第1話:ムーン(後編)
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アリザールとムーンは学院の廊下を静かに歩いていた。この学院は、かつて城だった建物を改装して作られたものであり、見た目もまるで城そのものだった。初代アルジェリア王にとって、教育こそがすべてだったからだ。もっとも、当初は兵士を育てる工場のようなものだったが、それも世代を重ねるごとに変わってきている。
今、アリザールにとっての問題はムーンだった。彼女に学院の雑学を話すことは、すでに知っていることを繰り返すようなものだとすぐに悟った。作業室の仕組みも同じだ。では、オードリスは何を彼女に見せて欲しいのか?考えるだけで疲れてくる。社交的なエネルギーはすでに尽きていた。ただ、ムーンがあまり話さないのは救いだった。アリザールは屋敷に戻りたかった。そのとき、彼はふと立ち止まった。ムーンはすでに学院の内部を把握しているのでは?ならば、案内すべき教室も分かっているはずだ。
***
リリアンは現在、学院の三年生だった。入学と同時に生徒会長に選ばれたのは当然だった。なにせ彼女は王女なのだ。双子の兄マルコ王子はその役目を即座に拒否した。他人を指導するのが何よりも嫌いな性格だったからだ。
では、なぜ彼女はオードリスの提案を受け入れたのか?
その答えは分からない。だが、オードリスの思惑を完全には読み切れないことこそが、彼女の最大の強みでもあった。さらに、彼をプレフェクト委員会の内部に置けば、それ自体が彼の保護となる。ひょっとすると、それこそがオードリスの真の狙いなのかもしれない。
今、彼女の頭を占めているのは、プリフェクトを紹介するための演説だった。この組織は、言うなれば地雷原のようなものだ。学内での戦闘が許可される組織とはいえ、「秩序維持」の名のもとに拳で解決することは妥当なのか?リリアンは、全てが言葉で片付くとは思っていない。だからこそ、この運用方針には賛成している。だが、それは一人の王女としての意見に過ぎず、多数の支持を得られるとは限らない。
はあ……と彼女はため息をついた。アリザールの弁の立ち方が羨ましかった。あの男なら鉛筆一つでも魔法の道具のように売りつけてくるだろう。まあ、商人の家系だから、口のうまさも生まれつきかもしれない。
誰かが扉をノックした。まるで彼のことを呼び出したかのようだ。部屋に招き入れながら、手を借りようかと一瞬考えたが、それはそれで面倒でもあった。
アリザールがそっと扉を開け、ムーンを先に通した。リリアンは姿勢を正し、三つ編みを整えた。ムーンが通り過ぎた後、アリザールが続いて入り、扉を閉めた。彼はリリアンに鋭い視線を送ったが、彼女は柔らかく微笑み、喉を軽く鳴らした。
「リーヤルドン家の方を学院に迎えられて光栄ですわ」
ムーンは小さく唸った。確かに、少し不機嫌そうに見えた。
「ご事情を考えれば、その姓を使うべきでないことは明白ですね。今後は偽名を使うということでよろしいですか?」
「……ここには、どれだけの目があるか分かりません」
「十分ではありません。学院内では安心して過ごして大丈夫です。それに、あなたにはプリフェクトの役職もあります。低姿勢を貫きたい気持ちは分かりますが、『リリアン』という名が広まった方が有利です」
「……支援は?」
リリアンは椅子にもたれ、ムーンの後ろに立っていたアリザールに視線を送り、それから再びムーンを見た。今回は皮肉もなく、ただ真剣な眼差しだった。
「あなたの家族に復讐したいのですか?」
そう問いかけ、アリザールにも座るように促した。
***
アルジェリアには「アルジェリアの十柱」と呼ばれる十の貴族家門が存在する。
この称号は征服者たちの時代まで遡ることができる。超大陸がまだ未開の地であり、力が剣によって築かれていた時代だ。
その拡張の時代に栄えた家々の中で、これほど長く、そして鮮烈に輝き続けた家は少ない。その一つが、リーヤルドン家である。
彼らにとって戦いは義務ではなく、芸術である。
戦うことは彼らの信仰、遺産、そして規律の一部だ。しかし、それは筋力だけに限った話ではない。
リーヤルドン家の者は、幼少期から戦術、戦略、複数の戦闘技術、そして何よりも「宇宙エネルギー使用者との戦い方」を叩き込まれる。
その耐久力、戦闘力、そして戦術眼が、リーヤルドン家を貴族社会の中における「生ける要塞」として位置づけている。
つまり、彼らは何世紀にも渡って血と鋼と意志で、その地位を守ってきたのだ。
特にアルジェリア建国から最初の百年は、血に塗れた歴史であり、その多くがリーヤルドン家によるものだった。
アリザールはふと窓の外を見た。エルミラ族の一人が掃除をしていた。この土地は元々、彼らのものであった。
「……なぜ、王女が私を助けるのですか?」
ムーンは、メイドが出した紅茶を一口飲んでから尋ねた。
「それは、取引として悪くないから。でも本当の問いは、『私はこれで何を得るのか?』よ」
リリアンは机の上に手を置いた。
「私は、自分の計画にとって邪魔なリーヤルドン家を取り除いて、王座に就きたいだけ。深い理由なんて必要?私はただ、新しいアルジェリアを作りたいの。そのために、歩き出す前に邪魔な石を取り除いているだけよ」
「ムーンの学院入りは、どれくらい前から計画されていたのですか?」
アリザールは状況を整理しながら問いかけた。少なくとも、オードリス、ムーン、そしてリリアンは以前から話し合っていたに違いない。
「……オードリスが私を見つけたのは一ヶ月前。回復も助けてくれた」
「一ヶ月……それだけの時間があれば、君は死んだと思われていたか、無価値と見なされていた可能性もある。でも、それは誰が君を殺そうとしたかによる」
ムーンは眉をひそめた。
リリアンが続けた。
「アンドレイ・フォン・リーヤルドン……あの男は、自ら目で死体を確認しなければ気が済まないタイプよ」
アリザールは紅茶を見つめながら呟いた。
「つまり、君を甘く見ていないということか……」
「まったく厄介な相手だね……。さて、まだプリフェクトを見せなければならない。話の続きはそのあとで」
そう言ってアリザールは立ち上がった。
ムーンは彼の背中を見つめ、それからリリアンに視線を戻した。そして自分の手を見つめてから、片手をリリアンに差し出した。
リリアンは微笑み、その手を取った。
「私たちを信じて、ムーン。一緒に戦えることを誇りに思うわ」
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