第27話:パウレンの物語
パウレンの物語が動き出す――その真の目的とは?
一方、アリザルは謎の少女をスカウト…まさかの新メンバー加入?
パウレン・フォン・レイエン――レイエン家の莫大な財産を一身に継ぐ唯一の相続人。
父は〈チェス殺し〉と呼ばれる人物に暗殺され、母はさらに以前に亡くなっていた。ひとり娘である彼女に、すべてが遺されたのは当然だった。
パウレンは自室へ入り、写真、地図、メモで埋め尽くされた壁の前に歩み寄る。父の仇を追い続ける日々。その糸は、ある一人の容疑者――アリザル・レンデイラ――へ伸びていた。
証拠こそ掴めていないが、彼の周囲には不穏な出来事が多すぎる。しかも彼はデイサリン社の共同経営者であり、潤沢な資金の出所もそこにあるという一次情報まで持っている。
さらに、エデュアルド・フォン・マリエン事件――不可解にもデイサリンを含む企業群が利益を得た。
――なぜプレフェクト委員会のメンバーが二人も、あの夜あの場所にいたのか?
犯人と断定はできない。だが事情聴取すべき相手としては十分だ。
とはいえ今は、まず選挙で彼を敗北させる方法を探る。
もう一つの疑問。それは学院長オードリスの露骨な肩入れ――彼女と王女リリアンはいつもアリザルと行動を共にし、息もぴったりだ。デイサリン社も王女とつながっている。
パウレンは考え込む。直感は鋭い――だからこそ学園新聞部を率いられる。が、記者としては材料が要る。点と点をつなぎ、仮説を立てる根拠が欲しい。
関係があるのは分かっている。だがどうやってアリザルに近づく?
彼は常に仲間に囲まれ、とくにエルミラ族のミルリが危険だ。
パウレンはベッドから起き上がり、その端に腰を下ろした。
――ジャーナリストになりたい。情報を掘る衝動は止められない。
守りが固いからといって、引き下がるわけにはいかない。
考えろ、組み立てろ、実行しろ――。
立ち上がると、ホワイトボードにアイデアを書き殴り、線で結ぶ。やがてひらめいた。
――プライベートインタビュー。
自分の立場と今日のイベントを利用すれば、二人きりの時間を作れる。
許可を取るのは簡単だ。新聞部は常に行事を仕切っているし、誰もが〈人気候補〉の本音を聞きたがっている。
彼女は用紙を取り出し、企画書を書き始めた。候補者の素顔に迫る連続インタビュー――軽いプライベート質問と政策、そしてユーモアを交えた構成。
本命の質問は別の紙に記す。
* * *
徹夜明けの朝。パウレンは学院長オードリスの執務室を訪ねた。
「候補者の一人を中傷したそうね」
開口一番、オードリスが言う。
「部員が私の許可なく記事を出してしまいまして。すでに処分しました」
パウレンは即答した。もちろん真っ赤な嘘だ。
学院長はじっと彼女を見つめる――が、追及はせずスルーした。
「それで、今日は何の用かしら?」
「この企画を承認していただきたいんです」
パウレンは企画書、許可申請書、質問リストなどの束を差し出した。
* * *
「チェックメイト……」
少女がビショップを滑らせる。
アリザルのキングは逃げ場を失った。彼は通常、速攻と一点突破で相手に防御を整える暇を与えない戦法を好む。だがこの少女は誘い込みに徹していた。
「これで二度目か……」
アリザルは深く息を吐く。最近、勘が鈍っている。
「決めた。お前を俺の弟子にする」
彼は右手を差し出した。
「え、ちょ、ちょっと待って!」
少女は椅子ごと後ろへのけぞる。
――こうして、プレフェクト委員会に新たなメンバーが加わった。
新たな駒が加わった時、盤上は再び混乱する。
見えない指が、静かに策を進めていた。




