kill myself ~きっかけ~
~前回のあらすじ~
初詣の帰り道、渚と遭遇してしまい、彼女の願いを聞いて困惑してしまう慶斗。彼は更に悩んでしまうこととなった。
~予告~
急展開
あのお正月から二ヶ月が経った今でも、僕は悶々と考え込んでいた。人を殴っている時も、遥と話している時もだ。寒さは日に日に増していき、地球温暖化など考えられない状態。今の時期は“約束”の件数も少なくて、コタツの中でぬくぬくとしている。僕にも懐いてくれたノラを膝に乗せて、テレビをボーっと眺めていた。
「昼飯だよ、慶斗。今日のメニューはうどんさ。ノラ、お前も少し食べるかい?」
「にゃー」
よく僕らと同じものを食べるノラだけど、全然病気になる兆しも見せない。飼い主に似て強いのだろうか。そんな事を思いながらも、僕は再び考え事にはまり込んでしまうのだった。僕は不良を止めるべきなのか?僕は渚を守りたい。でも近くにいれば渚が傷つく。僕が考え事から抜け出したのは、目の前で軽く睨んでいる遥の視線に気が付いたと時だった。
「どうしたのさ、遥?」
「さっき失礼なこと考えてなかったかい?ノラとアタシがどうとか。」
何時にも劣らず鋭い洞察力で…。膝に乗るノラも“失礼な”と言わんばかりに鳴いている。これは失礼いたしました。
「それにさ、相棒のアタシに、秘密で考え事なんてするんじゃないよ。その上相談相手は宇津木と来たかい。あぁ分かるともさ、そんなこと。アタシはアンタの相棒じゃないか。」
不良をやめるやめないの相談なんか出来る訳が無い。その相談をすること自体が遥を裏切る行為になってしまうのだから。今まで相談していた夢からは、“それはけー君が決める事。だけど自分に嘘は付いちゃだめ”って言われた。確かにそうだとは思う。でも、渚を守りたいのは勿論。遥と一緒にいてあげたいと思うのも事実だ。二者択一のこの状態、僕はどうすればいいのだろうか…。
「さぁ慶斗。白状するといいさ。そうでないと…」
ノラが毛を逆立てて逃げてしまった。本能で危機を悟ったみたいだ。に、逃げられそうにない…。あの顔だと暴力を振るうんじゃなくて、精神的に疲れることをされそうな気がする。寝室とキッチン、どちらへ逃げようか思案していると、チャイムが鳴った。不良なら扉を叩くはずだから、集金?いや、まだ月末には遠い。それなら普通の来客?この部屋に客が来たことは無い。
頭の中に、“渚”の一文字が浮かんだ。前にも同じことがあった。そうだ、そうに違いない!脱兎の如く、第三の選択肢“玄関”に飛び出る僕。直ぐに鍵を開けた。立っていたのは渚、ではなかった。一人の男の人。
「朱雀!やっと見つけたぞ!」
顔に見覚えがあって、一瞬殴るのを躊躇ってしまった。そんな中、目の前の男は僕の頭を鷲掴みにする。
「慶斗!今助けるさ!」
鷲掴みにされたのも束の間、今度は男の腹に遥の渾身の拳が入り、その男は気絶してしまう。やっと安心して男の顔を覗く。思考が停止した。
「ふぅ。慶斗、大丈夫かい?…慶斗?」
「この人、僕の担任だ…」
とりあえず居間に寝かせて、座布団を二つ折りにして枕代わりにしておく。先程から、ノラが顔を先生に擦り付けるのも気にせず、先生が起きるのを待っていた。
「ほう、で、コイツは慶斗の担任だと。」
「うん。不登校だから探してたのかも…。」
「“ほっといて欲しかった”とは言わないのかい?」
「え?うん。そうだよ。ありがた迷惑だよ。」
「あ、うぅぅぅ…」
場の空気が悪くなる前に先生は起きた。どうやらノラは先生を気に入ったらしく、初対面にも関わらず懐いていた。彼の胡坐をかいた先生の足の上を新たな住処としたようだ。
「慶斗の担任の先公だそうだね。お茶どうぞ。で、なんで今頃現れるんだい?家庭訪問かい?」
「まずは言わせて欲しい。朱雀、私は心配したんだぞ!警察にも捜索願を出したのに有力な情報が一つとしてこなかった。正月に出会ったと言う奴がいてな、なんとかここまで辿り着いたんだ。」
「それはご苦労様でした。」
「朱雀、不良なんて止めろ。お前らしくない。」
「煩い。僕を理解してくれる人なんて誰もいない。」
「私なら理解してやれる。私はお前の…」
「“担任だから”とでも言うんですか?そんなの肩書きだけで、内心はどうでも良いって思ってるはずだ。」
「そうだ慶斗。もっと言ってやれ。」
毒を吐きながら目の前の担任教師を睨んだ。だけど向こうも負けじと僕をまっすぐ見ている。
「そうだ、私たちは所詮赤の他人だ。分かり合うにも限度と言うものがあるだろう。仕方ない。私は帰ることにしよう。だが、私以上にお前がいなくなって辛い思いをしている奴がいる。…椎名が、自殺未遂をした。今は病院にいる。これでも椎名はお前をどうでもいいと思っていると思うか?じゃあな、朱雀。学校に来たら生活指導室直行だからな。」
先生の話の最後など、聞いていなかった。立ち上がりかけた先生の押しのけ、玄関へ飛び出す。靴を履いて飛び出した。
最寄の病院、遥が一時的に入院していた病院へ走る。受付で渚の名前を出した。指定された部屋へ、看護師だろうが患者だろうが邪魔になる障害物は押しのけて走る。スライドの扉が壊れるくらい思い切り開いた。個室らしいその部屋の窓際、そこに渚は寝ていた。様々な装置がつながれ、その隣には渚の両親が座っている。扉を開ける音で嫌でも気付き、二人とも此方を向いた。
「慶斗君、か?」
おじさんの言葉を無視して渚に駆け寄る。スヤスヤと眠る彼女の左手首には包帯が巻かれていた。
「リストカット。大量出血で気絶してたのを見つけたの。もう少し遅かったら死んでたって言われたわ。だけど、慶斗君のせいじゃないわ。よかったら渚が起きるまで付き添ってあげてくれない?今は麻酔で寝てるけど、直ぐに起きると思うから。…あなた。」
おばさんがおじさんを連れて病室を出て行った。本当なら僕は殴られて当然のはず。そんな事より渚だ。僕がいなくなって自殺をするなんて…。僕は、僕は何をしてるんだろう。良かれと思ってやった事が裏目に出てしまった。僕は彼女を守ってなんかいない、傷付けてしまった。
「渚…」
あの時みたいに渚の手を握った。やっと分かった。僕は不良なんてやってはいけなかった。渚の隣にいるべきだった。最初から彼女が僕を理解してくれてたじゃないか。きっと、渚は考え込んでしまったんだ。それでこんな結果に。だから、彼女が考え込まないように守るのが僕の役目。僕のせいでこんな事が起きないようにしなくちゃいけないのが、僕のやるべき事。すごく遠回りしてしまった。そしてその代償も大きかった。
「ここは…」
「渚!良かった。起きたんだね。僕だよ、慶斗。」
「慶斗…。」
はっきり彼女の前で宣言しよう。不良はやめるって。そして、こんな事が絶対起きないように渚を守るって。
・護国鬼一郎の交換日記
私の好きな言葉は、ベトナム戦争だ!覚えて置くように!テスト範囲だからな。