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「……く、クレアさ、ま……」


 ペンダントを受け取ったままのミーナは、両目を瞑りながらも、主人を守ろうとクレアを背後に寄せた。


「ミーナ! ミーナ、大丈夫? なんでペンダント光ってるの!? どーゆーこと!」


 ミーナの影から、クレアが驚きながら顔を出す。光の直撃を受けて、悲鳴をあげてしゃがみこんだ。


 そんな2人をおろおろと見比べて、意を決したルミエールが鏡台からジャンプする。ミーナの手からペンダントを抜き、すとんと床に着地した。

 その瞬間、青い光を発していたペンダントはわずかな色を残して光を納める。


 ミーナには、主人の宝物を、空中に投げ出したように感じただろう。案の定顔を真っ青にした彼女に、クレアは慌てて頭を振った。


「ちちち、違うの、ミーナ! 貴女は、このペンダントを決して投げ捨てた訳じゃなくて!!」

「も、申し訳ございません、クレア様……!」

「ミーナのせいじゃないの! これには深い訳があって!!」


 一方は顔面を蒼白に、もう一方は赤くなったり青くなったりしながら、2人は狼狽える。床から見上げるルミエールが、クレアの肩にぴょこんと乗った。


「クレア様の、ペンダントが……!」


 ルミエールは、クレア以外の人間には全く見えない。ミーナの目には、ペンダントが独りでに浮き、クレアの肩に鎮座している状況である。


「あ、あ……これは、え、と……」

「くれあ! そと、きのうの、おとこ!」


 クレアの肩で、ルミエールが囁いた。

 きのうのおとこ、小さく繰り返してクレアは首をかしげる。


「……まさか、レオナルド様?」

「ミーナ。クレア殿はいらっしゃるか?」


 静まる部屋の中に、チリンと小さく鈴が鳴る。クレアに会釈して、ミーナがすっとドアに向かった。


「レオナルド様。ミーナです。クレア様のお召し物を整えますので、少々お待ちください」

「ありがとう」


 応えに頷き、クレアの元へと戻ってくる。


「……クレア様。申し訳ございませんが、レオナルド様がいらっしゃいました。ドレスを整えましたら、お招きします」

「う、うん……えと……レオナルド様もご一緒に、ミーナにも聞いてもらいことがあるわ。……良い?」

「もちろんです!」

「ありがとう」


 背後に回ったミーナが、クレアのドレスをさっと整える。肩に乗っていたルミエールを胸で抱え、クレアは縮こまって流れに耐えた。


「整いました。レオナルド様をお呼びしますね」

「うん。お願い」


 頭を下げて、ミーナが再びドアに向かう。ぱたりと閉じた扉に、クレアは大きく息を吐いた。


「はぁあー! びっくりした、びっくりしたー! ルミエールのこと、いつか話そうかなとは考えてはいたけど……お母様の、このペンダント……?」

「これ、ひかたね!」

「うん……私が触っても、と言うか毎日触れてはいるけれど、一度も光ったことないよ?」


 覗き込むルミエールと、ペンダントを見つめる。

 削り出したままを、怪我をしない程度になめらかに加工された石。先程までは透明だったが、今は少しだけ水色っぽくなっている。

 ミーナが触れた、青い閃光と何か関係があるのだろうか。


「こんにちは、クレア。失礼するよ」

「こんにちは、レオ。素敵なドレスをありがとう。今日はミーナと選ばせてもらったわ」

「今日も綺麗だ」


 爽やかな笑顔で、レオナルドが挨拶をする。それにぺこりと頭を下げ、クレアはテーブルへと彼を導いた。


「改めて、レオとミーナに。お話したいことがあるの」

「何か問題でもあった?」

「うーんと……」


 何から話したものか、とクレアは唸る。

 席を外していたミーナが、茶器と軽食をワゴンに載せて帰ってきた。


「……まず、は。昨日レオに、昔相棒に名前を付けたことを話したのは覚えてる?」

「もちろん。サラマンダーに乗る前だね」

「ルミエール、って言うんだけど……」


 クレアの目の前で、ルミエールがぴょこぴょこと飛んでいる。レオナルドもミーナも反応していないので、やっぱりクレア以外には見えていないのだ。

 跳ねるルミエールに両手を広げ落ち着かせ、クレアは2人に視線を向けた。


「ここに……2人には見えないかもしれないけれど、生まれた時からずっと側にいてくれる……光、が、います」

「光……?」

「昔は小さかったけど、今は、私の両手くらいに成長していて……さっき、ミーナが見たペンダントが浮いていたのは、この子がペンダントを持っていたから……」

「まあ」


 驚きに目を見開いたミーナが、興奮して手を空中にさ迷わせる。一瞬かすめた指に、ルミエールがぷるると反応した。


「もしかして、クレア様は……我が国に伝わる、“天使様の御使い様”ではないかしら?」

「てんしさまのみつかいさま?」

「ミーナは、隣国の出だったね」


 微笑みを浮かべて、レオナルドが軽食に手をのばす。


「このおむすびという、食事もそう。ミーナは、隣国のある一族の出身なんだ」

「オルスミ族と言います。身体能力が、他より優れていると言われています」

「……! おむすび!!!」


 クレアは皿に盛られていた軽食に、今更ながら大きな声をあげて驚いた。



  

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