第23話:穏やかな日々
穏やかな日々が続いている――
仲間たちは、それぞれの「人間らしさ」を取り戻しつつあった。
ミルリは赤いカクテルドレスを見つめていた。
体のラインを強調する細身のドレスだったが、彼女の好みではなかった。
――私はこういう挑発的なの着ないんだけどな…。
「これ、欲しいの?」それでも彼女は言った。
「かなり高いですよ…」と店員が答える。
そのドレスは、丁寧に育てられ守られた特別な蚕から作られた高級な絹製だった。
その価値は非常に高かった。
そう説明されたが、ミルリの頭に浮かんだのは――
(プレミアム蚕…)
「面白いわね、それ、いただくわ」
――そして買った。
今日はミルリの日だった。
アリザル・レンデイラは、彼女のわがままを全部受け入れた。
一緒に街を歩き、公園に寄り、食べて、休んで――
ミルリにとって、それは人生で一番幸せな一日だった。
だからこそ、夕方があっという間に過ぎてしまった。
家に戻る途中、空は橙色に染まり、星がちらほらと顔を出していた。
ミルリはゆっくりと、楽しげに走っていた。
街灯の柱にくるくると回って、じゃれつくように遊んでいた。
アリザルは考え込んでいた。あの日からずっと耳にするあの声のことだ。
それは心の声でもなければ、何かを促すものでもなかった。ただ、問いかけてくるだけの存在だった。
――けれど今日はそのことを考えている場合ではない。
気を抜けば、せっかくの一日が台無しになってしまう。
「ところで、そのドレスたち、どうするんだ?」
アリザルが問いかける。
「うーん、とりあえず取っておこうかな。いつか使うかもしれないし……あっ、着て見せようか?」
ミルリの提案に、アリザルは微笑んだ。
あの頃のミルリが、少し戻ってきた気がした。
アリザルは彼女に近づき、頭をそっと撫でた。
ミルリは嬉しそうに笑い、彼の手に自分の頭をぐいっと押し付けた。
「……もうちょっと大人になったらね」
アリザルはもうすぐ十七歳になる。十八になれば、父親から屋敷を取り上げられる。
だからこそ、アリザルはその前に動く準備をしていた。
事業、計画、すべてはそのためでもあった。
――冷静に見れば、うまくいってる方だ。
けれど今は、そのことも忘れた。
「ふふ……その頃には、もっと短くなってるかも」
とミルリが答える。
「それがまた、いいんじゃないか」
アリザルはそう言って、彼女の前を歩いていく。
ミルリの胸がどくんと鳴った。
「そ、そんな一面があったなんて…! 先生!」
顔を真っ赤にして叫ぶミルリに、アリザルはただ笑った。
「オレも知らなかったよ」
二人は笑いながら歩き続けた。
やがて、屋敷に戻ってきた。
ムーン・フォン・リアルドンはリビングで読書をしていて、ムーリンは軽食をつまんでいた。
最近、ムーンはムーリンにべったりだった。
目覚めた後、記憶があいまいで、時には忘れることもあったが、少しずつ現実に根を張ってきている。
ムーリンは一見そう見えないが、不安そうだった。
最近は皆の面倒を見ているが、特にムーンに対しては気にかけていた。
ムーンはなかなか眠れない夜が続いていたのだ。
時にはムーリンが一緒に眠ってやらないと、ムーンは眠れなかった。
アリザルは心の奥で、もうあの失敗は繰り返さないと誓っていた。
だが――
それと引き換えにしか、人としての温もりを手に入れられなかった。
失って、ようやく地に足がついたのだ。
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