エピローグ 再生のメス
数ヶ月後。 『緋城医療センター』として生まれ変わった病院の屋上。 氷室と葛城は、冬の澄んだ空気を吸っていた。 眼下には、救急車がサイレンを鳴らして入ってくるのが見える。 病院は生きている。腐った組織は死んだが、医療という機能は生き残った。
「……報酬は入ったか?」
葛城が尋ねた。
「ああ。銀行からは規定通りのコンサル料をいただいた。徳永の隠し資産から回収した分も、ボーナスとして上乗せされている」
氷室は懐から封筒を取り出し、葛城に渡した。
「今回は骨が折れたな」
「全くだ。死体を運ぶのは専門外だぞ」
葛城は苦笑いしながら封筒を受け取った。
氷室は、新しく塗り替えられた病院の看板を見上げた。 白亜の巨塔は、もはや権力の象徴ではない。 傷つき、泥にまみれながらも、命を守るための「砦」として、そこに在り続けるだろう。
「行くぞ、葛城。……次の患者が待っている」
氷室はジャガーのキーを回した。 エンジン音が唸りを上げる。 M&Aアドバイザー、またの名を企業再生コンサルタント。 彼が振るうのは、鎌ではなく、腐った組織を切除し、再生させるための「メス」なのかもしれない。
車は走り去り、後には冬の青空だけが残された。
(完)
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件等とは一切関係ありません。




