なんだよね?」

私が切り出すと朔は急いでノートにペンを走り始めた。

透はバインダーを押さえている。

蓮はムギに抱きついて顔をこちらに向けて聴いてくれている。灯は真正面から私をじっと見続けている。

話しているたびに涙が溢れてくる。

昨晩すべての水分が出たくらい泣いたのにまだまだ溢れてきた。喉が熱くなり顎が震えて言葉に詰まる。嗚咽を吐きながら体が崩れそうになる。崩れそうになったらすかさず灯が支えてくれた。

言葉は無かった。でも、「大丈夫だよ」って言ってくれているのを感じる。「ゆっくりでいいから、私、逃げないから」

涙を拭って言葉を紡いでいく。言葉になってない部分もある。嗚咽を吐いて2、3分泣き崩れるタイミングもある。だけど誰も何も言わない。蓮はムギを強く抱きしめ、朔は涙でノートを濡らしてペンで穴を開けながらそれでも懸命にペンを動かし続けていた。透がかけてないところを指摘して灯が支え続けてくれている。


涙を拭い、鼻をかんで、震える顎を落ち着かせる。最後のこの一言は絶対笑顔で言いたい!


「みんな、本当に、ありがとう。」


灯が手を伸ばしてくる。頷いて手を取ろうとした。

スッ

私の手を灯の手が通過する。

え!?

灯は驚き私の体に飛び込んでくる。私も両手を広げて昨日のお礼。包み込もうと手を広げ灯の体を受け止めーーーられなかった。


灯の体は空を切り、地面に倒れ込んだ。

灯はすぐに起き上がって私を見た。涙目。灯の顎は震えていた。私も震えている。

『あ゛、あ゛、』

私も灯も言いたいことは明確なのに言葉が同じタイミングで出てこない。

『あ゛り゛か゛、と゛、と゛う゛!』

伝えられた。そう思ったら笑えてきた。

私の意識はそこで途切れた。

読んでいただきありがとうございます。

次回最終回です。

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