want you ~最大の敵~
第32話から次話投稿を再開しています。あの英文を消して投稿したので、投稿日時が変わっていないのでご注意を。
~前回のあらすじ~
忘年会兼、新年会を開く朱雀と白虎、宇津木の三人。ほろ酔い気分で三人は初詣に行くのであった。
~予告~
朱雀は…
やっと行列の中間地点まで来たと思ったときは、既に一時を回っていた。単純に考えれば二時頃にやっとお参りが出来る事になる。お友達との初日の出ツアーは三時集合だから、まだまだ時間には余裕がある。
「やめてください!」
人だかりの中で誰かが甲高い悲鳴をあげる。どうせ酔った男が痴漢でもしてるんだろ。お慰み。その内警官か、周りの人が助けてくれるよ。
案の定、直ぐに他の男が動き出したらしい。数十メートルほど離れた場所のここでも、十分にそれは確認できた。だけど、最初に手を出した痴漢はどうやらヤの付くお仕事の人らしく、仲間がやり返す。そんな事が何回もループしている間に、大乱闘となってしまった。その内警官がやってくるかもしれない。今まで捕まったことも手配されたことも無い僕らだけど、なんとなく警察には近寄りがたい感じがある。
「ねぇ、遥。」
「そうさね、行こうか。」
流石は遥、話が分かってる。
「けー君が行くなら私も行く。」
こうして、三人で一旦アパートへ戻ることになった。一時間以上もかけて進んだ道のりを、たったの十分足らずで戻る僕ら。街灯が明るく雪を照らす中、僕らは歩いていた。だけど、やっぱりいるんだね…。
「やめてっ!」
向こうの騒ぎを知ってか知らずか、ここにも酔った男が痴漢しているのが見える。まだ遠くてはっきりしないが、男十人程が女子三人を囲んでいるのが分かる。面倒、だからスルー。
回り道をするのも癪だし、無視を決め込んでまっすぐ進もう。僕は不良なんだ、それくらいドライな性格でもいいだろ?一歩一歩進むごとに前の情景が鮮明に見えてくる。声が、顔がだんだんクリアに見えてくる。
「な、ぎさ…?」
思わず呟いてしまった。男たちに絡まれる女子の中、その中の一人が渚だった。僕は、無視できるのか?無視、できる…。無視、しなくちゃいけない。だって、渚を守るために僕が出来る唯一の方法なんだから…。
「慶斗、あれって…。」
「いいんだ。僕には関係無い。」
誰かがきっと、渚を含めたこの三人を助けてくれるはず。僕なんかが助けても渚は…。
「慶斗がいいならいいのさ。理由は聞かないよ。」
「さ、けー君いこ。」
関係ない、関係ないと思いながら集団の横を通り過ぎる。大丈夫、向こうは気付いてない。直ぐに警察だって来るだろう。僕なんかが出る幕じゃない。
「…助けて、慶斗」
一瞬ギクッとしてしまった。今、渚は僕の名前を呼んだ…?いや、聞き間違いだろう。渚が自分を殴ろうとした僕に、僕なんかに助けを求めるはずも無い。ただの気の迷いさ。そう思って完全に横を通り過ぎた。だけど、渚の声なんかよりもずっと大きい声が響く。
「ひひゃひゃひゃ、なんか彼氏の名前呼んでんぞ、こいつ。来る訳ねぇだろ、助ける?無理無理、こんな状況で助けなんて来ないっつうの。見ろよ、さっきの奴ら通り過ぎたぜ。お前らを守る奴なんていねぇの。」
僕の歩みが止まった。“守る”…?僕は根本的に勘違いをしていたのかもしれない。渚を守る為、近付かないのが一番の方法だと思っていた。でも、それ以前に、僕は渚を守れていなかった。歩くのをやめた僕を振り返る遥と夢。僕はその場で回れ右をして、集団の方に向っていった。僕って馬鹿だなぁ…、自分の不甲斐なさにイラ立って来たよ。
「ん?なんだよ、てめぇ。」
「壊す。」
「はぁ?」
次の瞬間、男の鳩尾に僕の膝がめり込んでいた。喉を抉るように拳を入れた。とりあえず一人目を壊した。それに気が付いた他のメンバー。邪魔に思ったのか僕に襲い掛かってくる。脚をかけて転ばせ、右足を軸にして相手の攻撃を避ける。そしてガラ空きの背中に蹴りを入れる。その背中を使ってジャンプ、別の奴の頭を蹴って壊す。壊す、壊す、壊す、壊す、壊す…。“壊したい”と言う衝動にも似た気持ちが支配していた。
最後の一人を壊した。全員白い雪まみれになっている。所々赤い斑点模様が伺えるが、僕のじゃないから関係ない。何時の間にか一緒に戦っていた遥と夢。
「けー君、まだ一人ここにいたよ。」
「そう、じゃぁ適当にやっておいて。」
「うん♪」
“ギヤァァッァァァァ”と言う悲鳴の後、僕は一息ついてその場から立ち去る。だけど、それは叶わなかった。後ろから回された腕が僕の動きを殺している。か弱くて、本気を出さなくても十分振り切れるはずなのに…。
「慶斗、会いたかったよ。私ずっと会いたかった。あの日の事なんて気にしてないよ。何も慶斗が負い目を感じることなんて、絶対ないから。だからお願い!…戻ってきて。」
渚の言葉に苛立ちを感じなかった。でも、ダメなんだ。渚の拘束を振り解いて、向き直る。肩に手をかけて、そのまま突き放した。心なしか強く押してしまった為、渚は転んでしまう。
「どう、して…?」
「次は、絶対に壊す。もう躊躇しないよ、僕は。」
それだけ言い残し、僕は今度こそ立ち去った。本当は渚を殴る気持ちなんて微塵も無い。渚を守る、その為に会わない。だから渚も僕に会って欲しくないと願った結果だった。これでさよならだね、渚。
やっと駆けつけた警官を、横目でチラッと見ながら帰路に着く。直ぐに遥と夢が追いついてきた。遥はもしかしたら悟ったのかもしれない。僕と同じように黙り込んでいた。
「けー君!あの子誰なの!?」
僕はその時は話す気になれなかった。話さなければ、思い出すことも無い。忘れることが出来るから。
その後、初日の出を拝みに行っても、心のモヤモヤ感は晴れる事がなかった。
「けー君。ちょっといい?さっきのあの子だけど。」
「僕の、不良のきっかけ…、みたいな者かな。」
夢だから正直に話せた。渚を傷付けたくないから不良になったこと。だけど、今日の一件で守れてないのかもしれないと思ったこと。そして、何よりも渚の言葉が大きく僕を揺らしている事。
「けー君は優しいんだね。」
違う。僕は優しくなんか無い。優しいのは渚の方。僕はいつも裏切る立場だった。僕はいつも彼女の優しさを無駄にしていたんだ…。
「けー君はどうしたいの?不良やめる?」
それは無理だよ。僕は人を壊す事を楽しんでいる。もう、自分が壊れない為に壊してるのでない。自分の快楽のために壊すことを楽しんでいる。衝動的に起こるこの気持ち。僕は最低の人間に成り下がってしまった。
「そっか。でもそれって、けー君がただ逃げてるだけかもね。私もそう。お母さんがいないっていう理由をこじつけて、どこか逃げたい私がいると思うんだ。不良やってて思ったんだけど、一番強い敵は、他の不良でもない、ヤクザでもない。族でもない。自分自身なんだよ、けー君。」
帰ろっか。と行ってバイクへと向う夢。遥も手を振っていた。自分自身が敵、か…。
・白虎遥の交換日記
不良して、何が悪いのさ?