第26話:進行中の陰謀
アリザルが情報操作の被害に遭う中、リリアンは次なる一手を静かに仕込んでいた。
学園の政治的な力関係は、昔からほとんど変わっていない。
まず最上位にいるのは、アレギリア王国の王子と王女——リリアン・フォン・アレギリア と カルロ・フォン・アレギリア。
次に続くのは、高貴な家系の子供たち。
その下に、中流と下級の貴族。
そして最後に、奨学金で入学を許された平民たちだ。
だが、そんな彼ら全員の上に、もう一つの“フィルター”が存在する。
——それが、学園新聞部である。
情報媒体として当然のように、学園内外のあらゆるゴシップや重大ニュースが、彼らを通じて拡散される。特に注目度の高い話題であれば尚更だ。
“プライバシー”という言葉は、彼らにとって無意味だ。誰かが話題に上れば、彼らはそれを利用して評判を落とすことも、逆に高めることもできる。
けれど……それも結局は、「どれだけ新聞部と良い関係を築いているか」による。
『アリザル・レンデイラは三人の美少女と関係がある!?アリザルのハーレムに潜入取材!』
「ちょ、アリザル、評価してあげなよ……写真の撮り方、うまいじゃん、はははっ!」
カルロ王子は笑いながらそう言った。
掲載された写真は、意図的にそう見えるように撮られていた。ムーン、ミルリ、そしてムーリンが、アリザルのすぐ近くにいる構図だった。
アリザルは、ただ静かに“情報操作”の力を実感していた。
もちろん、彼はすぐに否定した。だが、ダメージはすでに広がっていた。数週間前、学園新聞部の記者に冷たく当たったせいだろうと、彼は心当たりがあった。
リリアンも同じようにきつく言ったはずなのに、当然ながら彼女に手を出す者などいない。
……その差が、結局アリザルの社会的損失につながった。
「……もう、社交的に回復する見込みはないな……」
アリザルはぼそりと呟いた。
——まあ、そもそも興味なんてなかったけど。
「……でも、何かしらの対応は必要だよね?」
ムーリンが言った。
「……捕まえる」
ムーンが低い声で続けた。彼女の目には怒りが宿っていた。
「……なんで他の二人なんかと……」
ミルリがポツリと漏らした。
その言葉に、全員が一瞬視線を向けたが、誰も何も言わなかった。
「……彼らの手口をそのまま逆手に取るとか?プライバシー侵害で訴えるみたいに?」
アリザルが気まずい空気を断ち切るように言った。
「それ、意外と簡単かもね。奴らの弱点はまさにそこだし。どこにでも入り込んで撮影しようとする」
カルロが頷いた。
「いいね。じゃあ、現行犯で捕まえるだけでいい」
アリザルが微笑んだ。
* * *
「ふふっ、思ったより簡単だったわね。私は何もしなかったのに」
リリアンは新聞を見ながら微笑んだ。
その目の前には、記者の少女が立っていた。どこか不安そうな表情を浮かべている。
「アリザルに勝つためには……」
リリアンは新聞を机に置きながら、静かに続けた。
「……傷ついてるうちに叩き続けるしかない。今度は、あなたの番よ」
彼女——パウレン・フォン・レイエンは身をこわばらせた。
リリアン王女はアリザルを昔から知っている。友人としてだけでなく、時には敵として。まるでこの瞬間のために何年も準備していたかのように。
「それで……名前はなんて言ったかしら?」
リリアンが椅子に座り直して尋ねた。
「パウレン・フォン・レイエンと申します、リリアン様。必ず勝利をお届けします」
パウレンは深く一礼した。
——パウレン・フォン・レイエン。
彼女は、アリザルとリリアンに人生を壊された者の娘だった。
陰謀が再び動き出す。
ゆっくりと、誰もが再び盤上に駒を置き始めていた。




