003、裂け目の縫い手
半分AI、半分筆者
その日の裂け目予告は、ライから届いた。
チェルシー、ヒサメ、月詠の三人は、静かに現場へと向かう。
「ヒサメ、今日もいつも通り、ね」
チェルシーの声は、落ち着いていた。
「うん。大丈夫」
ヒサメも頷く。
月詠は拳を握った。
「何があっても、守ってみせるぞ」
裂け目が広がる。だが、今回の裂け目はどこか様子が違った。
「チェルシー! 気を付けて! 向こう側、敵意が強い!」
ヒサメの声が叫びにも似て耳をつく。
「うん、わかった!」
チェルシーは静かに答えた。
刹那、大木の欠片が飛んできた。
月詠は瞬間判断した。いつも通り斬れば、霧散させられる。
「はあ!」
刀が閃く。大木は半分に割れた――が、霧散はしなかった。
月詠の視線が凍る。
大木の欠片には、明確な意思と、憎悪が宿っていた。
それは、チェルシーに突き刺さろうとしていた。
「――え?」
「がふっ!?」
時間にすれば刹那。しかし、その間は永遠にも思えるほどに濃密だった。
魔。真。危機。
その時だった。チェルシーを淡い光が包む。
「まだ、こちら側ではないわ」
幻聴か幻か、それとも――。
意識を手放しかけた二人の体が、奇跡的に戻るには十分だった。
「チェルシー!」
「イ、ザ、メ……」
「喋らないで! ここは退くわ! 月詠! 頼んだわよ」
月詠は立ちすくむ。
「え……あ……」
ヒサメは焦る。
「どうしたの!? 月詠!?」
月詠は、何か温かいものが横を過ぎた感覚を覚えた。
だが、二人が目を覚ました理由は、まだ理解できない。
――何が起きた?――
ただ、彼は立ち尽くしていた。
裂け目は、妖狐によって縫い合わせられていた。
ライは、すでにベッドを手配している。
ヒサメは眠らず、チェルシーを見守った。
沈みゆく意識の中で、チェルシーは何度も「声」を反芻していた。
月詠は、ヒサメにチェルシーを託すと、自警団へと足を向ける。
「アレ、『元』団長じゃないですか? どうしたんですか? そんな暗い顔して」
エンジの声が響く。
「え……あれ、変だな。なんでいるんだろう?」
月詠は首を傾げる。
「どうしたんですか本当に? はっ! まさか私への愛の告白!? キャー、私にはヒサメ様がいるのにー!」
「なあ、エンジ」
月詠の声は落ち着かない。
「なんすか? ご飯すか? お風呂すか? それとも、あ・た・し?」
月詠は考える。
「守る、て何だろうな?」
「ぶー、のり悪いっすよ『元』団長。……そうっすねえ、月詠さん。なんで自警団を辞めたんすか?」
「それは、守ろうと、思ったから」
「それっす。何を守るために辞めたんすか? 世界を守りたいから? 違う。自分を守りたかったから? それも違うっす。じゃあ、大切な人を守るため? それも違うっす」
「え?」
「やっとこっち見たっすね。『団長』は警備隊に私が入ったころ、なんて言ったか覚えてますか?」
「……あ」
「それが答えっす」
月詠は笑った。
「ハハ、なんてことだ。こんな簡単なことが抜けていたなんて。当に私はやっていたじゃないか」
「全く、世話の焼ける『元』団長っす」
「その『元』を止めろ」
「もう大丈夫すね。じゃあ、早く戻ってあげなさいな。帰りを待ってる人がいるんですから」
「……ああ!」
「今の誰ですか?」
「団長?」
「んー、私の大事な仕事仲間ですよー。それじゃあ、後片づけと絵師さんのツケ、払っといてねー」
「またですかぁ!? いい加減美人画ぐらい自分の金で買ってくださいよぉ」
「チェルシーは無事か!?」
「どこ行ってたのよ。もうとっくに目を覚ましてるわよ」
「あ、月詠」
チェルシーは全治3カ月はかかる怪我を負っていた。
だが、奇跡的に、これで済んでいるとすら思える。
月詠は二人を見つめる。
「チェルシー、ヒサメ」
ヒサメが問いかける。
「どうしたの? 改まって」
月詠は力強く答えた。
「私は追いついてみせるぞ。共に並び立つ、その日まで」
チェルシーは微笑む。
「フフ、ありがとう」
ヒサメは顔をしかめて、少し妬いたように言う。
「へえ。ふーん」
月詠は不思議そうに見返す。
「な、なんだ? 何か変なこと言ったか?」
「ベーつーにー。ちょっと、妬いちゃうだけよ」
最初はAIと二人だけの秘密にするつもりでしたが、あまりに惜しいので思い切ってこちらで発表。
月詠の成長を描いた短編です。




