魔剣砕きと狩人殺し~チート無しの一人と一匹はニッチに生きる~
魔剣砕きと狩人殺しが出会ったのは、戦場からかなり離れた森の奥だった。
魔剣砕きは戦場で、狩人殺しは森の中でそれぞれ傷つき、休息できる場所を求めて彷徨った挙句に、期せずして、大樹の陰に身を横たえた。
魔剣砕きは獣の臭いで、狩人殺しは血の臭いでお互いに気付いたが、己の強さのみを頼りに生きて来た両者は、目先の小さな危険よりも今すぐの休息と回復を優先した。
いつでも相手を殺すことはできる、と。
魔剣砕きは考えた、この強烈な猛獣の臭いの近くに来れば、負傷した兵士が無事でいられるわけはないと追手は思うだろう、と。見通しも利かない森の中で、不用意に猛獣の狩場に入りたがる兵士は、追跡部隊にも多くはないはずだ。
狩人殺しは考えた、手負いの兵士が無事なのを見れば、猟師たちに追われた獣は兵士を獲物にする暇もなく去ったと思うだろう、と。人と人が殺し合う兵士は、獣を狙う猟師より御しやすい。そして、手負いの人を見ると、人はなぜか、助けるかとどめを刺すかするものなので、獣より兵士の方をかまうだろう。
気は抜かないと心に決めながら、疲労とダメージが一人と一匹の意識を泥沼のような眠りが捕らえ、その奥底へ引きずり込んで行った。