第31話:緊張の高まり
アリザルに新たな脅威が迫る。パウレンとの対峙、その行方は――
一方で、キャロラインの計画が静かに動き始めていた…。
「レイエン……?」アリザル・レンデイラは眉をひそめた。
「あなたは、ある事件に関わりがある。そして、そこから大きな利益を得た」
パウレン・フォン・レイエンはそう言った。
何を指しているかは明白だった。問題は、どこまで知っているのか。しかしアリザルの表情には、一切の動揺が見られなかった。
「何のことか分からないな」
パウレンはため息をついた。
「考えすぎかもしれないけど、どうしても怪しい。エドゥアルト・フォン・マリエンの死にプレフェクト委員会が関与、デイサリンの急成長、リリアン王女との距離の近さ……」
その目が鋭くなった。
「偶然にしては、できすぎている」
「証拠にはならない。恩恵を受けたのは俺だけじゃない。お前の高貴な友人たちにでも聞いてみたらどうだ?」
「もう聞いたわ」
パウレンは背筋を伸ばし、窓の外に一度目をやってからアリザルに向き直った。
「ムーン・フォン・リアルドン、聞き覚えある? アルビノで、よくクリーム色のマントを着てる子……」
アリザルの手が、ゆっくりと腰の隠しダガーへと下がっていく。
「ダガーを探してるの?」
パウレンは冷たく笑った。
「父を殺したのも、それと同じダガーだった」
アリザルは低く笑い、その目に刃のような光が宿る。
「お前の父は、決して聖人じゃなかった。それは知ってるだろう? なぜ復讐を?」
「高潔ぶらないで。私たちはどちらも、他人の血で金を得ている」
パウレンはそう返した。
「……一本取られたな」
アリザルは片手を上げ、まるで乾杯でもするかのように。
「それで、どうするつもり? 父の仇が目の前にいる。私にとっても、お前は邪魔者。求めてるのは正義じゃないでしょ?」
「アンドレイは、生かしておけって言ってた」
パウレンは面白がるように囁いた。
「ということは……お前は使い捨てか」
アリザルはドアに向き直った。
「構わない。お前の死が見られるなら」
彼は静かに笑った。
「じゃあ……瞬きするなよ」
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アザだらけの少年が、床に膝をついていた。周囲を何人かの少女たちが取り囲んでいる。カメラが地面に落ち、それをミルリがヒールで踏み潰した。
「証拠じゃなかったのか?」ムーリンが囁いた。
ムーン・フォン・リアルドンは首を横に振った。
一人の少女が少年の首をつかみ、持ち上げる。
「白状しろ。さもなきゃ、明日の朝にはバラバラになって五つの場所に散らばってるわよ」
手を離され、少年は力なく崩れ落ちた。
「演説のとき、ステージ上でやるのよ。候補者発表の場で」
ムーリンが命じた。
少年は震えながら頷いた。
ミルリがしゃがみこみ、耳元で囁く。
「来なかったら……あたしが探しに行くからね」
砕けたカメラの最後の音が、彼女の誓いを締めくくった。
緊張は静かに、しかし確実に高まっていく。
再び浮かび上がるアンドレイの名――
彼の真の狙いとは、一体何なのか?




