yume ~協定~
シリアス編の執筆終了しました。まだこの話は中盤なのですが、二日一回のペースを心がけたいと思います。今執筆中の第38話は、未だ“破壊編”なのですが、コメディー仕様の話になっています。内容はお楽しみに。それと予告なのですが、“破壊編”の次に来るのが、“授業編(仮)”になっています。その後は“夏休み編(仮)”です。前触れ無く変更の場合がありますので、その時はよろしくお願いします。
~前回のあらすじ~
慶斗を奪われたくないが為に、渚に厳しく当たる遥。彼女の過去は明らかにされることがなかったが、慶斗に心の空虚さを埋められてるのは事実であった。
~予告~
宇津木夢視点ではありませんが、まぁ大きく関わってきます。朱雀と宇津木の原典がここにあり。
なんで、なんで今更渚が僕の前に現れるんだよ。あのまま渚の心が離れて行ってくれてたなら、どれだけ良かっただろうか。ハンバーガーを口に押し込みながら考えた。“会いたかった”?嘘をついてまで僕を慰めようとしないで。本当は僕に会うのが嫌だったはずなのに。優しすぎるよ、君は…。もう、これから先に渚の視界に入らないようにしよう。それが、僕が彼女に出来るたった一つの事。
今日の事を忘れたくて、早く寝ることにした。渚の所に残らなかった事を後悔していない。むしろ、今の方がうまくやっていけると思っている。これで自分の破壊衝動から渚を守れるんだったらお安いものだ。
そんな時、遥が僕にあてがわれている押入れの戸を開けた。
「慶斗、一つ聞きたいんだ。後悔、してないかい?」
「うん。全然。」
「そっか、んじゃ、今日はアタシもここにお邪魔しようかな。」
そう言って這い上がってくる遥。だけど、所詮は押入れ、狭い。上に乗ってる遥が正直重かった。
「ん?重いとか思ったかい?」
「そんな事無いよ…」
「それならいいさ。」
直ぐにスヤスヤと寝息を立て始めた遥。体格も僕より少し大きくて、言動も少し男勝りな時がある遥だけど、やっぱり女の子なんだね。何時の間にか顔同士が近くて、なんだか恥ずかしくて離れようと試みる。だけど、それはできない相談だった。遥が僕の腰に腕をまわしてガッチリとホールドしていたのだった。
「遥、離して…」
「ぃや…」
ねぇ、起きてるよね…?まぁ、でもいいか。僕もこんな暖かくて安心できる場所が欲しかったのかも知れない。それだったら、僕は今すごく満たされてる。
寝た後の記憶はもちろん無い。体のあちこちに痛みと言うか違和感があったことは認めるけど…。そんな日、僕らは“約束”も特にないのでアパートの一室でのんびりしていた。テレビの昼ドラを見ていた時、突然ドアが激しく叩かれた。遥が警戒しながらドアを開けようとする。僕も身構えた。一気にドアを開けたそこには、一人の少女が座り込んでいた。
「アンタ、誰だ?」
「宇津木さんが、宇津木さんがぁ…」
息を切らせながら言う女子に、血相を変える遥。確か、宇津木って遥と出会った日に殴り飛ばした女の子のはず。
「どうした、宇津木がどうしたって!?」
「ウチらのグループの一人が北川にボコられたんで、宇津木さんがお返しに行くって…。そしたら、逆に宇津木さんが北川の奴らにやられちゃって…。宇津木さん、このままだと死んじゃいます!神技と神速、宇津木さんを助けてください!ウチらだけじゃどうにもできないんです!」
必死に土下座をしてくる女の子。あれ以来会ってないから、僕にはあまり関係のない話に思えた。だけど、遥は違った。唇を噛み締めている。
「よく教えてくれたね。アタシ達が何とかするさ。慶斗、手伝ってくれるかい?宇津木相手でボコる余裕のある奴らだ。相棒の力が必要さ。」
「もちろん。遥を一人で行かせる訳には行かないよ。」
「北川高校の校庭にいます。ウチらも応援に行きます。」
「いいや、来るんじゃないよ。一度北川とは本格的にやりたかった所さ。それに、これは宇津木の奴に大きな貸し作れるチャンスさ。こんな機会、アタシが逃すわけ無いだろ?さて、慶斗。行くよ。」
「うん。」
北川高校、遥の家からそう遠くない場所にあった。至る所壊された窓、落書きされた校舎。そんな風景を見ながら校庭を目指す。焼け野原みたいなそこには、複数人の男女が立っていた。そんな中ただ一人だけ地面にうつ伏せになる人影がある。
「やぁやぁ、北川の先輩方。宇津木を引き取りに来ました~。あぁ、宇津木。何そんな所で寝てるんだい?眺めはいいかい?」
本当に遥かにはいい意味で呆れさせられるよ。まったく恐れを持ってないと言うか、ふざけてると言うか…。
「あん?お前らコイツのダチか?」
「とんでもないさ。こんなのと友達やってても、付き合いきれないよ。それに、ちょっとばかり遊びたくなってね。相手になってくれるかい?この神技と神速の。」
「ふ~ん、神速と神技ねぇ。楽しそうじゃん。お前らコイツを逃がすなよ。あいつらにも格上って奴を叩き込んでやろうぜ。」
そう言って、釘バットやら鉄パイプやらを取り出す。あんなの重くて振り回しに難があるのに、よく愛用できるね?一番いいのは、やっぱり自分の体でしょ。
「慶斗、お前は男を頼んだよ。やっぱり男が女に手を挙げるのは良くないさ。」
そうだね。じゃ、男には容赦なく行きますか。程よく囲まれた所で、僕達は背中を合わせる。そして、二人で掌をヒョイヒョイと反して挑発のポーズを取った。馬鹿にされてると思ったのか、相手が一斉に襲い掛かってくる。それをいつもの様に受け流して殴る。距離が離れた相手には蹴りを入れた。一人、また一人と倒れる。だけど、変だ。何かがおかしい。
異変の原因は僕の背中にあった。いつも呼吸を合わせて戦うはずの遥の呼吸が荒い。汗もにじみ出ている。いや、滲み出てるなんて程度じゃない。もっと酷い。
そんな時、気を取られていた僕は、いつもなら気付けるはずの攻撃に反応できなかった。鉄パイプが頭に振り下ろされ、必死で避けたけど、避けきれることはできず、肩に当たってしまった。右肩がジンジンと響いて後から痛みが襲ってくる。右腕が思うように動かない。
「何やってるんだい、慶斗。えぇい、分が悪すぎたよ。慶斗、アンタは宇津木の奴を助けに行きな。無理にでも起こしてこい、一旦引くよ。あいつだって逃げる時の戦力になるさ。」
「遥を一人にできる分けない。」
「いいから行って!」
二人の心拍数でカウントをし、3で遥の肩を使って高くジャンプ。そのまま包囲網を突破した。急いで宇津木がいる場所まで走った。最初にかかって来た女子の腹部に膝蹴りを入れて戦闘不能にする。一斉に振り下ろされる竹刀を転がって避ける。早くしないと遥のいる方からまた不良が来る可能性がある。宇津木の服を掴んで無理矢理立たせた。
「大丈夫!?」
「なんであんた達が来るのよ!」
「僕らの勝手。一緒に逃げるよ?」
「勿論よ。ただ見てるだけなんて恥さらしもいい所だし。」
パンパンと自分の服についた埃を叩き落とす宇津木。だけど、そんな彼女の肩越しに折り畳みナイフを開く不良の姿が見えた。そのまま突っ込んでくる。
「危ないッ!」
急いで僕と宇津木の場所を入れ替える。その直ぐ後、不良が折り畳み式ナイフを持って僕のお腹を刺した。サスッと言う音がして、僕のお腹に衝撃がかかる。一瞬時が停まって見えた。目の前でニヤッとする不良。見てみればナイフの根元までとは行かないけど、それなりに刺さってた。
「ちょっと!」
後ろで宇津木が悲鳴にも似た感じで叫ぶけど、僕は正直いって冷静だった。
「残念♪」
次の瞬間には、不良の手からナイフは抜けて、僕の強烈な蹴りが顎を捉えた。
「グガッ…」
倒れ伏す不良。とりあえず刺さってるナイフを抜いて畳み、ポケットに仕舞った。
「どう、して…」
「こういう事~。」
シャツの下からそれなりの厚さの漫画雑誌を取り出す。遥曰く、“腹は手足から見て防御するには微妙な距離。プロテクターは胸より腹に入れろ”だそうだ。今回はそれが役に立った。今は冬も近い秋なので、それなりに着膨れてたからばれなかったみたい。
「さぁ、遥を助けなくちゃ。」
孤軍奮闘する遥を囲む不良たちに渾身のタックルを決めた。転ぶ不良を尻目に、僕は遥を連れて逃げた。今回は別に相手を叩きのめすのが目的じゃない。宇津木を助けて逃げればいいのだ。それに、今回はいくら何でも分が悪かった。
北川高校から離れて、追っ手がない事を確認した僕達。
「一応助けてくれた事に礼は言う。借りはいつか返す。」
「今返してもらおうかなぁ。」
「分かったわよ。No1の座でしょ。いいわ、あげる。」
「そうじゃないさ。いい加減争いにも飽きて来てね。どうだい?ここら辺で一つ仲良くやるってのは。手を打とうじゃないか」
「えっ…。」
「どうするんだい?嫌ならNo1の座でもいいけどさ。」
「分かったわよ。」
意外だった。遥なら後者を選択すると思っていた。一体どうしたんだろうか…?
「んじゃ、これから宜しく。」
遥が手を伸ばした。宇津木も手を伸ばして…、僕の手を掴んだ。
「名前聞いてなかったね。私は宇津木夢。最初はヒョロい奴だと思ってたけど、自分を犠牲に私なんかを助けようとするなんて見上げた精神だね。はじめて見たよ。私の事は夢って呼んで。」
「僕は朱雀慶斗。」
「じゃぁ、けー君だね。これからよろしくっ!じゃあね!」
そのまま走って行ってしまった。その時、彼女が普通の少女にしか見えなかった。
「あぁ!変な約束取り付けるんじゃなかったよ!」
僕の隣で遥が叫んでいた。
・朱雀慶斗の交換日記
あ、一周したんだ。前回“次から真面目に書く”って言ったからなぁ…。面倒くさい。とりあえず折り紙でもしよう。手先は器用だから中々綺麗に作れるよ。でも紙が無いなぁ…。あ、この日記帳から破っちゃえ。玄武君が何か書いてるけど、どうでもいいや。