second kiss ~甘い誘惑~
やっと次話投稿ができます。後4話、今日中に乗せます。
~前回のあらすじ~
宇津木を助けに行く朱雀と白虎。宇津木に恩を売るチャンスだと意気込んだ白虎だったが、逆に宇津木が朱雀に好意を抱いてしまった。自業自得。
~予告~
コンビ解散の危機
あれから一週間程が経った。冬将軍も直ぐそこまで迫り、雪の積もる地域がチラホラと見え始めた頃。新聞受け口に一枚の紙が挟まっていた。見つけたのは遥。僕宛の表記がしてあったので、中を見ずに持ってきた。
「慶斗、果たし状だよ。あんたも売れてきたね。」
「喜ぶべきなんだろうね。」
そう言いながら、中を開く。
“親愛なるけー君、あぁ、違う…。そうだ、これは果たし合い状なんだ。いいか、朱雀…。えっと、けー君。この前の借りを返したいので、今日の夜9時西公園で待ってます。一人できてね。by宇津木夢”
と書かれていた。普通の手紙なのか、果たし状なのかに迷う…。
「で、手紙の奴は何て言って来たんだい?…っ!」
後ろから覗き込んできた遥が硬直した。
「宇津木の奴…、慶斗、行くんじゃないよ。絶対リンチに決まってるさ。」
「え、でも、この前遥が仲良くやって行こうって言ったばかりじゃん。とりあえず待たせるのも悪いから今夜行ってくるね。」
「いや、それは罠に…。」
そしてその夜。ちょっと辛そうな顔の遥の視線を背に受けながら、僕は公園へと向った。考えてみれば、西公園の近くで始めて宇津木に会ったんだっけ。その時は否応なしに殴られたけど…。今はそれなりに心得もあるし、夜道も特に恐れることは無い。待ち合わせてまで伝えたい事…。喧嘩でないなら、なんだろうか?
公園に行くと、既に宇津木は来ていた。ブランコに乗って少し揺れている。此方の姿を確認すると、直ぐに立ち上がった。
「ふぅん、ちゃんと一人で来たんだ。んじゃ、出て来な。」
掛け声と共に現れたのは、数人の女子だった。
「そっちは…、一人じゃないみたいだね。」
「別に手紙には書いてないしね。あぁ、気絶させる程度で十分だから。」
直ぐに囲まれる。それぞれ何かしらの物を持っている。鉄パイプだったり縄だったり。布を持ってるのもいた。くそ…、遥がいないから背中がほとんどガラ空きだ…。一斉に掛かってくる。僕はその場にしゃがんで円を書くように足払いをする。遥に言われた、“顔は女の命、絶対顔だけは殴っちゃダメさ”って。起き上がってきた一人の鳩尾に一発入れて気絶させる。だけど、それが僕にとっての致命傷だった。服の下に何か入れてる。手が痛い…。その隙を突いて、後ろから羽交い絞めにされてしまう。このままじゃリンチ状態に…。しかし、近付いてきたのは布を持った少女。その布を僕の鼻と口に当てて…、僕の意識は遠のいていった。
暗闇から抜け出して、かつて嗅いだ事の無い眠り薬のせいで、朦朧とする意識の中、僕は覚醒した。周りには明るい照明がついてる。よくあるような廃倉庫とかそういう場所じゃない。見てみれば僕が寝かされているのも、フカフカのベッドだった。
「起きた?」
急いで起き上がり辺りを見回す。いたのは宇津木。だけど、さっき来ていた服じゃなくて、もっと質の良さそうなドレスを着ている。
「宇津木、ここは?どう言う意味?」
「あれ、忘れちゃった?私の事は夢って呼んでって言ったのに。」
「それじゃあ夢。ここはどこ?僕は遥を誘う囮?」
「残念でした。私が用があるのは、けー君だけだよ。」
「その用件は?」
「遥とじゃなくて、…私と相棒になって欲しいの。」
それはできない相談。だって、遥は一番最初に僕を理解して受け入れてくれた人だから。面と向っていうのは恥ずかしいけど、結構好きだよ。恋愛感情なのかは分からないけど、普通の女の子とは見ていない。だから、無理なんだ。
「せめて、今日は泊まってって。連れてくる時はアレだけど、それなりのもてなしはするわ。」
「夢、君って一体何者?」
「私?この家の一人娘だけど。」
詳しい話を聞いて更に驚いた。夢は所謂社長令嬢で、相当なお金持ちらしい。僕にはよく夢の気持ちが分からなかった。
「私のママね、数年前に死んじゃったんだ。パパも仕事ですごく忙しいから私の相手してくれなくて…。」
空虚な日々が続いたと語る夢。不貞腐れたと言うか、そんな感じで不良を始めたらしい。強さは幼い頃学んだ護身術が役に立ったと言う。少し後悔してるとも言った。彼女は僕と似てて、どこか違う気がする。父親が生きているとしても、肉親が死んだことは僕も夢も同じだ。だけど、僕は不良を始めたことを後悔していない。夢は後悔している。
「だからね、けー君といれば何か変われると思ったんだ。」
「それは無理だよ。僕は不良をやる事に後悔してない。だから僕と一緒にいても君は何も変われないと思うんだ。ごめん。」
そろそろ帰らないとかな。夢に敵対心が無さそうに見えても、なんて言うか、雰囲気が慣れない。ベッドから降りようとしたとき初めて、足に違和感を感じた。ジャラッと言う音もする。布団を剥ぎ取るとそこには、頑丈そうな鎖付き手錠が足にかかっていた。いや、この場合は脚錠とでも言うのかな?
「今晩はここに泊まって、けー君。拒否権は無いよ♪」
そのまま夢もベッドに入ろうとする。勿論理由は聞いたよ。“ここ私の部屋だから”って言われた。もうどうでも言いや。恥ずかしさなんて捨てたもん。不良の女子は皆こういう風だって思ったから。常識と言うなら受け入れよう。
「ふふ~ん、けー君。」
「何、夢…?」
「寝取ればいいもんね?」
不穏な単語が聞き取れたよ、ねぇ?そこまでして僕を欲しがる?特に利用価値も無いのに。
「けー君だって不良なんだから、練習とかしないとだよ。」
「本番自体もいらない。」
「ふ~ん、けー君私がどんな話してるか理解してるんだ。」
そりゃぁ、理解してるさ。男女の云々なんて。でも、そんな事どうでもいい。餓えてないし。
「じゃぁ、逆に聞くけど、夢はあるわけ?」
「…、な、無いわよ。」
顔を赤らめる夢。なに不良だから練習が必要とか言ってた人が、古い貞操感持ってるわけ?色々矛盾してるなぁ。
「キスくらいならしても…いいよね。どうせファーストキスじゃないでしょ。」
反論を返そうと思ったが、その口は塞がれていた。夢の唇によって。甘い、体から力が抜けていく気がした。自然と夢の背中に手を伸ばす自分を知って、男の本能の末端を見た気になった。それとも不良としての一部だろうか。考えてみれば僕の心も空虚なんだな。だからこうやって埋める何かを補ってるのかもしれない。虚しい奴。セカンドキスの終焉は息苦しさの絶頂を引き連れてやってきた。
「…私のファーストキス取ったんだから、責任は取ってね。」
「じゃ、忘れることにする。」
これが遥とだったら、責任取ろうと必死だったかもな…。あぁ、セカンドキスって言うのは、昔のちょっとした事故で、ファーストキスは取られている。今は話したくないし思い出したくも無い。
「私も寝るね。」
「どうぞお好きに。」
特に眠くも無かったけど、久しぶりの柔らかい布団は睡魔の住処らしい。僕は簡単に眠りの世界へ引きずり込まれた。
眠りの世界で睡魔の拘束を離れ、現実世界に戻るきっかけとなったのは、耳に多大なる違和感を感じたから。起きてみれば、背中側から優しく僕を拘束する夢。そして彼女の口が、僕の耳を食んでいる。この様子だと寝てるな…。
「夢、起きてよ。」
「けー君の耳おいし~。ハミハミ…。」
いい加減にしてくれ…。いい加減殴るよ。良しとしない遥かいるけど、今回は特殊なケースと言うことで。自由な腕を伸ばして肘で鋭角を作る。狙うは夢の腹部。手加減はするから大丈夫。拳を固め、気持ち分前に出す。そして後ろに突き出した。その瞬間、目覚ましアラームがなる。それで起きた夢は、条件反射で防いでしまった。
「けー君。女の子にそんな事しちゃいけないよ。」
「人の耳を嘗め回しておいて…。」
「だって、良かったんだもん…」
顔を背けて頬を赤くしてもダメだから。
「そうだ。けー君早くここから出ないと、パパの部下に見つかるよ。そうなったら夜這い容疑でたこ殴りにされるから。」
理不尽もホドホドにして欲しいけど、朝から喧嘩をする気分でもないので、僕はここを去ることにした。屋敷から出て外観を眺めると、改めて屋敷が広いことが伺える。適当に歩いていたら、見慣れた場所に出たので、そこからアパートに戻った。鍵を開けて部屋に入る。
「遥、ただいま。まだ寝てるかな…?」
起こしても悪いし、僕ももう一眠りしようかな。その前に水でも…。
水を求めて台所へ向う。このアパートの一室は隣のマンションの影になってて、日中以外は光が差し込まない。電気を付けようと思ったとき、薄暗い中で何かが動いていた。空き巣?いや、そんな筈は…。
「うぅ…っ」
「遥!?どうしたの!!」
「あ、あぁ、慶斗かい…?な、なんでもないさ。ちょっと転んだだけさ。」
電気を点けると、蹲る遥の姿が。立ち上がろうとしてわき腹を押さえ、顔をしかめる。絶対何か隠してる。
「遥、お腹がどうかしたの…?」
服の上から腹部に触れる。腹痛なら冷たいより暖かい方がいい。だけど、遥は小さく悲鳴を上げた。違う、腹痛じゃない…。
「ちょっとゴメン。」
「やめろ、慶斗…、アタシは本当に大丈夫さ…。」
抵抗する遥を抑え、服を捲って腹部を出す。
「遥!?」
「悪いね、この前どこかの組とやった時らしいよ…」
弱弱しく答える遥。彼女のわき腹は青黒く腫れていた。相当な力で叩かれた時の内出血をそのままにしてたに違いない。これだけ苦しんでると、内蔵もやられてるんじゃないか!?
「早く救急車を。」
「止めてくれ。そんなことしたらアタシの素性がばれちまうさ。それだけは、絶対に嫌なんだよ…。だからこのままにしてくれ。大丈夫さ、これ位…。」
バレるバレないの状態じゃないよ。何で隠してたのさ!遥が殴られてから一ヶ月近くが経ってる。ずっと何も無いかのように振舞ってきたなんて…。電話を掛けようとする僕。立ち上がろうとするけど、遥がズボンの裾を握っていた。どうすれば…。
・青龍翔太の交換日記
あぁ慶斗。どうしてお前は慶斗なのだろうか!




