第11章:テーブルの下の駆け引き(1)
アリザルの計画はすでに動き出している。
だが、盤上の駒を動かしているのは、彼だけではないかもしれない──。
今日、教団の会議室ではクラシック音楽が流れていた。陶器の仮面をつけたメンバーたちが再び集まり、それぞれが異なる色の高級スーツを身にまとっていた。
「だから言っただろう、あの女が死ぬとは思えなかった…」黒のスーツの男が言った。「あいつはただの王女じゃない」
「危険な一手だったことは分かっていた。だが何かが起こるのは確実だった。刺客との関係は一切断ってあるし、証拠も残させていない。こちらを非難することはできん」灰色のスーツの男が答えた。
「彼ら自身が『病的な恋』という偽装を作り上げたと聞いた。それはつまり、リリアンが反撃を始めたということだ。問題は――どうやって、だ」黄色のスーツの男が話した。
「彼女には面白い仲間がいる。『プリフェクトゥーラ』と呼ばれる集団だが、あれは彼女の発案には思えない。リリアンに忠実な猟犬たちの存在は知っているがな」緑のスーツの男が付け加えた。
「あれはオードリスの差し金だろう。彼女は王女を支持しているし、全力で守るつもりなのは明らかだ。問題は、その“プリフェクトゥーラ”とやらがどれほどの力を持っているかだ」赤のスーツの男が言った。
* * *
アリザル・レンデイラは学園の廊下を歩いていた。周囲の生徒たちの視線を感じる。王が報酬を与えたとか、王女を救ったとか、プリフェクトゥーラが強いとか…そんな囁きが耳に入る。だが、実際には何もしていない。王の報酬も、どちらかといえば口止め料に近い。
そのまま、生徒会の執務室に入ると、そこにはリリアン王女がいた。アリザルがファイルを持っているのを見て、彼女の部下たちは黙って部屋を出ていく。2人きりになった。
アリザルは扉を閉めて椅子に腰を下ろした。
「ここに来るとき、いつも最初はくだらない冗談を言ってたよな」彼は椅子にもたれかかりながら言った。
「最近はそんな余裕もないの。いろんなことが起きすぎて、笑ってる暇なんてないわ」リリアンはため息混じりに答えた。
「じゃあ、その“いろんなこと”を片付けよう。いい提案がある」アリザルはテーブルに書類を置いた。
リリアンはそれを手に取り、数ページめくってからアリザルに眉をひそめた。
「製薬業界に手を出すってこと?」
リリアンの声には、明らかに懐疑が滲んでいた。
「全部じゃない。狙いは敵の資金源の一つを揺さぶること。そして、その揺らぎの中に“ひとかじり”入れるだけ。どうやって? これさ」
アリザルはポケットから小さな箱を取り出した。
リリアンはそれを受け取って開け、中の錠剤を手に取った。白くて小さく、シンプルな形をしている。
「これが俺たちの切り札。簡単に作れて、簡単に飲める。そして、ちゃんと効く――ジェネリック薬だ」
アリザルは自信に満ちた笑みを浮かべた。
商業戦争の火種が、いま着実に育っている。
緊張は、静かに、しかし確実に高まっていく──。
これから現れる問題は、果たして解決されるのか。
それとも、ただ形を変えて繰り返されるのか。