February-28 (あの頃の君に会えたら)
東シナ海の波が、今日はやさしい波音を立てている。
雨が降っている。
鈍色の雲が空を覆って、もうすぐ夕暮れというのに暗い。
目の前の消波用のテトラホットの上にシギがたたずんでいる。
カラスが、砂浜の漂着物をくちばしでつついている。
かつては、漁業が盛んな地区であったろうらしく、閉鎖された漁業組合の出張所が
残されていた。
さすがに。雨の中をバイクで疾走する体力もなく、今日は車での巡礼だった。
勇生は煙草のステックを加熱器に入れた。
雨は止まずに、フロントガラスをたたいている。
マグボトルからコーヒーを入れると、フロントガラスが曇った。
日は完全に落ちたようで、あたりは暗闇に閉ざされた。
漁港の水銀灯が闇夜と浮かび上がっていた。
「やった。会えた」
という声が聞こえた。
助手席に、雪江が座っていた。
八十八番所、ここで いや 何度回っても会えなかった雪江と会えた。
雪江の姿は朧気ではなくしっかりと認識できた。
声も聞こえた。
生前の服だろうか、淡いベージュのワンピースと黄色のカーディガンがとても似合っていた。
「ああ、うん」
としか、勇生は言えなかった。
逆打ちで会えるかなんて奇跡近いと思っていた。
漂っている魂は、認識できない思っていた。
そこに留まる理由の魂ならば波長が合えれば認識できた。
いまの勇生の波長はそれらに近い物なのかもしれない。
勇生は、胸のポケットら紙を取り出した。
それを雪江に渡した。
不思議と雪江はそれを受け取ることができた。
勇生は雪江の体か、すこし金色の光に包まれていることに気づいた。
「分っちゃんだね。全部」
雪江の言葉に、勇生はうなづいた。
「私も、認識できた。何度も番所を回るうちにわかった」
雪江の声は、凛としていた。
「だから、ユウくんには、送路は開かないよ」
その言葉に勇生はため息をついた。
「わかってたんだ。だから、こうしていつも一緒にいてくれたんだ」
雪江は頷いた。
雪江は、勇生が抱えていたものをすでに理解していた。
既に家族と呼べる存在が機能していないこと。
最初から家族と機能していなかったことも
「家族のことも知っているんだ、滑稽だろう。一緒に暮らした時間より離れている時間のほうが
多いなんて。おまけに、すでに全部終わっているんだよなあ。俺はATMみたいなもんだったよ
気が付けば、居場所もない。誰も俺を気にしてはいない。そんな人生だ。」
勇生はあきらめ気味に話した。
「大丈夫、私をユウくんは見つけてくれたよ。だから、ユウくんは大丈夫だよ。」
勇生は雪江に抱きしめられた。
勇生の体か金色の光に包まれた。
「あなたは、すべてを終わらせたかった。一歩踏み出せば終わる瀬戸際いたんだよね。だから
あの鈴を拾ってから、私はあなたに会えた。終わらせてはいけないと思った。私は、初めて終わらせことを悔いた。」
雪江はつづけた。
「どうして、死んだのか。わかった。でも もしも あなたに出会っていれば死ななかったかもしれない
だって、こんなにも私の為に、何度も巡ってくれた。ずっと見てたよ。泣きながら巡っていたことを
私のことを知ってから、苦しんでいたことも、ありがとうユウくん。・・・私を見つけてくれて」
雪江の最後の言葉で、勇生は安心したように目を閉じた。
鈴の音が心地よく響いた。




