第20章:誰も安全ではない
アンドレイ・フォン・リアルドンは、確かに爪痕を残した。
「嵐の後には静けさが訪れる」と、誰もがそう口にする。
だが――
嵐が過ぎ去った後に、何が残るかを語る者はいない。
短剣がゆっくりと彼に向かって伸びる。微笑みも同じように。アリザル・レンデイラは、アンドレイ・フォン・リアルドンが混乱を楽しんでいるのか、それとも殺す行為そのものを楽しんでいるのか、判断がつかなかった。
考える暇などない――最後の瞬間までアリザルは何をすべきかを必死に思案していた…
彼は拳を握り締めた。噛みついてでも、守るならそれでいい、と。
しかし、一瞬のうちに足が短剣を握る手を蹴り落とし、ミルリがアリザルの視界に飛び込んできた。
血を流し、打たれながらも、彼女はアンドレイに向かって突進し、自分の短剣で攻撃した。けれどアンドレイは彼女の手首を掴み、引き寄せ、手の甲で頬をはじいた。
「もっとしっかり教育しなさいよ、あなたの“動物”を、アリザル!」と彼は言いながら、ミルリの首をつかみ締め上げた。
そのとき、アリザルは動くことを決めた。歩くこともできず、言葉も出ない。彼は地面に倒れ、腕だけで這いずった。
腹の痛みは炎のように激しく、ひとつひとつの動作が明らかに拷問だった。しかしそれ以上に彼を責め立てていたのは、自分の仲間が倒れていく現実だった。
彼らの行動は危険だった、確かに。
だが、いつも制御してきた。計画は完璧で、一歩ごとに準備され、すべての動きに意味があった…
だが、彼は信じすぎた…いや、ただ何か重要なことを忘れていた。
アンドレイ・フォン・リアルドン――彼は別の“プレイヤー”だった。
チェスは両者で進めるものだということを忘れていた。誰かが交代で動く権利を持っていることを忘れていた。王もまた動く存在だということを忘れていた。
いいや、そんなことは分かっていた。忘れていたのは、リアルドン家がどれほど危険かということだった。何しろ彼が知っていたのはムーンだけだったのだから…
「放せっ!」とエミル・ヴァラデンが叫んでアンドレイに突っ込んだ。彼はミルリを締め付けていた腕に体当たりし、ミルリはそのまま倒れ込んだ。呼吸はしていたが、それは苦しげだった。
エミルも床に倒れたが、ゆっくりと起き上がった。
アンドレイは彼の腕をじっと見つめていた。そこには短剣が突き刺さっていた…
「おやおや、戦うための腕を無効化するとは、なかなかの判断だ、坊や」と、血が流れるのを眺めながら冷静に言った。「…記念にこれを飾っておこう。“賢く考えた者の日”ってステンドグラスにね」そう言いながら、彼は腕から短剣を抜き取り、腰に挿した。
そしてエミルの剣が落ちていた場所へ歩き、その剣を拾った。エミルは立ち上がり、荒い呼吸でアンドレイを睨みつけた。
立っている姿を見ると、アンドレイは微笑んだ。恐れではなく、彼が立ち上がり、戦闘姿勢を取ったからだ。
アンドレイはエミルへ歩み寄った。そしてムーンが立ち、剣にすがっているのに気づいた。彼女は足を引きずりながら前進しようとしたが、ひざは折れ、再び倒れ込んだ。
ムーンは頭を抱え、叫びを抑えていた。何もできない無力さが彼女を蝕んでいた。起こっていることに、あまりにも多くのものが狂い、彼女の日常と「組まれたプログラム」が無惨に壊されていた。ムーンには許容量の短い限界があり、それが一瞬で暴力的に超えられたのだ。
アンドレイはエミルへ視線を戻し、エミルは再び突進した。アンドレイにとって弱い一撃をかわすのなど容易かった。そのすきをついて、エミルの腹に剣を突き刺した。
それでもエミルは立とうとした。しかしその動きは次第に鈍くなり、やがて止まった。
アリザルはただ視線を落とした。
自分たちは救われたが、ミルリには代償があった。仲間が敵に立ち向かい、代償を払った。イーディスに計画を託したのだから、これが代償だった。
もう何もできなかった…
「この少年は君たちの命を守った…」アンドレイの声が響いた。「…そして、1ポイントを取ったんだ」と彼は続け、負傷した腕を指さした。
アンドレイはアリザルの方へ歩み寄り、髪をつかんで無理に目を合わせさせた。
「見ろよ、君は俺の同盟者2人を殺した。俺は君の味方2人を殺した。お互いに傷ついた…まあ、イーブンってところだな。さて、これで終わりにするのはどうだ?」アンドレイは無造作に言った。
そして――
「ちぃ…アンドレイちゃま、俺の命許して撤退しぃ♪」と、アンドレイはアリザルのふざけたモノマネをし始めた。
「いいだろう、ほら、俺が公正だって見せてやるよ、アリザル」
そう言うと、彼はアリザルの髪を離し、身体を伸ばした。関節が軋む音がした。
そして、彼はただ歩いて去っていった。
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* * *
今日の“物語”では:
エデュアルド・フォン・マリエンが山賊に襲われた。現場にはプレフェクチュラの2名が立ち会っていたが、彼らは命をかけて防御し果たせなかった。彼らの英雄的行為は見逃されなかった。
遺族には補償が支払われ、学園は喪に服すため、全員に1か月の休暇が与えられた。
もちろん、これは本当の目的ではない――アリザルたちが回復し、疑念を持たれないための時間だった。
アリザルの目は虚ろに宿り、ほとんど屋敷を出ていない。計画は成功したとはいえ、アンドレイの介入によってすべてが崩れたのだ。
ムーンは3日間眠り続け、ミルリは回復したものの、うつ状態に陥り、アリザルから離れようとしなくなった。彼女は毎晩、彼と一緒に眠るようになっていた。
ムーリンはそこにいられなかったことを悔やんでいた。援軍はアンドレイの意図で分断されたのだから。
リリアン姫が企業を運営し、定期的に彼らを訪れていた。
夜、アリザルは目を覚まし、ミルリの呼吸が頬に当たるのを感じていた。
アリザルには決断が迫られていた――撤退するか、それとも… 続けるのか?
もちろん、続ける――アンドレイは彼らの前に現れ、圧倒したのだった。
あれは予測不能の“変数”であった。だが、その変数こそが“怪物”だった。
――怪物をどう倒す?アリザルは知らない。ただ、知りたがっている…
背には2人の犠牲を乗せて。イーディスが裏切り者だと分かっていれば、別の一手があったかもしれない。だが、信じた彼女が彼を敗北へ導いたのだ。
信頼することは悪くない。必要だ。だが、行間を読む必要もあったのだ…
アリザルはミルリの頬に触れ、ため息をついた…
もうこれは、リリアン姫を王位に導くことでも、マルコ王子を守ることでもない。
――これは戦争だ…アンドレイ・フォン・リアルドンを倒すものへ。
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* * *
何千年もの昔、銀河が衝突し合った。そこから生じた宇宙の塵が、ある生きうる星に降り注いだ。
その変数が世界の運命を逸らし、すべてを変えた。
人間はより知性を、より強さを、エネルギーを操る能力を得た。
動物すらも、ある植物すらも…
しかし、そのエネルギーは毒でもある。不思議レベルで理解を超えている。
説明できるものもあるが、説明不能なものもある。
銀河を越えて、決して到達できぬ場所で、論理は意味を失う。
私たちが知る物理法則は消え去る。
白い足袋と下駄を履いた足が、まるで海のような地面を踏む。
桜の着物をまとった女性が、虚空を見つめて、その彼方へ歩み寄る…
――受容の概念――向日葵 中村。
この章は、小説の第一部の終わりです…
どうでしたか?
正直に言うと、第一部をついに終えることができて、とても嬉しいです。
この物語は長い間、私の心の中にありました。
それを皆さんに届けることができたことは、私にとって本当に幸せなことです。
登場人物たちは、あまり幸せな終わり方をしなかったかもしれません。
でも、ここからが本当の物語の始まりです。
読者の皆さんへ、そして彼ら自身へ――
もっと穏やかな時間も、必ず届けることを約束します。




