デザイア・ワールド
私の友達の蛇拳使い永田くんの話題作どうぞ、お楽しみください。
第1幕無限の理想
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デザイア・ワールド ー それは、様々な生物の理想から生まれた世界。そこで命を宿した者は、自身の潜在能力を展開することが出来る。彼らは、自分の理想を掴み取る事はできるのだろうか。
「ありがとうね、危ないところだったよ。」
「いいえ、お気をつけて。」
感謝の言葉を無愛想に返した少女 ー に見える青年は、口元を隠すようにコートのえりをたてると、建物裏に入っていった。しばらく歩いた時、
「っ!」
前方から電気が放たれ、青年は少し体制を崩した。
「......."エレキ"か...。」
青年は手を伸ばすと、唱えた。
「"迎撃"。(カウンター)」
すると、青紫の魔法陣が現れ、中から電気の魂が発射された。青年 ー 黒斗幻夢は、全ての理想を拒んだことから「全拒絶者」という仇を持ち、 潜在能力『拒絶』 を使う一匹狼だ。そんな彼は、前方の闇に向かって言った。
「隠れてないで出てこいよ。」
すると、電気を体に帯びた青年が現れた。金髪を逆立て、かなり派手な風体のその青年は、怒りだか恨みだかを秘めた眼で幻夢を恨んでいた。長い沈黙が続いたが耐えきれず、幻夢が口を開いた。
「何故、俺を襲ったのか、理由 ーーーーー 」
「"サンダー"!!!!」
突然飛ばされた雷を、幻夢は、
「"霊壁"。(シールド)」
慌てることなく展開した薄緑の魔法陣で弾き返した。
「召喚、"カラド・ボルグ"!」
「おいおい........。」
"エレキ"の力で精製された剣を見て、幻夢は頭を抱えた。
「(しかたねぇか........。)」
「"定相"。(コネクト)」
黄色の魔法陣を開き、龍神族の武器"ドラゴンブレイカー"を取り出すと、中段に構えながら言った。
「では、もう一度質問する。何故、俺を襲ったんだ?」
だが、青年は剣を引くと、
「答える前にお前を殺す!」
叫びながら突進してきた。
「ダ〜〜ル〜〜。」
武器を"剣状"(ソードモード)から"斧状"(アックスモード)に持ち換えると、刃を向け止めて言った。
「お前の恨みを買う覚えは無いぞ。」
「うそつくなぁー!!」
だが、青年は幻夢を否定し、泣きつつ怒鳴った。
「この人殺しが!!」
「だから何の話だ!」
「しらばっくれるんじゃねえ!てめぇは俺の姉ちゃんを殺しただろ!」
「それ俺じゃねぇよ!」
数分後...
「本当にごめん。教えられてた条件とピッタリで......。」
「....................。」
「黙ってないでなんとか言ってくれ、俺は、姉ちゃんのために ーー 。」
「黙れ。」
言葉をさえぎられると、幻夢は冷たく言った。
「事情など知らん。お前の姉は不幸者だな。」
「はぁ!?」
胸ぐらを掴む少年に、幻夢は追い打ちをかけた。
「お前の姉は、お前のような弟を持って不幸せだっただろうなと言ったんだ。」
幻夢は胸ぐらを離し、泣き崩れる青年に背を向けると
「よく聞きな。」
と喋り始めた。
「他人を疑うなら、最初から他人と関わらないことだ。」
そう言うと、出口へと向かった。
2
「よぉ、姉ちゃん。ちょっと俺と遊ばないか?」
「おい、女。俺らと一緒に来な。」
案の定、建物裏から出た途端、ナンパの嵐だった。幻夢は、苛立ちを隠すように早足になっていると、
「黒斗幻夢!」
誰かに呼び止められた。声のした方向を見ると、真っ黒の人影が見えた。手を振りながらこちらに向かって来るのは、幻夢の友人、水鳥レイだ。
「久しぶりだな、レイ...。」
「おうよ、幸せ者。俺みたいな彼女がいるんだ。」
「彼女じゃねぇだろ。誤解されるからやめろ..って、おい!」
幻夢は声を荒らげた。レイが彼の腕に抱きついたため、彼女の胸が腕に当たったのだ。
「..........本気で、やめてくれ....。」
声を抑えながら何とか言い切ったが、
「だめ、なの?」
レイは甘えるように言った。
「だめは、だめなの。そりゃ、可愛いけど...。」
最後だけが弱くなってしまい、レイに追い打ちをかけられた。
「最後、なんて?」
「なんでもない。今回と同じように顔は隠しとけよ。何かやばい時は、連絡くれ。」
レイから離れると警報が鳴った。
「毎度毎度うるせぇんだよ、これ。」
幻夢がだるそうに言うと、警報混じりに声が聞こえた。
「戦闘力に自信がある方は、大時計の下にお集まりください。くりかえします ー 」
「了解。」
そう言って走ろうとした時、
パコーン!
「いてっ!」
鈍い音が響き、幻夢がよろめいた。どうやら、背中をとても強い力で叩かれたらしい。
「ここは、あんたみたいなのは行かないこと。」
すぐ後ろに女性が何故か細長い棒を持って立っていた。彼女専用の武器....なのだろう。だが、幻夢は妙に落ち着いて言った。
「心配なら不要なんで、話しは後に.....は?」
突然、幻夢が口を開けたまま動かなくなった。彼の目の前には歪なロボットのようなものがいた。完全なロボットとの違いは動きが滑らかであることだった。その化物は、真っ黒な牙をこじ開け、
「グゥワァーー!」
声高に吠えると、その口から光熱線を放出し、そのまま立ち去ろうとした。すると、
「へっへっへっへっへ〜、残念でした。」
幻夢が展開した箱状の結界を解いた。改良型の霊壁"牢獄結界"(ジェイルバリア)の吸収力で光熱線で防いだのだ。だが、飛びかかろうとした時、地面が爆発し、煙が消えた頃には化物は消えていた。
3
苛立ちながら指定の場所に行くと、話し声が聞こえた。
「結局、来ちゃったね。」
「うるさい、レイ.....。」
幻夢はレイの口を押さえ、話に耳を傾けた。
「依頼は?」
「人探しだよ、ユキメ。」
「分かった、その前に......。」
ユキメは男に近づくと、声を小さくして言った。
「話を聞いてる奴がいる。凍らせるか?」
その言葉に背筋が凍る。相手の男が
「どうぞ。」
と言った途端、幻夢は反射的にレイの手を掴むと、そのまま全力で走った。
「レイ、ごめん。逃げるぞ。」
レイに謝りながら走ったが、
「待ちな。」
その一言で、幻夢の足は止まった。「なんで、お前がここにいるんだ?来るなと言っただろ。」
4
幻夢は、自分を呼び止めた人物 ー ユキメを見て言った。
「あんた、さっき俺を殴った....。」
「朱江雪女。(しゅえゆきめ」
そう名乗った彼女に、レイが食ってかかる。
「なにの用です?」
雪女とレイは少しの間、睨み合ったがやがて雪女が言った。
「あたしたちの会話を、盗み聞きした。」
「バレてた。」
頭を抱える幻夢と、どうだと言わんばかりに胸を張る雪女にはさまれて、レイがおろおろしていると、
「よしっ、仕事にかかるか。」
雪女と話していた男の声が響き、幻夢は
「一時休戦だ」
と雪女に背を向けたが、
「オール・リジェクター。」
雪女が呟いた言葉に反応して、気づけば ー 雪女の首に手をかけていた。正気に戻ったのは、雪女に突き飛ばされレイに抱きとめられてからだ。
「条件反射だな、その反応....。」
「次はない、覚えとけ。」
「...............はいはい。」
ピシッ!
「いてっ!」
額を指で弾く音と、幻夢の悲鳴が響いた。
「お前、絞めるぞ?」
幻夢は指を鳴らすが、
「絞めてもいいぞ、お前なら、な。」
雪女は頬を染めて言った。
「好きな男の手にかかって喜ばない奴はいないさ。」
「はあ!?」
呆れた声を出す幻夢に、雪女は少しづつ近づいた。幻夢は素早い動作で飛び退くと、ーー そのまま逃走した。
「あっ、こら!ちょっと待ってよー!」
雪女とレイもその後に続いた。
数分後...
「相変わらずだなぁ〜。」
そう言って笑う男 〜 潜在能力"神聖"の使い手、銀翼エイデンに幻夢は文句を言った。
「笑うなよ、馬鹿が。」
その言葉に、エイデンの眉間に皺が寄った。
「いちいち馬鹿って言うな。」
2人が軽く睨み合っていた時、幻夢の背中に柔らかい感触が当たった。
「捜すの大変なんだから、あちこち行かないでよ。」
「そうだぞ、彼女である私を置いていくんじゃないぞ」
幻夢が後ろを見ると、レイと雪女が背中に体をもたれかけていた。
「分かっただろ、これの大変さが今。良かったら、2人を頼みたい。」
エイデンが頷くのを確認して、その場を立ち去ろうと来た時、レイが幻夢の腕を掴んだ。
「なんで、そんな冷たいこと、言うの?私、なにか悪いこと....。」
「お前のそういう所が、今の俺には邪魔なんだ。悪いけど、お前のその性格だ。戦闘中に割って入って怪我でもされちゃ.........。」
だが、その言葉は最後まで続かなかった。雪女が幻夢を殴ったのだ。よろめく幻夢を睨みながら、雪女はレイに言った。
「行こう、みんなの所へ。」
5
しばらく歩いていると、エイデンが口を開いた。
「お前って、意外と冷たいよな。」
レイたちと別れてから、エイデンがしつこく幻夢を責めた。
「いい加減、黙れ!」
すると、幻夢は叫んだ。
「お前も、あいつらの側か!?」
「?」
「それなら.........。」
首を傾げるエイデンの前で、幻夢は拳を固く握り締め、蛇拳の構えを取ると、
「ちょっ...。」
「消えろ!!!」
拳を彼にぶつけた。その途端、骨に亀裂が入る音が鳴った。軽くよろめきつつも、倒れなかったエイデンは前を見た。彼の眼に映る幻夢の姿は、炎を背負った悪魔にすら見えるほどだった。完全に失神している幻夢は、白目をむいたまま突然倒れた。
「っ!」
エイデンは、咄嗟に幻夢に駆け寄ろうとした。その時、エイデンの耳に不思議な声が聴こえた。
「人間回収車です。(原作にはギザギザのフォントで書いてある)」
声のするほうを見ると、黒いトラックが停まっていた。
「ご不要の方はいませんか?」
トラックはそのうち動き出しそうだ。
「ぢょっ、ぢょっと、まっでぐれ。」
エイデンはトラックを呼び止めようとして、自分の声の声に驚いた。それと同時に、口元にぬるりとした感覚があった。口元を拭おうと、手に血がついていた。おそらく、先程幻夢に顔を殴られた時に、鼻が折れたのだろう。能力で鼻を治しながら言った。
「あの男を回収してくれ。邪魔で仕方ない。」
すると、トラックのドアが開き、中から男が出てきて言った。
「ご不要とあるなら、よろこんで。」
男は、エイデンから幻夢を受け取ると、幻夢を荷台に置き、トラックを走らせた。エイデンは見えなくなっていくトラックに向かって言った。
「じゃあな。幻夢、いい夢を見な、地獄の底で.........。」
そして、トラックが走って行った方向の逆を向いて、エイデンは歩き出した。
***
一方、その頃、
「フフフッ、あの男も馬鹿ねぇ。幻夢を回収した私が1番、彼を必要としているのに♡(←ガチで原作にハート書いてあった。)」
そしてそう言って笑うのは、先程までの男 ーー のフリをしていた少女、死神危羅(死神きら)だ。彼女は、潜在能力"命の狩手"の使い手で、通称「毒の花」。そんな彼女は、以前幻夢にかけられた言葉
「毒の花も悪くなかった。」
が原因で、以来幻夢に熱烈な好意を抱いているのだが、とある理由で彼の前に出られないのだ。
「死んでるって事だしなぁー。」
そう、危羅は幻夢との闘いで死んだことされているのだ。
「まぁ、あれは私のミスなんだけどね!」
危羅は自分を叱りながらトラックを走らせていたが、
「やめたっ!」
突然、ブレーキをかけると、荷台から幻夢を下ろし、やわらかい草の上に寝かせた。
「また会おうね、私の大切な...宝物。」
危羅は幻夢に口付けをすると、トラックを乗り込み、夜の闇へと消えた...。
欲望のままに蛇拳を奮います。