第2話:プレフェクト委員会の誕生
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この章の最後に【大切なお知らせ】があります。
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それでは、どうぞお楽しみください〜!
夕方が近づいていた。アリザルとムーンは窓のそばを通り過ぎ、アリザルはちらりと外を見た。雲が太陽を覆い、夕暮れの空は灰色がかった雰囲気を醸し出していた。それは良くも悪くもなかった。彼にとっては、ただの一つの夕焼けにすぎなかった。
だが、ムーンが何を思っていたのか気になって仕方がなかった。彼女もまた外を見ていたが、彼女の頭の中を理解するのは石が考えているかどうかを知るようなもので、結局、アリザルはその思考の迷路を覗き見るのをやめた。
二人は無言のまま歩を進めた。訓練区域の近く、廊下の奥にアリザルが以前から空室だと知っていた部屋があった。そこはかつて軍の手術室として使われていたため、とても広い空間だった。アリザルがドアの前で立ち止まると、ムーンもピタリと止まり、困惑した様子で彼を見つめた。周囲に目を走らせる彼女に、アリザルは肩までしかない彼女の髪を見ながらも、気にすることなく深呼吸した。
「お前の名前、あの“リリアン王女”と同じだと今気づいた」アリザルは真面目な眼差しでムーンに言った。
「…偶然だ」彼女は短く答えた。
「最近、偶然ってやつが嫌いになってきた」アリザルはつぶやきながらドアを開けた。ムーンは一瞬の迷いもなく中へ入った。
「リーダーにまず期待されるのは…時間を守ることじゃない?」聞き慣れない声にアリザルが顔を向けると、そこには白いシャツに開いたコート、ゆるいパンツと軍用ブーツを履いた少女が立っていた。リベリア出身の少女、ムーリンだった。
彼女はドラゴンとの契約を持っており、そのために戦闘では制御が難しい存在だった。
「王女に捕まってね…そもそもここに来たくなかったんだけどさ」アリザルは椅子に腰掛けながら返した。
「それで、やるべきことは話したのか?」とエミルが少し苛立った様子で口を開いた。
「まあまあ、『学園を守る』だろ?簡単さ。ただ、白紙の紙がある。だったら落書きしようぜ」
「俺の姉貴、そんな投げっぱなしで放置したのか?」と王子のカルロが言った。彼は部屋のビュッフェで一人、食事をしていた。
「もちろん。真の計画は、この“風紀団”を好きなように拡大することさ。だから今ここに最強のメンバーはいない。ムーリンを除いてね。いろんな方面から仕掛けて、学園の尊敬を勝ち取る」アリザルは語った。
「気づいてる? 今のメンバーは6人だけだよ」ムーリンが周囲を見渡しながら言った。
「これから増やすさ。でもまずは制服を。目立つものが欲しい」アリザルは引き出しから紙と鉛筆を取り出して皆に配った。「まずは形式から。次に力。その前に線を引こう。そのためには…訓練だ」
「面白いじゃない…」ムーリンは興味深そうに姿勢を正した。
「その笑顔…嫌な予感しかしない」ずっと黙っていたイーディス・ガイレンが口を開いた。
「諸君、我々の最初の目標は“タイプ3のミュータリス”を狩ることだ。それによって我々の実力を示し、名声を得る」
ミュータリスとは、宇宙エネルギーの影響で変異した人間や動物で、4つの危険度ランクに分類される。タイプ3は凶暴で知性を持たない殺戮種だ。
「お前、本気で俺たちを殺す気だろ?」とエミルが渋い顔をした。
カルロは考え込んでおり、ムーンは少し身を動かしたが、何を考えているかは分からない。ムーリンは興奮気味で、イーディスは全く乗り気ではなかった。
アリザルは「このプレフェクト委員会、やっぱりバラバラだな…」と改めて思った。
「面白いと思うよ」カルロはお茶を飲みながら口を開いた。「でも、お前、正攻法で戦う気はないんだろ?目的は“倒せる”って示すことで、手段はどうでもいい」
「知らない奴らを危険に晒すつもりはない」アリザルは静かに言った。
「なら問題ないな。俺は参加するよ。俺の肩書きがあるだけで名声は上がる」カルロはパンを取りながら言った。
「俺もだ。アリザルがギルドに依頼を出すんだろ?それなら報酬も入るし」エミルが言った。
「私は無理、ごめんなさい。戦いは得意じゃないの」イーディスが断った。
「…参加する。私は医者だ」ムーンが静かに言った。
ムーリンの瞳が輝いているのを見て、アリザルはそれ以上言葉は不要だと悟った。
「完璧だ。イーディス、とりあえずギルドに登録してくれ。狩りの活動に参加するには、いつかは必要になるから。簡単な部門でもいい」アリザルは立ち上がりながら言った。「それじゃあ、準備してくる。会議はこれで終わり」
…沈黙。
「タイプ3のミュータリス!?死ぬわ!」エミルが膝をついた。
「彼、仲間を危険に晒すような男じゃないよ。きっと何か考えてる」カルロは口を拭きながら言った。
「どんな計画でも、失敗する確率は常に50%以上だ。金がなきゃ絶対に断ってたさ」エミルはため息をついた。
「忘れてない? 私がいるってこと。実はタイプ4を倒したことあるよ」ムーリンがさらっと言った。
「マジかよ…そいつ、野放しだったのか!?」
「“摂政”って呼ばれてた。ミュータリスの村を作ろうとしてたの。しかも、タイプ1までいたのよ。…ほんとに不気味だった」ムーリンは回想するように言った。
【ミュータリスの分類】
タイプ1:観察者。基本的に無害だが、見つめてくることが多く、外見が不気味で頭でっかち。
タイプ2:肉塊。スライムのように這い、時に助けを求める声をあげる。倒すのは不可能。
タイプ3:野獣型。理性を持たず、単独行動することが多いが、凶暴性が高い。
タイプ4:人型。理性と宇宙エネルギーの制御を併せ持つが、狂気に堕ちている。
エミルはムーリンを見つめ、イーディスに目をやった後、ムーリンを指さして言った。
「こいつ、何でできてるんだよ…」
ムーンは突然立ち上がり、無言のまま部屋を後にした。
「今の子、リリアンでしょ?」ムーリンが言った。
「名前が王女と一緒だけど、それって混乱しない?」イーディスが聞いたが、カルロは興味なさそうだった。
「アリザルは“王女リリアン”ってわざわざ言ってる。敬称を使うなんて、よほどの時じゃなきゃしないだろ。だから区別はできてる」カルロは淡々と返した。
「はぁ…ここから面倒なことになりそうだな」エミルは床に寝転んだ。
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アリザルは売店でツナサンドを買っていた。シンプルだが彼にとっては美味しい昼食だった。角を曲がると、数歩先にムーンが立っていた。アリザルは、彼女もお腹が空いているのかもしれないと考えた。
「頼めばいい。俺が払う」アリザルが言うと、ムーンは売店に行き、ハムサンドを指さした。アリザルは「あとで払う」のジェスチャーをして、店員はそれにうなずいた。
すぐにムーンは食べ始めた。
「ムーリン、どう思う?」アリザルが尋ねた。
「…うるさい」ムーンは答えた。
「彼女の力は貴重だ。君にも俺にも、護衛が必要だと思ってる」アリザルはサンドイッチにかじりついた。
「…分かる」ムーンは言った。
(本当に分かってるのか?)アリザルはそう思いながらも、口には出さなかった。
「じゃあ、放課後に新しい家を案内しよう」そう言って、二人は歩き出した。授業の終わりまでは、あと2時間だった。
まずは、この章を読んでいただき、本当にありがとうございます。
そして、もしこの作品を追ってくださっている方であれば、改めて心から感謝いたします。
あなたがこの世界を読んでくれていることが、私にとってとても嬉しいことです。
その思いから、一つ大きな決断をしました。
――今後、『アルケミスト』は毎日更新されます!
この作品の世界は、ゆっくりと丁寧に進む物語です。
だからこそ、更新のペースが遅いと読者様を退屈させてしまうかもしれない…そう思いました。
そこで、これからは一話一話を短く・読みやすくし、その分こまめに更新していく方針にしました。
この決断があなたにとっても良いものであることを願っています。
ご意見・ご感想など、ぜひお気軽にお聞かせください!