drive ~慶斗の思い~
~前回のあらすじ~
夢と睡魔の拘束から逃れて家に戻れば、瀕死状態(?)の白虎が。
~予告~
今度は宇津木とコンビ?
手術中の赤いランプが消えた。手術用の水色のエプロンを纏う医者たちが出てくる。僕はその人たちに駆け寄った。大丈夫、あの遥なら大丈夫に違いない。根拠があるような無いような気持ちでいる僕。だけど、彼らは首を横に振った。嘘、嘘でしょ…。遥が死ぬなんて…。そんな事がある訳ない。医者の口から出た言葉は、“手遅れだった”。何で何で遥まで僕を置いて行くのさ…。
「嫌だぁぁっ!」
「けー君!?」
「ゆ、夢…。」
目の前には赤いランプが点いた“手術中”のランプ。何時の間にか寝ていたようだ…。
あの時、僕は遥の制止を振り切り、電話をかけた。宇津木夢に。
『夢、遥が…。遥が死んじゃうよ!』
『けー君?どうしたの!?』
・・・・・・・
『今向かえに行くから。そっちはいつでも白虎を動かせるようにしてて。』
直ぐに電話は切れた。その後来た車に遥を乗せて近くの病院へ。緊急手術が行われた。そして今はただただ待ち続けている。
そして、ランプが消えた。出てきた医者に駆け寄る。
「遥は…」
「成功しました。傷んだ臓器を少々切り取りましたが、後遺症は無いと思います。経過を見て退院の時期を見計らいましょう。」
そのまま医者は立ち去る。遥も寝かされた状態で病室に送られる。遥が目を覚ますまで一緒にいようと決めた。
「けー君。一応私の親族ってことで誤魔化しておいたから。」
「ありがとう、夢。」
僕の隣に座る夢。何かがバレてしまうと困ると言っていた遥。僕が導き出せた案はこれだけだった。夢が話しを続けた。
「でもね、白虎の奴、保険にも何も入ってないんだって。手術費用、相当な物になっちゃうよ。」
そんなの、どうでもいい。僕が肩代わりする。今の僕にとって遥が死んでしまうことがもっと嫌だから。それがお金で解決するなら、爺ちゃんの遺産が全部なくなっても構わない。
「白虎のこと、相当気に入ってるんだね、けー君。」
「始めて僕を受け入れてくれたのが、遥だから。」
「ふ~ん、私ももっと早く唾付ければ良かったかな?」
「今日の朝十分に付けられました。」
こんな話ができるのも、医者のお墨付きがあるからだろうか。安心している。規則正しい電子音声が、いつも背中に感じる遥の鼓動と同じリズムを奏でていた。
「私、そろそろ帰らなくちゃだけど、遥が起きたら“貸し”だって言っておいて。」
「それは無理、これは僕の独断だから。僕がその借りを返すよ。」
「そっか、それは楽しみだね。じゃぁね、けー君。」
怪しい笑みを残して夢は去っていった。しょうがない。相棒の為だし。それにしても、今日この半日だけで今まで知らなかった遥の顔をいくつも見た。僕は、遥は僕よりずっと強く、弱い所なんて無いと思っていた。でも、それは僕の思い違いに過ぎない。遥も女の子。痛みに苦痛の表情を見せたりする。僕は彼女を過大評価していたのかもしれない。ダメだな、僕。もっと僕が強くならなくちゃいけない。
「慶斗…」
遥が目を覚ましたのは、夜中になってからだった。朝食はおろか、昼食や夕食も食べずにいたので、そろそろ胃が痛み始めてきた頃だった。
「遥、大丈夫?」
「ここは…、病院?まさか、慶斗!うぐっ…」
「ダメだよ遥。それに夢に頼んであるから君が心配することは無いよ。今は休んで。」
「そう、か…。んじゃ、アタシは休むよ。慶斗、寝てる間に変な事したらタダじゃおかないからね。」
「そんなに信用置けないなら、僕帰るよ。お腹もすいたし。」
「!け、慶斗待ってくれ。あたしが悪かったさ。だからもう少しここに居てくれよ。お願いさ。」
しょうがないか。分かったよ、と返事をすると遥は再び寝てしまった。
いくらなんでもお腹がすいた…。僕は遥が寝てるのを確認してから病院を抜け出した。夜間勤務の人が親切にも鍵を開けてくれたのだった。近くのコンビニでも行こう。餓死してしまいそうだ。所持金はそんなに無かったので、買えるだけ買おう。お金は後で、そこら辺の不良から巻き上げれば十分だ。コンビニの駐車場で屯す不良にメンチきって店内へ。万引きをすれば良いんだろうけど、遥に止められてる。“いいかい、万引きは犯罪だよ、犯罪。それに比べりゃぁ、双方合意の上で殴りあう喧嘩なんて、傷害罪には程遠いのさ”遥の言葉がふと思い浮かばれる。何時の間にか僕の中での彼女の存在が日に日に大きくなっている。僕の生きがいの一つになってると言っても過言じゃない。僕は好きなんだろうなぁ、遥が。恥ずかしくて言えた事じゃないけどさ。
メンチきり合いながら、僕は遅い夜食を取った。その後は当ても無くブラブラと夜の散歩を楽しむ。遥の部屋に戻ってもいいけど、久々に見上げた満天の夜空を見るのも悪くない。冬の空は空気が澄んでいて綺麗だ。遥と一緒に見に来るのも乙かもしれないな。僕らしからぬロマンチックな事を思いながら、歩を進めた。
「爺ちゃん、婆ちゃん。ごめん。だけどこれが僕の道だよ。」
目の前には“朱雀家”と書かれた墓石。隣にも同じ文字が彫られた物があった。隣の墓、すなわち俺の両親の墓の目の前には何も置かれておらず、枯れた花と燃え尽きた線香が寂しくあるだけだった。ふらりと思いついた様に立ち止まった場所は、嫌なほどの静けさと共に僕を迎えてくれた。
「うぅ、寒い。もう一ヶ月で年の瀬だもんね…。月日が経つのが早いよ。何かに取り憑かれる前にさっさと退散するよ。じゃぁね。爺ちゃん、婆ちゃん。そして父さん母さん。」
特に一緒にいた記憶も無い両親に、愛着など全く湧かないのが現実。あぁ嫌だいやだ。こんな風に家族についてシンミリするなんて。全然不良らしくないじゃないか。もっともっとドライな性格でいなくちゃ。そうだ、いっその事一人称を僕から“俺”にしてみようかな。
「ちょっと、やめてください!」
「少しは黙れ!」
煩いなぁ。と思いながら、暗い路地裏に目を凝らす。拘束から逃れようとする人影とそれを掴んで離さない人影。考えられるのは痴漢、カツアゲ、強姦程度。ほっとこ。遥に言わせれば、“されるのも悪い”だってさ。遥は不良の鏡だよ、まったく。そんな事を考えてる間に警官がやって来たのが見える。慌てて逃げる人影に、その場に蹲る人影。何となくホッとした自分がウザかった。僕は何を安心してるのだろう、僕は不良なのに。
「あ、けー君。」
「夢。」
「白虎はどうなった?」
「一度起きた。また寝たけど。」
「ふぅん。んじゃぁさ、私と夜のドライブでも行かない?これで貸しはチャラにしてあげるから。」
まぁ、悪い条件じゃないんじゃないかな。でも、免許なんて持ってるの?
「乗り物はこれから調達するんだよ。ドライバー付きでね。こっちこっち。」
夢の手招きで僕はとある駐車場に赴いた。そこは夜になると暴走族やらレディースの集まる場所。なるほど、夢のドライバー付きってのはこれの事を指してたんだね。楽しそうじゃないか。
・椎名渚の交換日記
ねぇ、ヒロインの私が出てこないのってどういう意味ですか?しかも、私の性格設定、“まとも”って何ですか!