nagisa ~私の想い~
~前回のあらすじ~
不良となって数週間が経った慶斗は、殴ることを躊躇わなくなっていた。どんな相手だろうと相棒の遥とのコンビで打ち倒していく。
~予告~
タイトル通り、渚視点でお送りします。
…慶斗、どこに行っちゃったの?あの時私は慶斗に殴られそうになった。思わず目を瞑ってしまった。目を開けば、私の目の前で拳を握って震えていた慶斗。何も言わずに私を押し退かしてどこかへ行ってしまった。殴られなかったのは慶斗の優しさ故、なのかな…。私は本当は殴られても文句が言えない存在なのに…。
帰ってくる事を願いながら、登校時間のギリギリまで慶斗を待っていた。だけど、帰ってこない。私は合鍵で慶斗の家のドアを閉めて学校へ向った。学校の始業式にも慶斗は来なかった。先生の出欠確認では風邪って誤魔化しておいた。
半日授業の今日は直ぐに帰れる。家に帰ってママに朝の出来事を話した。ママは殴られかけた私より慶斗の事を心配している。うん、私はまったく被害を受けていないし、慶斗を心配しなくちゃいけないのは当たり前のこと。急いで慶斗の親戚の人に連絡を取った。“慶斗はここに残る事に決めた。すいませんが、あなた達に会うとまた気持ちが揺らぐかもしれないので、不躾ですが、このままお帰りください。”と嘘をつく。
この日早めに会社を出てきたパパとも色々話し合った。兎に角慶斗を探し出すことにして、パパとママは家を出て行った。私はもしもの事を考えて慶斗の家に勝手にお邪魔した。鍵はわざと開けてある。
ドアの開く音…。慶斗!?私はリビングから飛び出して玄関に向かった。電気を付けると、見知らぬ女の人が一人。
「誰…」
「誰だい?」
二人の声が重なった。もしかして慶斗の親戚の人?
「もしかして、アンタが慶斗の幼馴染かい?」
「そう、です…」
答えたその瞬間、その女の子はズカズカ家に上がりこんできて私の胸倉を掴んだ。
「へぇ、アンタがねぇ。アタシは白虎遥、慶斗の相棒さ。因みに不良なんかやってる。何泣き目してんだい!慶斗はね、アンタのせいでもっと辛い目に遭ってたんだ。…もう会いたくないってよ。分かったらさっさと帰りな。今日は慶斗の物を取りに来ただけだ。私に行くように頼んだ意味が分かったよ。こんな状況を予測してたんだね。」
「慶斗は、今どこにいるの…?」
「煩いね。さっさと帰んな。」
床に下ろされて、追い立てられるように家を出た。ドアをピシャリと閉められる。だけど、責めて、責めてこれだけは…。
20分も待ってると、さっきの女の子が出てきた。慶斗のリュックにたくさん物を詰めている。私を見た途端、睨み付けるような形相でこっちを見た。
「まだいたのかい?」
「これ、この家の鍵…。あと、“私は慶斗に会いたい”の!」
それだけ言って自分の家まで戻った。パパとママが直ぐに帰ってきた。一通りのことを説明すると、納得したらしい。
「しょうがないかもしれない。今はそっとしておいて上げよう。一応保護してくれてる人がいるんだね?」
私はただ頷いた。怖くてその人が不良だなんて言えなかった…。
あの日から二週間近くが経った今も、慶斗は学校に来なかった。いい加減先生も慶斗のことを怪しんで、私に尋ねてきた。もう、嘘は突き通せない。全てを話した。その日の放課後、担任の先生は私の家まで来た。勿論、慶斗の事で。
「何で、朱雀君がいなくなった事を隠していたんですか!」
「申し訳ありません。でも、今慶斗君を探せばもっと酷いことになると思うんです…。」
「だからって…。確かに朱雀には保護者が誰もいません。ですが万が一の事があってからでは遅いんですよ!」
口調が強い男の先生ともあってか、先生が完全にママを押していた。
「これから私は警察に行きます。私の名前で朱雀君の捜索願を出します。えぇ、反論は受け付けません。私は一教師として朱雀君を心配しています。」
そのまま私の家を後にする先生。ママは困った顔をしていた。私にも分かっている、慶斗がこのままで良い訳がないと。それに、私自身が慶斗と会いたいと願っている。
次の日、先生の口から慶斗が行方不明になったと告げられた。クラスはざわめき立つ。慶斗は特に頭がいいとか、運動神経が良いとかではない。だけど、“可愛い”とクラスの全員から言われている。本人が知らないだけで。朝のHRの後、女子の皆が私に話しかけてきた。いつも一緒に登校する幼馴染として何か知ってると思ったんだと思う。それは間違いじゃない。だけど、私は話したくなかった。
それから一週間。情報はまったく入ってこなかったみたい。私は最近ボーっとする事が多くなった。そんな時、友達の数人が放課後に遊びに行こうと誘ってくれた。慶斗がこんな時に…、と思ったけど、私を心配してくれる皆の気持ちに答える事にした。私にも頭を冷やす時間が必要だと思う。
ママに電話をかけて、私たちは街に繰り出した。制服で来るのは新鮮で楽しかった。お店を回ってみたり、書店で雑誌の最新刊を買ったり。少しは気分転換になったかな…。
最後に食事に行こうと、近くのハンバーガーショップに足を運んだ。食べるのは久しぶりかな…。そんな事を思ってると、後ろに人の気配を感じた。
「ねぇ、誰か後ろからついて来てるよね?」
「うん、無視しよ。無視。」
「明るい所を歩けば大丈夫だよね。」
人の行きかう大通りを歩いて、目的のお店へと歩き続ける。その内、後ろをついて来た人たちも消えていた。
緊張してたらお腹が減っちゃった。今日は友達三人のおごりだって言ってくれたから、言葉に甘えてたくさん頼んだ。味が飽きないように、メガとテリヤキとフィッシュ。勿論のポテトにコーラはL。アップルパイも外せないかな。
「渚、よく食べるね…」
「うん♪お腹すいちゃったし。」
「今月のコミック分がぁ…。」
気にしない気にしない。そろそろ食べ終わるって思った頃、誰かが入ってきた。奥まった席でよく見えなかったけど、会話は聞こえてきた。
「今日もまぁまぁの稼ぎさ、慶斗。」
「さっきの奴らあまり持ってなかったしね。」
慶、斗!?急いで立ち上がってカウンターを見に行った。見えたのは金髪の少し身長が低めな子と、黒髪の子。絶対慶斗とこの前の女の子だ。
「ちょ、ちょっと渚…、どうしたの?」
「あれ、慶斗だよ。」
「待った待った。いくら朱雀君を恋しがってるからって、あれは無いでしょ。同じ名前の、人違い。」
「そんな事、絶対無い!」
急ぎ足で慶斗の所に向った。絶対慶斗だ。確信がある。
「慶斗、だよね?」
金髪の方に話しかけた。一瞬ギクッてなったと思ったら、ゆっくりとこっちを向いた。怖い顔をしていた。幼馴染の私が一度も見たことが無い、恐ろしい表情。誰も寄せ付けたくないと言ったオーラが出ていた。
「誰」
冷たい声。さっきまで隣の女の子と話していた声色とはまったく違う。明らかに拒絶されている。
「渚だよ。お願い、慶斗。戻って来て。私、慶斗に会いたかった。」
一度家から出て行ったときみたいに手を握ろうとした。だけど、それは叶わなかった。慶斗は私の手を振り払う。
「遥、僕は先に帰るから。」
「んにゃ。OKさ。」
そのまま慶斗はお店から出て行ってしまった。追おうとしたら、誰かに襟を捕まれて追う事ができなかった。
「あんたも懲りない女だね。本当に殴られた方が良いんじゃないかい?あ、お釣りはいらないんで。」
慶斗を追いかけるように白虎さんも駆け出していった。私は追いかける事も何も言う事もできなかった。私には権利もない様にも思えた。
「渚、誰?あの金髪本当に朱雀君?」
「・・・・・・。」
「ねぇ。」
ゴメン、私には何も答えられそうに無い。目の前の現実を受け入れたくなかった。嫌だよ、慶斗。このままさよならとか言わないよね…?
・麒麟の日記
いいかい?萌え要素ってのは女子にあるからこそ成り立つんだ。朱雀の様な女男ななかにあっても、宝の持ち腐れってやつなんだよ。ははっ、いい気味だ。俺様が一番なんだよ。