第12章:テーブルの下の駆け引き(2)
経済戦争の種がまかれつつある。
すべての戦いが血で勝てるとは限らないのだから。
リリアン王女は自室にいた。手には薬の入った箱を持ち、窓から城の広い中庭を見下ろしていた。
頭の中には特に多くの思考が巡っていたわけではないが、「心配していない」と言えば、それは嘘になる。
実際、今は多くのことが同時に起こっており、すべてを掌握することは不可能だと分かっていた。
では、何なら掌握できるのか?
彼女は箱を見つめ、ぎゅっと握りしめ、深く息を吸い込んで、決断を下した。
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「ミルリ、ソース取ってくれない?」ムーリンがステーキをかじりながら言った。
隣に座っていたミルリは皿を取り、それをムーリンに渡した。そして自分の肉を切って食べ始めた。
一方でムーンはきっちりとした所作で食事をしていた。
アリザルは三人を見渡し、その性格の多様さに少しばかり圧倒されていた――
そして、追い打ちをかけるように誰かがドアをノックした。
しばらくして、一人のメイドが走ってきた。
「ご主人様、リリアン王女がお待ちです!」
少し慌てた様子だった。
「は?」アリザルはただ混乱した表情でメイドを見た。
とはいえ、彼はサンドイッチを一つ取って立ち上がり、来客の対応へ向かった。
応接室は食堂からそう遠くなかった。数歩歩けばすぐに到着し、リリアン王女の応対をしていたメイドたちはアリザルを見ると一斉にお辞儀して退出した。
「中流貴族のつまらぬ屋敷に王女をお招きするなんて……何の御用で?」
アリザルはわざとらしく不格好な礼をしながら、皮肉っぽく言った。
「ふふっ、厳密に言えば、あなたは中流貴族ですらないし、ここもあなたの家じゃないでしょ?」
リリアンはからかうように微笑んだ。
「……冗談を言ってるってことは、決めたんだな」アリザルはため息をつきつつ答えた。
「つまり、僕の提案を受け入れたということ。ならばこの屋敷は将来的に僕のものになるし、父の束縛からも解放される」
彼はリリアンの正面に座った。メイドが入ってきて、二人に紅茶を出してから静かに退出した。
「うまくいけば、の話だけどね。いろいろ考えてみたけど、公営企業でやると問題が明るみに出た瞬間に潰される」
リリアンはそう言って、紅茶を一口飲んだ。
「でも、完全なペーパーカンパニーじゃだめだ。だから分けるしかない。製薬部門は公に出して、生産は裏の会社で――」
アリザルが続けた。
「その通り。流通ラインを切られないように、最初から実体のないラインを使えばいい。表向きの会社が攻撃されても、本体には実害が出ない。損失さえ補填できればそれでいい」
リリアンはさらに一口飲んだ。アリザル邸のメイドの紅茶を密かに好んでいるのは、もはや秘密ではなかった。
「材料費は安いし、損失は最小限に抑えられる。悪くない案だ。当然、僕たちの名前は一切表に出さない」
アリザルは天井を見上げた。
「……会社の名前、どうしようか?」
「シンプルにいこうよ。デイサリンってどう?」
と、リリアンが答えた。
取引は、一杯の紅茶と名前で締めくくられた。
反撃は、思わぬ方向から近づいている。