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kick ~麒麟の過去~

~前回のあらすじ~

やっと見つけたぞ!ライダーキィィィィック!!


~予告~

今回で授業編も終わりです。少しシリアスな展開になります。

 無残にもバイクから落ちてくる森のおじさん。グヘッって感じで地面と接吻…。

「リーダー!!」

「誰だ!リーダー蹴り飛ばしたんわ!!」

 森のおじさんの仲間が騒ぎまくっている。僕もキョロキョロ辺りを見回した。北川の残党か?ふと上を見上げれば、森のおじさんの乗っていたバイクから誰かがこちらを見下ろしているのが目に入った。男子用制服のスラックスを着ているけど、太陽が真後ろにあって顔がわからない。

 そんな事を思っている間に、その人物が地面にスタッと降りてきた。

「麒麟さん?」

 そう、森のおじさんを蹴り飛ばしたのは、紛れもない麒麟さんだった。だけど、僕らを無視して森のおじさんにツカツカと歩み寄って行く。

「このクソ親父!今までどこに居やがった!あぁ?山篭りか?深海潜りか?答えろ!!」

 何だかすごい光景が広がっている。え?待った、今麒麟さん何て言ったの?森のおじさんがお父さん!?うわ~、ありえな~い。でも、微妙に理解できるかも…。

「止めろ、リン!俺はただ男としてワイルドさを探究していただけだ。男を目指すお前にも理解できるはずだ!」

「黙れ黙れ黙れ!俺様は女だ!少しばかり男らしさを心掛けてるからと言っても、糞親父なんかと一緒にするな!今すぐ母さんの墓に行って謝れ!!」

 起き上がろうとする森のおじさんを、麒麟さんが蹴る蹴る蹴る。頭、わき腹と体の至る所を…。壮絶な親子喧嘩(一方的だけど…)に何も言えない観衆。“麒麟”だから“リン”か…。いやいや、そんな事より森のおじさんを助けないと。いくらなんでもやり過ぎだって。

「麒麟さん、もう止めてよ。君のお父さん死んじゃうって!」

「朱雀慶斗、我がライバル…。俺様たち親子に介入するんじゃない!」

 今度は僕に向って蹴りを入れてくる。コレは思った以上に早くて威力がある。そこら辺の不良じゃ太刀打ちできないね…。僕は持ち前のスピードを活かしてその攻撃を避けた。しかし、次々と繰り出される蹴りを避け続けるのも難しい。本気を出したいけど、そんな事したら麒麟さんを壊してしまう結果になるかも知れない。それに…、渚の前でそんな僕の姿を見せたくない!僕は麒麟さんの攻撃を避け続けるしか方法が無かった。

王手チェックメイト秘儀、フリーズロック!」

 突然響く留美の声。気がつけば麒麟さんの足元は凍りつき、地面に固定されていた。振り向くと、留美が笑いながら手を振っている。助かったよ、留美。

「森のおじさん!」

 森のおじさんに近づくと、怪我はしているものの、特別危険ではないようだ。体が頑丈なんだね…。

「すまないな、神速。助けられてしまった。」

「お礼なら義妹の留美に言ってください。それよりも、本当に麒麟さんはおじさんの娘なんですか?」

「そうだ。俺の意志を継ぐべき男だ…」

 “誰がお前なんかの意志など継ぐか!それに俺様は女だ!”と後ろから叫んでいる麒麟さん。

「今日は帰って。あの状態だと麒麟さんが話を聞く様には思えないし。僕が事後処理をしておくよ。」

「分かった。任せたぞ、神速。おい野郎共!引き上げだ!」

 ブロロンとエンジン音を高鳴らせ、森のおじさん達は去って行った。



「さて、次に彼女を何とかしないとね…」

 元の姿に戻ったゴロちゃん。ってか、いつ戻ったのさ?

「力が尽きかけたからの。」

 すごく燃費悪いね。とりあえずロープを出してもらって、それで麒麟さんを縛り上げる。全身グルグル巻きにして、その後、留美にフリーズロックを解除してもらった。

「さぁ、麒麟さん。少し話を聞かせてもらうね。どうして急に森のおじ…、君のお父さんを殴り始めたの?」

「殴ったんじゃない、俺様は蹴ったんだ。」

 どっちでもいいよ、そんな事。

「まぁ、神速くらいには教えてやってもいいだろう。数年前にあの糞親父をコテンパンにしたと聞いているからな。貸しと考えてもいいだろう。…当時一緒にいたと言うのは、北川の白虎遥と言う奴か?」

「私だよ。」

 夢が答える。そうだね、あの時は遥が入院中で、気晴らしにドライブに行ったんだっけ。その時のドライブを契機に仲良くなったのが森のおじさん。

 縄でグルグル巻きにされた麒麟さんが話を始めた…。


 麒麟さんの母親は、麒麟さんの小さい頃に病死してしまったらしい。当時から暴走族の一員だった森のおじさんは、不器用ながらも麒麟さんが寂しがらない様にと、麒麟さん自体を強く育てた。それが今の麒麟さんが“ボーイッシュ”にこだわる理由と直結すると言う。確かに、森のおじさんは優しく甘えさせる様な人では無いけどね。そこが美徳だと思う時もあるけどさ。しかし、麒麟さんが中学のころ、森のおじさんは暴走族のリーダーとなって、家に帰る事がほとんど無くなった。しかも、族同士の抗争で負けた相手方が、腹いせに麒麟さんの家まで押しかけてくるので、最初の頃は眠れない夜を何回も味わったと言う。


「糞親父が何を考えている事は、理解できないわけでもない。俺様を寂しくしないする為に、こんな風に育てた事だって、一応感謝はしてるんだ。だけどよ、あの糞親父は母さんに目を向けようとしないんだ!アレだけ迷惑掛けておいて、心労で死んだのにも関わらず、謝ろうともしないし、涙さえ流さない。どうなってるんだよ、アイツは…。人間として腐ってるんだ!だから俺様は許せないんだ!」

 一思いに自分の過去と思いを告げた麒麟さん。聞いてて僕の心が苦しくなった。家族を失った過去、それを悲しまない人。まるで僕の過去だ。え?希のときにもそんな事を言ってたって?あれは無かったことにして。だって、希が家に住むことになった3日後に“希へ。元気にやっていますか?”と希の両親から手紙が届いた。あれは本気で怒ったよ。そんな事はどうでもいい。これからどうするべきか…。麒麟さんの過去を聞いてしまったからには、“はい、さようなら”ではすまない。何かしら僕らも力になるべきだと思うんだ。

「お前ら、俺様にこれ以上関わろうとするなよ。俺様はあいつをぶっ飛ばして、母さんの墓の前で土下座させるんだ。本気で謝るまでな。」

 全身をグルグル巻きにされながらも、帽子のつばの陰から見える彼女の目は、本気だった。

・麒麟の交換日記

俺様に馴れ合おうとしないでくれ。

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