表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/37

プロローグ:チェスの殺人者

※このプロローグは修正・調整を行った最新版です。

もし見落としや違和感があれば、教えていただけると助かります!

ミュリエル・フォン・レイエンは上機嫌だった。

三十歳未満のアルイーサン七名を“とある秘密の宴”へ献上する密約が、たった今まとまったのだ。


──三千万アイラ。


姫君リリアン・フォン・アレギリアがアルイーサンの権利拡大を押し通して以来、取引価格は跳ね上がった。

だがミュリエルはほくそ笑む。新邸宅を買うも良し、更地に私邸を建てるも良し。どこで次の“商品”を確保するか――そんな皮算用を胸に執務室の扉を押し開けた。


笑みは一瞬で消えた。


そこにいたのは、十六にも満たぬ黒髪の少年――アリザル・レンデイラ。

ワイングラスの縁を指でなぞりながら、退屈そうにバランスを取っている。


アリザルと目が合った瞬間、ミュリエルの背筋を冷たいものが這い上がった。

「……どうやってここへ入った?」

頭の片隅でそう呟きつつ後退しかけたところを、背後から誰かに突き飛ばされる。


振り向くと、瀬を詰めた侍女が一人。

憎悪と怯えの混ざる瞳でミュリエルを見下ろし、静かに扉を閉めた。


幾度となく殴り、辱め、使い捨てにした顔だ。

記憶がフラッシュバックし、恐怖とアドレナリンが一気に噴き出す。


足音。

鞘から抜かれる金属の音。

頬を伝う汗と涙。


「被害者の気分はどうだい?」


アリザルの冷ややかな声と共に、銀の短剣がミュリエルの頬を浅く切り裂いた。

悲鳴はかすれ、懇願の言葉だけが漏れる。


「お前の死は忘れられないものになる。──警告として、記念碑として」

刃先が胸元へ移動する。


「な、名前を……名簿を渡す!」


「もう持っている。だが親切に感謝するよ」

少年は薄く笑った。


――そして刃が沈んだ。


* * *


翌朝の新聞一面を飾った見出しはこうだ。

《貴族ミュリエル・フォン・レイエン邸で惨殺》


遺体は執務机に仰向け、シャヴァーサナの姿勢で横たわり、胸には銀の短剣。

足元のチェス盤には駒が二つだけ――ポーンがルークを捕食していた。


盤の下から押収されたのは、人身売買・資金洗浄・盗難美術品取引を示す大量の書類。

「悪人とは聞いていたが、ここまでとは……」

通行人が新聞を掲げ、友人と嘆息する。


通りすがりのアリザル・レンデイラはそのやり取りを一瞥し、歩みを再開した。

白基調に黒パンツの〈レウダン学院〉制服、度なし眼鏡、カーキ色の肩掛け鞄。


蝉が鳴き、夏の陽射しが強いアルジェリア。

チョコアイスを買い、くじで当たった木の棒をポケットへ。

警備兵に学生証を提示して校内へ入る。


講義前に復習しようと廊下を進むが、教室の手前で肩を掴まれた。


「生徒会長が呼んでる」

筋骨逞しい上級生が無表情で告げ、去っていく。


「王女殿下が俺に何の用だ?」

アリザルは溜息混じりに呟き、鞄を預けて生徒会室へ向かった。


扉を開けると、同席していた女生徒二人が慌てて退室。

残ったのはアリザルと、椅子越しに睨みつける少女――


リリアン・フォン・アレギリア。

第二王位継承者にして学園生徒会長。王太子 カルロ・フォン・アレギリア の双子の妹であり、一分遅れて生まれたため継承順位は第二位となっている。

漆黒の髪を一本の三つ編みに束ね、王家の証たる金縁の白い制服を身にまとう。


「あなたの“壮大な作戦”って、アルジェリアに猟奇殺人鬼がいると全国に知らせることだったの!?」

怒声が室内に響く。


「そうだとしたら?」

アリザルが肩をすくめる。


「アリザル・レンデイラ! 計画は極秘が大前提でしょう?」

「いずれ漏れる情報だ。俺は“チェス殺し”をでっち上げて、君の関与を完全に隠した。悪くない手だと思うが?」


リリアンは眉間を抑え、深く吐息を漏らした。

「一理あるわ。でも……その嘘、続け切れるの?」


琥珀色の瞳と、深いカフェブラウンの瞳が交差する。


「任せろ、王女殿下。――残り十一件、必ず片付ける」

読んでくださって本当にありがとうございます!

このプロローグが気に入ったら、フォロー&評価してくれるとすごく嬉しいです!

キャラやストーリーの感想もぜひ聞かせてください。

皆さんの声があるから、執筆を頑張れます!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ