discover ~アディガドォ~
「さぁ、出かけるよ!」
渚の一言で、僕らは出かける事になった。昨日無理矢理女装させられた僕は、未だショックから立ち直れない。だけど、世の中そんな風に甘くはないんだよ…。
「けー君、お着替えしよう!」
皆が寄って集って僕を女の子にしようとする…。皆は元々瀬波さんが所属してるあの変な委員会の人達から守ってくれるんじゃなかったの?それがなんで何時の間にか僕を…。
「慶斗は小柄だから私の服でも入るよね。」
「ほらほら、翔太君は出てって!」
追い出される様にゴロちゃんと翔太が締め出された。あぅ、僕も男なんだけど…。手をワサワサさせながら近付いて来た二人。ほ、本当にするつもりなの…?嫌だよ。抵抗してやるっ!
「留美ちゃん、希ちゃん!」
『了解!』
両側から取り押さえられる。なんでこうなるの…。
「まずはどこに行こうか?」
今の僕、赤と黒を基調としてる服に鎖とかリストバンドとか…。これってパンク系なの?ねぇ、渚…。君はこんな服持ってたんだ。ちょっと意外だったよ。
「ちょっと恥ずかしいけどね。でも、陽雁ちゃんならよく似合ってるし。あげるよ。」
いりません。もうこんな格好二度としないんだから。因みに、昨日決まった陽雁ちゃんの性格は“天然”らしい。はっきりいって、どんな風に行動すれば天然に見せられるのか知らないよ。
「そう言えば、今日は翔太君がハーレムだね。」
確かにそうだね。格好だけで言えば、男子に見えるのは翔太しかいないし。今いるメンバーは僕に渚に夢。留美もいるし、希もついて来てる。人目を集めそうなので、希には普通の格好をしてもらったけど。
「俺はハーレムなどを望んではいない。俺は、俺は…、ケイ。いや、陽雁ちゃんだけいればいいんだ。」
いい加減にしよう、翔太。渚によれば、女装中はこの格好で殴る蹴るは御法度らしいので、止めておく。パンクなんだから、反社会的行動とったっていいじゃん。それに、今どこに向ってるかを考えてよ…。服屋だよ?しかも女物の。目的は僕の新しい服の購入だってさ。兎に角、誰にも今日は見つかりたくない…。
「あれ、宇津木かい?奇遇だねぇ。皆揃って買い物かい?」
遥ぁっ!?なんでこんな所に…。今日に限って“約束”はないの?しかも何でこんな街中に!?僕が不良だった時は、全然こんな場所に来る事なかったじゃん!!ちょっと、誰かうまい具合に追い払ってくれない?相棒にそんな事をするのは嫌だけど、この格好の時は無いって!
「白虎、どうしてこんな場所に?」
ナイス、夢。
「う~ん。ほら、ノラもこんな日は散歩に出かけたいと思うだろ?だからこうやって久しぶりにお天道様拝みに来たのさ。」
ノラは普通に自分で散歩に行けるでしょ…。改めて遥が連れ出す事無いのに。
「あぁ!ちょっとノラっ!!」
気が付いたらノラが僕にジャンプしてきた。久しぶりだね、ノラ。僕の事覚えててくれたんだ。撫で撫でしてあげる~。
「いやぁ、悪いね。でも、ノラがすんなりと人に懐くなんて珍しいのさ。慶斗だって3ヶ月位掛かったものさ。そう言えば、見ない顔だねぇ。南陽の奴かい?」
あぅ、どうしよ…。どうやって言い繕おうかな。留美のお姉さん?いやいや、そこまで似てないし。僕の親戚?駄目駄目、遥は僕と親戚があまり仲がよく無いって知ってるし…。まずもって、僕が喋ったらまずいんじゃないの?
「この子は陽雁ちゃん。私の親戚の子なんだけど、夏休みを利用して遊びに来てるんだ。」
渚、ありがと!
「それでね、どうして喋らないのかって言うと、あまりにも可愛い声だから女の子まで魅了しちゃうんだ。それで、基本的には無口キャラなんだよ。」
前言撤回。渚、それは何処の異次元設定かな?女の子まで魅了する天然系無口キャラ!?無理がありすぎるって。スペック半端ないから!
「ほらほら陽雁ちゃん。挨拶はしないと駄目だよ。」
あぅ…。渚、どうして僕を喋らそうとするのさ、無口系キャラなんでしょ?喋らなくていいじゃん。それに、ゴロちゃん。いつもの事ながら猫と戯れるのはやめて?ノラの爪とか痛いから。まったく、遥は爪とぎも買ってないの?まぁいいや。とりあえず喋らない方向性で行こう。
首を傾げて惚けた顔をして、“挨拶って何?”って感じの雰囲気を作り出すんだ。挨拶を知らないってどれだけ馬鹿だよ!!って突っ込みたいけど、僕視点での天然キャラはこれなんだって!
「し、椎名…。」
「何?遥?」
「こ、こいつ。喋らなくても十分可愛いじゃないか!あたしに一人譲ってくれないかい!?」
何を言い出すのさ、遥!しかも“一人譲ってくれ”?冗談じゃないよ。僕はただ一人だもん。
「だめよ。陽雁ちゃんは今日私たちと遊ぶの。あなたはまた今度。」
渚って、こう言う時だけは押しが強いんだよね…。
「ま、仕方が無いさ。今日は慶斗もいないみたいだね。また今度にするよ。じゃあな、陽雁ちゃん。ノラ、こっち戻っておいで。」
ノラが僕からピョンと跳ねて遥の腕に収まった。ふぅ…。
「さっきはありがと。渚。」
遥と分かれて僕らは再び歩き出す。渚にはさっき守ってもらった御礼をしなくちゃ。だけど…、なんで僕を軽く睨んでるの?別に嫌味を言ってる訳じゃないんだよ?本気で遥の暴走を止めてくれたのを感謝してるんだから。
「38点」
へ?何の事?
「陽雁ちゃん。確かに私は陽雁ちゃんの性格が女の子をも魅了する無口系天然キャラだって言ったわ。だけど、その魅力的な声を発しないでどうするの!確かに無口キャラと矛盾するとは思うけど、無口キャラだって必要最小限な事は喋るんだから。ただ黙ってれば良いって事じゃないの!いい、陽雁ちゃん。首をかしげた動作は正解よ。でも、それだけじゃ駄目なの。もっと陽雁ちゃんの魅力を最大値で前に出さないと!」
まくし立てるように言われた…。うぅ、僕男の子だもん。そんなの無理だもん。魅力的な声なんてできるわけ無いじゃないか…。
「あぅ、渚…。僕そんな声出せないもん。どんなに言われても無理な事は無理だよぉ…。」
なんでだよぉ…。なんで悔しくて涙出てくるんだよぉ…。本当に泣きたい…。
「ふっ、さぁ、俺の胸に飛び込んで来い。」
ボカスカドガグシャボギグベバシッグネッ…。うわぁ~ん、なんで世の中こんなに不条理で非常識なの。誰も僕を男だって認識してくれない。誰もが僕を女の子だって思ってる。遥…、僕は心の奥底のどこかで、君が僕のこの女装を見破ってくれるって、少しは期待してたのに…。みんな、みんな…。
「朱雀慶斗!その格好は完全に俺様への宣戦布告と受け取った!その様な格好をして堂々と表を歩くとはいい度胸じゃないか!その喧嘩買った!覚悟しろぉ!!」
あぅぅ…、麒麟さん…。麒麟さんだけだよ。僕を僕だって分かってくれるの…。本当にありがとう!僕、本当に泣けてきたよぉ…。
「麒麟さん、アディガドォ…」
「この!涙と鼻水で汚そうだと?なんと文字通り汚い攻撃手段だ!このっ、離れやがれ!」