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November-15 (認識)

 幼いころ、よく一人で遊んでいるような子だったらしい。

勇生には、ずっと誰かがいるような気が気がしていた。

それに気づいたのは、中学生のころ郷土史の自由研究で土地の歴史を研究したいていたころに

何度も、戦で自刃した殿様の墓を何度探しても見つからなかったのに、ふと声が聞こえて

再度探したら見つかって、墓の写真を撮ると白い物が映っていたことがあったし、車を運転していて

交差点でエンストして、その直後に信号無視の車が全速力で走っていたりしたり。

外国で、マグニチュード7.7の地震の前に体調を崩して倒壊した教会の下敷きにならずにすんだりと

なんなく、誰かがそばにいる気がした。


目の前にいる彼女が人ならざるものだとしても、理解ができた。

はっきりと見たのは初めてだが、感じることは出来ていた。


鈴には、破邪の力かある、特に真鍮はブラスと呼ばれて、西洋では鐘やハンドベルなどに利用されていた。

つまりは、彼女は魔のものではないという意味だと理解できた。


 「私が、見えるの?」

波の音がやんだ潮どまり中で、声が響く。


 勇気はベッドライトを消して、頷く。


月明りが、彼女のシルエットを浮かび上がらせる。

肩まで伸びた髪と、裾が長めのワンピース、色はよくわからないが明るめの色だということは

月明りが反射して分かった。


 「怖くないの?」


 勇生は頷いた。

ほんとは、怖がるべきなのだろうが、気配はいつも感じていたし、泥棒猫もサギもそばにいる

たとえ、悪さをされたとしてもどうでもいいことだ。


 月が雲に隠れた。

彼女の姿はぼんやりした光に包まれている

近くの街灯の光が通過しているようだ。

背中に悪寒は感じない。


勇生は、背中を向けるとスカリからアジを取り出して、鼻かんをすると沖に向かって投げた。


未練がある霊は、その場所から離れられない。

あの世とこの世の境目だからというになるらして。

トラフィック、送路が交差する。

満月に近くなると、それが開かれるのだという。

交差点で、事故が多いのは送路が交わるからだといわれる。

道に沿って、霊も流れていくからだ。

霊は自分で移動できないから、人に付いて移動する。

人間が死ぬと、21g減少するという測定結果から魂の質量といわれたが、現代では否定されている。

西行が反魂の秘術で作ったとされる人間も魂がなかったともされる。

魂存在のみがあるとすれば、今の彼女なのだろう


波一つない水面に、電気ウキだけが流れていく。


 「きれいね」


と背中から彼女の声が聞こえる。


 「残酷もんさ 生きて餌なんてものは、イギリスでは禁止だもんな フライの国だしなあ」


勇生は、どうしても疑似餌での釣りが性に合わない。

最後ぐらいは、御馳走でという感覚で釣りをしている。

だから、面倒な釣り方をチョイスなのだ


 「私・・・幽霊だよ 世間一般ではそう呼ばれてるけど」


 「そうらしいな、俺も見たのは初めて、いるなという感じはしていたけれども」


 「私は ずっと 海の中にいたから こうなってからは 人と話したのは 初めて」


 「そうなの 俺も 話したのは初めて 意外と普通にしゃべれるのなあ、俺の声 聞こえるんだ」


 「正確には 聞こえていない。 感じているだけ」


  いつの間にか、彼女は 勇生の横に立っていた。

  体は光をわずかに反射して透き通ったようなシルエットだった。

  顔の輪郭はぼんやりとしてよくわからなかった。

  背格好から、若い女性だとは認識できた。


  「いつからそうしていたの」


  「わからない 時間の感覚はないの でも 死んでいるのは理解できる」


  その時、リールのドラグがけたたましく鳴った。

 勇生は、竿を手に取るとドラグを少し絞めた。

 それでも勢いは止まらない。

 すでに50M以上は出でいる


 "エイだな"


 と勇生は確信した。

 この湾では、大型のエイが回遊しているのだ。

 こいつとバトルをするのは、厄介だ。

 ナイロンラインは伸び切って使い物にならなく、まき直しだ。

 さらに、電気ウキは高いからばらすのは痛い損失だ

 決して、勇生はリールのドラグを絞めて、竿の弾力を利用してリールでラインを巻き始めた

 かなり強い引きだ。

 メインラインは5号で、サルカンの耐荷重は5キロなのでラインに傷がなければ切れることは

 ないと思い、リールを巻いた。

 20mまだ寄せたところで、水面で暴れているエイを確認。

 その瞬間、ラインがプツンと切れて竿が跳ね返った。


 「ウキが流れていくね」


 「ああ 仕掛けとウキ一式 2,000円の損失だ」


 勇生は竿のガイドを緩めながら納竿して車のリアドアを開けた。


 「帰るの?」


 「ああ このラインは使えないのでまき直し、ウキもないし、今日は終わり」


 「また 来る」


 勇生はスマホでタイドグラフを見てから


 「明日来るよ」

 といった

 彼女は、勇生の手元のスマホを見て


 「電子手帳なの」


 といって不思議そうに眺めていた。


 「ああ いま これが携帯電話の代わり ポケベルより 便利だよ」


 「ふーん そうなんだ」

 

 おおよそ 彼女の死んだ時期が判定できた。

 1990年代でろう。

 30年以上前だ。

 たしかに、どことなく服装も髪型も雰囲気がある。


 「この 鈴持っていてもいい なんか不都合ある」


 「ないよ でも 幸運もないから」


 「期待はしていない 昔話がいつもハッピーエンドとは限らないから」


 勇生は、ポケットから今では珍しい車のカギを出すと鈴を取り付けた。


 「この場所に来たら、月が出ている時に鳴らしたら、私が見えると思うから」


 勇生は鈴を鳴らした。

 今度は 綺麗な音が響いた

 彼女の表情はわからないが、喜んでいるようにシルエットが揺れた


 「私のは名前は、幸枝」


 という声が聞こえて、彼女は消えた。

 勇生は、車のドアを閉めてエンジンをかけた。

 キイについて鈴が揺れて鳴った。

 勇生の乾いた心に一滴のしずくが落ちた。



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