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losing ~獣使い~

~前回のあらすじ~

白虎は一命を取り留めた。だが、その代わり朱雀は空腹で死の淵に立たされることに。コンビニのお陰で彼も命を繋いだ後、宇津木にドライブに誘われるのだった。


~予告~

あの人が出ます。覚えてますか?変人さんの一人です。

 適当なバイクを探して夢と僕は歩く。いい感じのバイクを見つけたので、そこに近付く。その間、僕らは注目の的だった。いかにもむさ苦しい顔をした男に、夢が声をかける。

「ねぇおっさん。私たちのツーリングのドライバーやってくれない?」

「あぁ?ガキがふざけてんじゃねぇぞ。」

「ふぅん。んじゃ、勝負しない?私たちが勝ったら夜のドライブに招待してよね。その代わり、私たちが負けたら、私たちの体好きにしていいから。」

「お前ら正気か?」

「何時だってそうだけど?殴る蹴る好きにすればいいわ。大丈夫、運転できるように腕の骨は折らないでおくから。さぁ、好きな人数でかかってきなさい。ほら、私なんかスタイル自身あるんだから。」

 中指だけ伸ばして、“ファック”のポーズで挑発する。以上の発言について少し突っ込んでおきたい。何で“私たち”なのか。少なくとも僕は男だ。いくら目の前に男たちが餓えてる目だからって、それは酷だよ。小声で話したら、“負ける予定はないし、けー君なら性別誤魔化せる”って一蹴された。まったくもう…。

 その一時間後、僕らは唸るエンジン音と共に、海岸沿いの道を爆走していた。運転するのは青あざを目元に作った暴走族のおじさん達。ワンサイドゲーム?そんな甘いものじゃないよ。そうそう、ついでだけど、このおじさん達とはお友達になってもらったよ。色々利用価値が有りそうだしね。

「けー君。星が綺麗だね。私ね、星見るの好きなんだ。」

「そうなんだ。意外にロマンチックなんだね。」

「あ、意外は余計だよ。…こうやって星を見てるとね、私のお母さんに見守られてるって気がするの。私がこんな風に不良やってても誰も何も言わない。お母さんが死んで、私が塞ぎこむくらいなら、自由にさせておけって思われてるみたいなんだ。…私って弱いね。最近は暴力を振るう事を優先させてる気がして仕方が無いんだ。」

 思いの内を喋る夢。どこと無く僕と同じ境遇な気がした。自分を守るために他のものを犠牲にする。本当はやってはいけない事なんだけどね。

「僕も同じかもしれない。自分が壊れない為に、他の物や人を壊したいって思う時がたくさんある。僕が不良を始めたきっかけは、壊すものを手に入れる為。だけど、今は壊すこと自体を楽しんでるようでしょうがない。僕はちょっと自分が怖いよ。」

 何故だろう。彼女の前だと本音がポロポロとこぼれ出てくる。遥とはまったく感じが違うけど、もっと深い所が同じに感じた。

「けー君、白虎が退院するまで私と一緒にいて。けー君となら分かり合える気がするんだ。不良じゃなくて、…友達って言うか、人間として。」

 僕は賛成の意を示した。直感だった、“夢となら分かり合える”気がしたから。遥とは違う。遥は“僕の存在を肯定”してくれる人。僕が暴力を振るっても恐れない。僕がどんな憎悪を抱こうとも僕は僕であると肯定してくれる。だけど“肯定”と“理解”は違うんだ。相棒の遥を裏切る感じだけど、短い間だからいいよね?

 次の日は夢の提案で出かけることになった。でも、周りから見ればデートって事になるよね?平日だし、関係ないか。待ち合わせの駅前に居ると、高級そうな黒塗りの車が止まり、執事らしき男の人がドアを開ける。車から出て来たのは、清楚な感じの白い服を着た夢だった。髪型もストレートから変えていて、まったく違った感じに見える。

「けー君、おはよ。」

「あ、うん。おはよう。」

 少しばかり動揺を隠し切れない僕に、クスッと小さく笑った夢は“さぁ行きましょうか”と促す。そんな緩やかな動作を見て、お嬢様なんだなぁと感じてしまった。

 ウィンドウショッピングをしたり、レストランで食事をしたり、一見不良には見えない事をしている僕ら。特に今の夢なんて、僕が知ってる夢なんかじゃない。“次あっち行こ!”などと僕の腕を取って進む夢は、年齢よりもちょっと幼げに見える。不良という言葉なんて微塵も感じさせない彼女。母親が死んでいなかったらこんな感じだったのだろうか。そして、僕も…。もし父さんや母さんが死んでなくて、一緒に今でも暮らしていたとしたら…。

「はい、けー君。そんな暗い顔、デート中にはダメだよ。」

「あ、あぁ、ゴメンね。」

 差し出された肉まんを受け取る。冬のこの寒さの中だと、とてもおいしい。ベンチに座りながら人通りの流れを見ている。

「一つ、聞いていいかな?けー君。」

「なに?」

「けー君はどうして不良になったの?初めて会った時は全然弱かったのに。」

 僕は話した。夢にだけ自分の過去を話させるのは酷だろう。一つ一つ、数ヶ月前の夏から始まった出来事を話し始める。一瞬だけ渚の事が頭を過った。一種の頭痛に悩まされながらも、その部分だけは曖昧にして話す。

「そっか、けー君も大変だったね。」

 そのまま黙り込んでしまう。なんだか空気が暗くなってしまった。

「そ、そう言えばさ、遥はどうして不良やってるのか知ってる?僕聞いたこと無くて。」

「え?白虎?んもぅ、デート中なんだから、遥の事は忘れてよ~。…でも、白虎が不良をしている理由かぁ…。気にもしなかったかな。」

「慶斗、人の過去をあまり無闇に詮索するもんじゃないさ。」

 ベンチの後ろから聞こえてきた声に僕らはビクッと震えた。腕が僕の首に絡みつくように回され、冬の寒さで冷たくなった耳元に熱い息がかけられる。

「は、るか…?もう退院したんだ…。」

「そうさ、特例でねぇ。んで、慶斗は相棒が苦しんでるのに、デートかい?ふぅん、宇津木もアタシの相棒を寝取るつもりかい?」

「やだなぁ、遥…。僕らはちょっと話をしてただけで…。」

「白虎遥。ここで一度蹴りをつけましょう。いい、“相棒”と“恋人”は違うのよ?」

「夢、話の道筋が逸れて…」

「何言ってんだい、同じような物さ。んじゃ、慶斗。これから肩慣らしに殴り込み行くよ。」

 ベンチから引き摺られるようにしてその場を後にした僕。夢は何も反論ができないようだった。夢、助けてってば…。今の遥、遥じゃないよぉ…。


「慶斗、言っておくけど宇津木がいつ襲ってくるか分からないんだよ。不良ってのはいつ裏切られてもおかしくないんだからね。気ぃ緩めんじゃないさ。」

「分かったよ…。」

 この時の遥は完全に苛立っている様に感じた。僕が話しかけようとしても返事は“フンッ”だったし、“普段は縄で拘束のがいいかもしれない。旗立男フラグメイカーになる前に…”などと呟く始末だった。一部理解できない単語があったけど、縄で縛るのはやめて欲しい。

 そんな感じでやってきたのは南陽高校だった。南陽高等学校と書かれた看板を見たとき、何かが引っかかったけど、思い出せない。僕が不良になる前に何かここに関係が会ったはずなんだけど…。って言うか、ここにはあまり近付きたくない。

「遥、近くの北川高校でもいいじゃん。」

「今日の気分はここなのさ。嫌なら帰りな。」

 いつもと違い、一人でズンズン進んでいく遥。あぁもう、相棒を一人で置いていける訳無いじゃないか。

「だけど、殴り込みって何するの?」

「とりあえず窓割って、出てきた生徒だろうが先公だろうが叩きのめす。それだけさ。今のアタシはマジなのさ。」

 いたって単純な作戦内容だった。確かに遥はコソコソするより、真正面から戦うのが好きだとは分かっている。だけど、いくらなんでも単純すぎるでしょ。

「んじゃ、慶斗も始めるよ。」

 野球部の部室らしき場所から持ってきた金属バットで窓を叩き割る。遥は嫌な笑顔で割っていた。僕も割るけど、なんだかスッキリしない。初めてだった、物を壊してスッキリしないのは。逆にモヤモヤが募る気がする。

「俺の領地テリトリーを荒らす輩はお前らかぁ!」

 教職員用玄関から出てきたのは、右目をアイパッチで隠し、頭には赤いベレー帽、迷彩色の軍服を着て、手にはライフル銃らしきものを持った男の人が出てきた。きっと教師だと思うけど。

「北川の不良ではないらしいな。この護国鬼一郎が相手だ。第一小隊は前方を、第二第三小隊はそれぞれ左右を囲め!」

「サーイエッサー!」

 生徒玄関から、目の前の軍服教師と同じ格好をした生徒が何人も出てくる。唯一違うのはアイパッチがない事だけ。変なのに囲まれたみたいだ。

「ふふふ、あははは。これで逃げ場は無いぞお前ら。さぁ、大人しく軍人会議で裁きを受けろ!」

 声高らかに宣言する軍服教師。後方は校舎の壁に追い詰められ、他三方は人に囲まれている。だけど、素人相手だから負ける気はしないし。きっと予想的に生活指導らしき教師だって、動きは鈍重そうだった。

「遥、行くよ。」

「フンッ。」

 僕、泣くよ?一応背中を合わせていつもの挑発ポーズを取る。そして遥が取り囲む陣形に突っ込んでいった。ちょ、ちょっと遥!

「久々に一人で暴れるのも楽しいさ!」

 勝手に暴走している遥。援護に行こうとしたら、また“フンッ”で追い返されてしまった。あぅ、僕嫌われちゃったよ…。仕方がなく僕は、向こうから突っ込んでくる生徒の殴る蹴るの攻撃をかわし、ガラ空きの背中に蹴りを入れていた。ものの数分で型が付いてしまう。“我が国に栄光あれー!”と言いながら倒れ伏した軍服教師。勿論の事、それを倒したのは遥。何時の間にか窓から他の生徒が見学している。そしてヒソヒソと何か相談しているのだ。

『獣つか…るね』

 獣つか?なにそれ?しかしそれは直ぐに現れた。木の上からカラスがギャーギャー喚き立ち、風がビュウッと吹いた。改めて生徒玄関から出てきたのは、この高校の制服を着た女子。ショートカットのその女子は僕らの前までやって来た。

『けーもーの、つーかーい!けーもーの、つーかーい!』

 “獣使い”とコールが騒ぐ中、軍服教師の腹の上にジャンプしたその女子。完全に息絶えた軍服教師。

「雅さん…?」

「その声、私の愛しき弟、慶斗?」

 そうだった、これが僕の違和感の原因。初めて夢に殴られた後、人の良さそうなオジサンの家で手当てを受けたっけ。その人の娘さんがこの人、大西雅…。南陽高校通ってるって言ってた…。

「まさか、私の慶斗が不良になんて…。だけど私は負けない。道を外れた弟を引き戻すのが姉の指名なんだから!」

「なにゴチャゴチャ言ってるんだい?“私の慶斗”?慶斗はアタシの相棒さ。アンタみたいな馬の骨にやらないよ。」

 遥、“馬の骨”っていう表現はこの場合正しいのかな?

「惜しいわね。私は確かに馬になりきれる。だけど骨にはなれないの。弟を帰してもらうわ。秘儀“タカ”っ!」

 ふざけた名前だと思った。だけど、それからが異常だったんだ。一度目を閉じて見開くと、雅さんの目は鳥の眼にそっくりだった。その目で自分に突っ込んでくる遥の体を、嘗め回すように見る。

「ふぅん、右脇腹を怪我してるみたいね。」

「何ッ!?」

「馬がご希望なら。秘儀、“馬蹴り”!」

 遥に背を向ける雅さん。だけど、右足をいきなり後ろに突き出した。当たったのは遥の右脇腹。そう、まだ病み上がりの状態の場所。

「ぎゃ!」

 耐えられない痛みに、その場に蹲ってしまう遥。だめだ、この人強い。周りからは歓声が沸き立っている。完全なるアウェイ戦だった。このままだと警察とか来て厄介なことになるかもしれない。

「さぁ、慶斗。これで慶斗を縛る輩はいないよ。お姉ちゃんと一緒においでよ。」

「遥を見捨てる訳には行かないんです。大切な相棒だから。」

 遥を肩に担いで南陽高校を後にする。後ろから盛大に雅さんに対する拍手が送られていた。この日、初めて神速と神技のコンビに敗退の烙印が押されたのだった。たった一人の女子高生によって。

・宇津木夢の交換日記

ちょっと作者ぁ~!けー君との絡みのシーンはもっと濃密に過激にって言ったのに!!

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