january -1 (巡礼)
勇生は、川に沿って車を走らせて、ちょうど大通りに出る道の一字停止で車を止めた。
霧雨ような雨が降っていた。
風はなく、時間も時間なので人通りはなかった。
ヘッドライトに照らされた先には、中国風のお堂があった。
違和感を少し感じた。
車をお堂先に車を止めて降りてお堂の前まで来た。
鈴の音が聞こえた感じした。
このお堂の言い伝えを思い出した。
このお堂の横には、生きながら仏となった童女が祭られており土の中から7日7晩
鈴の音が聞こえたという伝承を
車のキイに付けた鈴がかすかに鳴った。
目の前にシルエットが浮かんだ。
声が頭の中に流れ込んできた。
「あの人をを助けてください」
女の子の声を感じた。
勇生は、理解した。あの人とは、幸枝のことだと
この世のものざる者からの考えて幸枝のことで間違いはないはずだ
勇生は心の中で
"どうしたらいい"
と思った。
女の子の声が
「まず、あの人の生きていたこと知ってください。」
"なぜ、どういう意味があるの"
「あの人は、忘れているからです。長い時間がそうさせているからです。自分が何者なのかを知らないとずっと漂ってしまうから」
"漂う?"
「あなたの状況と同じですよ、生きているのか死んでいるのかわからなくなっているでしょう」
"・・・・・"
勇生は、黙った。
その通りだ、生きているのか死んでいるのかわからなってきている自分がいた。
どうでもよくなっている自分がいた
「あなたが、そうだからあの人が認識できるんです。でもそれでは、あなたはいつか生きる意味を無くしてしまう。」
"生きる意味ねえ、確かにわからなくなってるかもしれない"
「あなたのその思いが強くなっているから、あなたにはあの人がはっきりと認識できるようになってきている」
勇生の持つ持つ鈴鳴った
「あの人は、きっと知りたくないことがあるのです。それを知るのが怖いからずっと留まっているんです。でも、それは悪いことではないんです。それを教えてください。」
"どうやったら、それがわかるんだ"
「己断の人(自己の欲望を断った人)となり、心底か ら四悪趣に堕落することがないように誓願すればあの人は救われると思います。」
意味深な返事に、勇生ははっとした。
"神仏・・・大師なのか"
「ここは、その方のゆかりの地です。答えが見つかるはずです」
そういう感じを受けるとシルエットはふっと消えた。
勇生は霧雨に濡れた頬を手で拭いながら、自分が泣いていることに気が付いた。
泣くほどのことでもないのに、あの声の主に心を見抜かれていたのが恥ずかしくもあり、なぜかほっとしているのも分かった。
車に戻ると、スマホを手に取ると、検索をかけるとやはりあった
"西高野山"
"八十八ヵ所"
次の日、勇生は図書館の郷土史のコーナーで、このことを調べていた。
八十八か所を回れば、そこに何かがあるはずだと
観光案内書で八十八の地図をもらうと、場所を確認した。
そのいくつかは、車が入れない場所にあった。
バイクかと勇生は思い。
アパートの駐輪場に放置していたバイクのカバーを取った。
もう30年以上前のバイクだ。
動くかも眉唾もんだが、整備することにした。
右のレバーの前輪油圧は来ていて、ブレーキは大丈夫だ。
後輪のフットレバーばエアーを噛んでいるようで当たりがなくスカスカだ
バッテリーはあがっている。
スターターを噛ませて、燃料タンクのコックをプーリーにして何度か
セルを回すと奇跡的にエンジンがかかった。
しばらくエンジンをかけてから、オイルパンからオイルを抜いて、新しいオイルを入れた。
冷却水はまだ色を保っていたので保水だけした。
後輪のブレーキは、エアかみをため何度もフットブレーキペダルを踏んで新してブレーキをオイルが出るまでしてボルトを締めた。
灯火類を確認して、新品のバッテリーに取り換えてからセルを回した。
4気筒249CCのエンジンに火が入った。
タンクバックの上に地図を入れて、バイクにまたがった
クラッチを切って一速に入れてアクセルをひねった。
バイクはうなりを挙げると巡行速度に入り、勇生はバイザーを下ろした。
風は冷たく、冬季用のジャケットでも寒さを感じた。
レバーを握るグローブは既に厳しい寒さを感じていた。
"長距離は厳しいかな"
と思いながらも、勇生は幹線道路から広域農道に入り目的地を目指した