new year ~家族写真~
~前回のあらすじ~
義兄弟の契りを結んだ、大西雅との再会は、敵同士という風体で起こった。圧倒的なチートスキルで、病み上がりの白虎を鎮めた大西だったが、朱雀を取り返すことはできないのだった。
~予告~
今回は暴力沙汰はないです。
「離しな慶斗!アイツの顔面に一発入れないと気が済まないよ!」
「ダメだって、遥!そんな体で。」
あの後、なんとかアパートまで帰り着くことができた僕ら。騒ぎ立てる遥をなだめながら、包帯を変えようとする。少々血が滲んでいたが、本人の様子を見ている限り大丈夫みたいだ。消毒液をたらすと、痛みに耐え切れなかったのか、横になってしまった。幾分冷静さも取り戻したように見える。
「なぁ、慶斗…。今日のアタシ、おかしかったかい?」
「うん。正直言って、いつもの遥じゃなかった。」
「そうかい。…慶斗のせいだね。」
何でそうなるの?まぁ確かに夢と出かけたのはまずかったかもしれない。
「ごめん、遥…」
「なんで謝るんだい?前にも言ったけどさ、慶斗の謝る意味が分からないんだよ。今回の事も、アタシに非があるのさ。気にしないでほしいさ。」
僕が夢と出かけて、なんで遥に非があるのだろうか。普通なら夢と出かける事がいけないなら、怒られて当然なのは僕なのに。本当に今日の遥は変だと思う。
「本当にどうしたんだろうね、手術で頭をやられたのかも知れないさ。」
そのまま不貞寝する様に、僕に背を向けて寝息を立て始めた。寝てないと思うけど、“ここから出てくれ”って暗示しているんだろう。僕は大人しく遥の寝る部屋後にした。
そろそろ夕食時、いつも遥が食事の用意をしてくれるけど、今日は僕が準備しよう。えっと、包丁包丁…。冷蔵庫の中には食材があったので、カレーでも作ろうと思う。まな板の上で皮を剥いた食材を切って行く。たまねぎを切ってると、当然の様に涙が出てきた。目が痛い…。
目を擦りながらふと顔を上げる。目に飛び込んできたのは写真たてだった。かなり埃を被っている。手にとって埃を拭うと、4人家族が写っていた。父親らしき男性に、母親らしい女性。女性の腕には赤ちゃんが抱かれている。そして二人の大人の前に立つ少女。髪は短いけど、遥にそっくりだった。いや、遥の幼少時代なのかもしれない。遥の家族写真…。彼女の家族は、遥を置き去りにして何をしているのだろうか?だめだめ、遥は知られたがってない。この写真も見なかったことにしておこう。
「遥、カレー作ったんだけど、食べる?」
「うん。」
静かな夕食が始まった。味はまあまあだと思うんだけど…。
「えっと、おいしい?」
「え、あぁ、うまいさ。」
また沈黙。どうすればいいのさ?どうも遥が入院してから気まずい雰囲気が流れてる。
「ごちそうさま。」
いつもなら普通にお代わりするのに、今日は一杯だけでやめてしまった。“洗い物も任せたよ”と言ってシャワーを浴びに風呂場へ向っていく。僕も食べ終わって洗い物を片付けると、遥が上がってきた。
「開いたよ」
そのまま寝床まで直行してしまう。どうも僕とはあまり会話をしたくないみたいだ。いつもお風呂上りに飲むビールさえ手につけないなんて…。
明日は早く起きようと思って、僕も手早くシャワーを浴びて押入れに向う。そこが僕の寝床だから。だけど、遥の寝る部屋の押入れなので、遥を起こさないようにだ。たった数畳の狭い部屋を、足音を立てない様に歩く。押入れの戸に手を掛けたとき、僕の足首が掴まれて引きずられるようにされてしまう。
「遥!?」
「慶斗。…アタシと宇津木、どっちが大切だい?」
突然の質問だった。遥と夢、どちらが大切か?決まってるよ。勿論相棒の遥の方が大事に決まってる。
「遥に決まってるよ。」
「そうかい。嬉しいよ。」
ぐっと抱き寄せられる。髪からシャンプーのいい匂いがする。だんだんその匂いは強くなる。
「んっ…」
唇が熱を持ち始める。顔まで真っ赤になって行くのを実感した。なのに頭は逆に真っ白に染まっていく。僕、遥とキスしてるの…?
「ん、はぁ、これで慶斗はアタシの物さ。」
そのままギュッと抱きしめられて、遥は眠ってしまった。雪の深々と降る寒い夜の事だった。
「慶斗、シンクを磨いといてくれると嬉しいさ。アタシは買い物行って来るよ。」
「うん。いってらっしゃい。」
あの夜から、遥は普通に口をきいてくれるようになった。本人には聞けないけど、どうやらあの出来事は忘れてるみたい。だけど、どこかスッキリした様な顔で次の日には朝食を作っていた。元の遥に戻ってくれて本当に良かった。因みに今日は12月31日の大晦日。遥の驚異的とも言える回復力は、あの後数日で包帯いらずの状態にしてしまったのだ。クリスマスは特に何もしてない。一度夢が訪ねて来たけど、その時は遥が応対して直ぐに帰ってしまった。
遥に言われたとおり、台所をピカピカにしておく。その時に再び目に入ってしまった写真たて。どうしようか…。うん、やっぱりこうしよう。遥本人は、年末年始の買い物に出かけた。おせちはお正月には外せないとか。今日の予定としては、年越し蕎麦を食べた後、近くの神社へお参りへ。その後最近お友達になった、あの暴走族の人達と初日の出を見に行くことになっている。さて、気持ちよく新年を迎えられるように、頑張って掃除をしなくちゃ!
「ただいま~。」
あ、遥が帰ってきた。
「やっぱり年末の買い物は大変さ。水一杯貰えるかい?…これ」
「はい、お水。ゴメン、掃除してたら見つけてさ。僕は、遥と遥の両親に何があったのか知らないし、聞こうとも思わない。だけど、家族は家族だから。僕にとっては家族写真があるだけ、羨ましいよ。」
予め決めていた言葉をかける。本心から僕はその写真が羨ましい。僕の周りにはそんな写真一枚も無い。遥は写真たてを手にとって見つめ、そして抱きしめた。
「そうさ、家族は家族。ゴメン慶斗…、アンタが何も言って無かったら、アタシ怒鳴ってたよ。だけど今は慶斗が家族さ。」
遥の言葉が嬉しかった。ちょっとホロって来てしまう。僕はまた掃除を続けるのだった。
『乾杯!』
グラスを互いに打ち付けあいながら、グラスに入った酎ハイを煽る三人。
「で、なんで宇津木がちゃっかり上がりこんでるんだい?」
「いいじゃない、ねぇけー君。」
「折角だから人数が多い方がいいよ。」
「慶斗に手ぇだしたら、ただじゃ置かないからね。」
そろそろ年越しパーティーを始めようと思った頃、アパートの前に車が止まる音がして、その後チャイムを鳴らしたのが夢だった。反対する遥を押しのけるようにして上がった夢は、そのままパーティーにも参加することになったのだった。
「今年も色々な事があったね、けー君。」
うまく遥をスルーしながら、夢は僕に尋ねかけてくる。そうだね、僕がここに住み始めてからもう4ヶ月が経つんだ。遥にも夢にも出会えたし、ある意味充実してたと思う。
「アタシたちは喧嘩ばかりで変化が無かったけど、慶斗は大きく変わったさ。」
「それって、暴力的になったって事?」
「ううん。違うよ、けー君。確かに喧嘩が強くなったけど、心も強くなったと思うよ。あれだけ大変な事があったのに、今はすっかり落ち着いてる。」
夢の言葉には考えさせられる物があった。確かに今の僕は落ち着いてる。だけど、それは不良として人を殴り、壊してるから。言い方を変えれば、不良と言う肩書きに依存している。これは本当に正しい事?一瞬渚の顔が横切ってしまい、嫌だった。イライラが募ることはもう無い。それが壊すからなのか、それともイライラを生み出す、あの電話がなくなったせいなのか。僕には分からない。だけど、ただ一つだけ言えることがある。“元の生活には、もう戻れない”ことが。
「けー君?」
「慶斗、どうした?そんな暗い顔して?」
「あ、うん。なんでもないよ。さ、パーティーを続けようよ。」
アルコールを飲んで、遥の作った料理を食べる。テレビを見ながら楽しく時間は過ぎていった。本当に不良?なのかな…。って思う雰囲気だけどね。そろそろ新年へのカウントダウンが始まる。テレビの中継に合わせてクラッカーを引いた。狭い部屋で反響する音。硝煙臭さが鼻に来る。
『あけましておめでとう!』
この時ばかりは、皆で楽しくしていた。少しほろ酔い気分も回ってきた所、僕らは神社へと繰り出す。着物なんて着ず、ただのジャージと言うラフな格好だった。雪の積もる道を歩いて神社を目指す。既に長蛇の列ができており、時間がかかる事は必須だろう。まぁでも、新年だからしょうがないか。
・瀬波瑚南の交換日記
私ともあるべきヒロインが何故出ないのですか!しかも性格設定の紙、“ユリ”ってどう言う事ですの!?責任者出てきなさい!!