第28話:新しい書記官(しょきかん)
新しいキャラクター登場。
アリザルに二度勝利した少女、その正体とは——?
アリザル・レンデイラはチェスのチャンピオンだった。大会での優勝は一度きりだったが、それでも学園の生徒の九十パーセント以上より上手だった。悪夢のような強敵とは言えないが、簡単な相手でもない。
今、プレフェクト委員会の部屋に向かって廊下を歩いていると、一人の少女が後ろをついてきていた。
彼より背が低い……というより、背中を丸めていたせいで肩にも届かなかった。髪は短く、前髪で右目が隠れている。表情には緊張が張り付いていた。
明らかにここに来たくはなかったが、不安が彼女を逃がさなかった。
その少女——キャロラインは、アリザルにチェスで二度勝っていた。
プレフェクト委員会の部屋に入ると、今日は誰もいなかった。普段は学園を出る二時間前に集合しているが、今回はただの紹介に過ぎなかった。
「さて、名前は?」
アリザルが尋ねた。
「キャ、キャロライン……」
彼女が答えた。
貴族ではないようだった。通常、姓を持つのは貴族のみ。平民が姓を持つ場合、かつては貴族だったが、全てを失ったことが多い。
「了解。まあ、仕事は簡単だ。君には俺の書記官をやってもらう。教えられることは教える」
アリザルは淡々と告げた。
「う、うう……」
キャロラインは諦めたような、嫌そうな顔をした。どうやら、これが彼女の素だ。
「ほら、面白そうだろ?」
アリザルがからかうように言った。
キャロラインはアリザルを見た。その目には「面白そう」のかけらもなかった。
「ま、まさか……負けた仕返し……ですか?」
彼女のどもりは、緊張ではなく、生まれつきのものだった。
アリザルは返答に迷った。確かに仕返しの一面もあるが、彼女には必要な素質もあった。
「違うか?」
そう言いながら、少しだけ自信がなさそうに聞いた。
キャロラインは、鋭い視線で睨みつけてきた。
「一週間、やってみろ。合わなければやめてもいい」
アリザルは手を上げて、遠巻きに彼女をなだめた。
「こ、ここにいる人たちとどうやって落ち着けっていうのよ!? 王子! 氷の姫! ドラゴンの女の子! そ、それにあんたまで!」
キャロラインが叫んだ。
(そのあだ名はなんだ……?)
アリザルは内心で思った。
誰が誰かはすぐ分かる。だが、自分はどう呼ばれているのか……それを知るのは少し怖かった。
「で、“それにあんた”って?」
恐る恐る聞いてみた。
「女の敵……」
キャロラインは距離を取りながら、呟いた。
「……クソ新聞が……」
アリザルはため息混じりに呟いた。
「で、でも、みんなが信じてるわけじゃないから!」
彼の反応に驚いて、キャロラインが慌てて付け加えた。
実際、信じていない者もいるだろう。ただ、真実よりも噂の方が力を持つのがこの世界だ。人は、真実よりも面白い話に飛びつく。
「と、とにかく話を戻して……」
キャロラインは立ち上がり、不器用な軍隊式の敬礼をした。
「ただし、一つだけ……こ、条件があるの」
アリザルは眉を上げ、続けるように手で合図をした。
「こ、個人的な毛布を持ち込ませてください……」
「……まあ、いいんじゃないか」
アリザルは少し戸惑いながらも了承した。
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その後の日々、プレフェクト委員会の部屋の片隅に、布の塊が転がっているのは日常風景となった。
強烈な個性を放つメンバーたちの中で、キャロラインは毛布の中に隠れるのを選んだ。だが不思議なことに、そんな彼女の姿も、すぐに“いつものこと”として受け入れられたのだった。
キャロライン、ついにメインキャスト入り!!
内気な少女に、どんな冒険が待っているのか——?




