fight ~爆走~
~前回のあらすじ~
とうとう本格的に不良になる事を決めた朱雀。きっかけは椎名を殴りかけたことにあった。
~予告~
設定では前回の話から一二週間後の話です。
「さて、相棒。この人数はどう思うかい?」
「遥もまた凄い所に喧嘩売ったね。」
「ハイリスクハイリターンって奴さ。因みにアタシは“買った側”さ。」
遥といると毎日喧嘩の相手には困らなくて済む。即ち生活費に困らないと言うこと。家にいれば、どこかの学校の不良が押しかけてくるし、歩けば顔に傷のある怖いお兄さん達が話しかけてくる。力押しじゃない、技とスピードを使う男女ペアの不良って言うのは珍しいみたいだ。そんな僕らに付けられた二つ名。“神技”と“神速”。会わせてゴッドペアなんて呼ばれる時もある。くだらないネーミングセンスの話は置いておいて。今は目の前に立ちふさがる奴等を伸すことが先。
朝、遥から“今日アポ入ったから”なんて聞かされて、近くの廃工場まで来て見た。そうしたらこの状況。鉄パイプやら色んなブツを装備したおっちゃん達が待っていた。
「てめぇらか、ウチのシマ荒らすんわ。はっ、神だの何だの語ってると思うたら、まだ子供じゃねぇか。シャレにもならん。おい、誰だよ、こんなチビ二人呼んだん?」
「まぁまぁ。だけどあの黒髪の女、あれは上玉ですぜ。ヒヒヒッ。犯すだけ犯して裏に売り払えば良いんですよ。ヒヒッ。顔にさえ傷つけなきゃぁ大丈夫。」
次の瞬間、その男は“ヒッ”と小さな悲鳴を上げた。それと同時に“ゴクッ”と言う音も聞こえる。男の手首はあらぬ方向に曲がっていた。
「ヒギャァァァァッ!」
「黙れよ。」
僕は男の頭に蹴りを入れた。今までの一連の動作は僕が行った。遥から少しだけ習ったのだ。力を入れなくても相手を倒す方法を。今の所僕が出来るのは関節を捻り上げることだけ。後はスピードでカバーしている。
「僕の相棒にそんな事させないから。それに、遥はそう弱くないよ。」
「おいおい、相棒。そんなにアタシを誇大評価しないでおくれよ。まぁ、これ位ならどうって事無いけどさ。」
「言わせて置けば!行け。」
僕と遥は背中を合わせる。一気に周りを囲む男たち。一目でヤクザ関係の人たちと分かる風貌。中学生二人に何をカッカとしているのだろうか。遥の言葉を借りるけど、“自由に生きて何が悪い”と思う。
「遥」
「慶斗」
自然と心臓の鼓動のタイミングが合う。それが僕達が動き始める合図。遥とは対照的に足に力を溜める。鉄パイプを持った男を足払いに掛けた。追撃で無防備になった男の腹に踵落としをする。奪った鉄パイプで、振り下ろされた鉄パイプを受け止めた。直ぐに反撃をする為、僕は目の前の男の急所に蹴りを入れる。うめき声を上げながら倒れこんだ。背中側でも遥が戦っている。
人数の過半数を倒した。僕の足元に転がる物言わぬ人型。まぁ、生きてるんだけどね。右から左へと受け流す動作で相手を倒していく。時々呼吸を合わせて前後を交代し、変則的な攻撃を出すのも忘れない。どうやら相手もこっちが半端無く強いと察したらしく、距離を取り始めた。相手が劣勢になったら、今度は此方が攻めて行く番。
「遥、ちゃっちゃと片付けようか。」
「オッケーさ。」
遥が駆け出すのを見て僕も走り出す。一斉に振り下ろしてきた鉄パイプをスライディングで避け、後ろに回りこむ。素早く立ち上がってそのまま後ろ回転蹴りを叩き込んだ。これも遥のお勧めなんだけど、利き足の靴の先に鉄塊と綿を入れておくと良いみたい。因みに反対側は踵部分に。最初は違和感があったけど、今は慣れてしまった。その上、蹴りの威力が上がった。正確に顎を打ち抜いた僕の踵は、地面に着地。きっと顎の骨を砕かれただろうヤクザっぽい人も、コンクリのベッドに受け止められた。あぁ、スッキリする。最近では人を壊した後に残るのは、罪悪感ではなく爽快感だった。人を殴るとイライラが消える。一種の麻薬みたいな感じだとも思った。これ無しでは生きていけないかもしれない。
「慶斗、終わったかい?」
「勿論。そっちも終わったみたいだね。」
「あったりまえさ。んじゃ、さっさとバックレるかい?」
「そうだね。」
手際良く財布からお金を抜いていく。小銭が少ない分、お札が多い。普通に福沢諭吉さんが何人も財布の中に住んでいる。そこら辺の不良とは大違いだ。
「さぁて、大きな収穫もあったし、今日の昼はうまい物でも食いにいくかい?調度材料切らしてたんだ。」
「うん、賛成。」
うまい物と言っても、そんなに豪華なものを食べるわけじゃない。適当なファストフード店で食事をする程度である。廃工場から出ると、ヤクザの人達が乗っていただろうバイクがあった。それに何気なく跨る遥。
「まぁ、戦利品として貰ってもいいだろうさ。慶斗も乗りなよ。」
「遥、運転できるの?」
「勘でやって見るさ。ほら。」
ヘルメットを放り投げてきた。それを被ってバイクの後部座席に乗る。落ちないように遥の腰に手を回すと、遥がビクッと震えた。
「あ、ゴメン。でもこうしないと落ちるかなって思って…」
「そうじゃないさ。ちょっと驚いただけさ。もう少しゆっくりやってくれ。」
「分かった。」
なんだか気恥ずかしさを感じながらも、遥の腰に再び腕を回す。ずっと僕が思ってたより細身なんだなぁって思ってしまう。彼女もやっぱり女の子だ。遥が何で不良をやってるのかは不明。特に聞く必要も無いし。こう考えているうちにも、遥はバイクを発進させたのだった。
やっぱりあの時止めるべきだった…。今僕らの後ろから追いかけてくる車は、紛れも無くパトカー。赤いパトランプとサイレンを唸らせ、僕らを追跡している。先程から何度も“そこの交通ルール違反のバイク、道の端に停車しなさい”と言っている。遥はわざわざ捕まりたくないらしく、更にスピードを上げた。
「慶斗!計画変更だよ、これからドライブさ!」
「パトカーがお供なんてイカしてるよ。まったく…」
それを肯定の返事と捕らえたのか、赤信号を無視して角を左に曲がる。そうそう、無駄な知識だけど、アメリカの一部の州では看板が無い限り、赤信号でも右折が可能らしいよ。これはアメリカの車道が右側通行である事に関わるんだけどね。
初めての運転にしては、減速無しで急カーブを曲がりきったり、対向車線で事故を起こさずに逆走している。後部座席の僕は冷や冷やものだけどね…。
パトカーを完全に捲いたので、適当な駐車場の隅にバイクを止めた。後で警察が見つけたときに指紋検査などをされると困るので、ヘルメットと手袋は持ち帰る。後で焚き火でもしてその時に燃やしておこう。通りかかったタクシーに乗り込む。行き先を伝えてタクシーは出発した。相当遠くまで来たらしく、何時まで経っても見慣れた景色は見えない。気がつけば遥は寝ていた。僕の肩に頭を預けている。
「坊ちゃん、その娘彼女かな?」
「違うかな。大切な相棒っていった所だと思います。」
「そうかいそうかい。最初は金髪のチャラついた男かと思ったが、結構、初心じゃな。あははは。」
そんな話をされ、ふと僕は隣で眠る遥を考えた。今は普通に相棒として毎日喧嘩に明け暮れているけど、出会いは相当偶然だった。イラついた僕の話を真正面から聞いてくれて、それを踏まえた上で僕を自分の家に引き入れてくれた。あの時遥に会わなかったら、今頃どうなっていただろうか。いや、考えたくも無い。
「坊ちゃん、青春は後悔しない為にあるんだよ、坊ちゃんも後悔しないようにな。」
「頑張ります。」
とは言ったものの、具体的に何をすればいいのかなんて思いつきもしなかった。僕は今、何か後悔をしているだろうか…。一瞬、忘れようと務めていた渚の顔がチラッと浮かんだ。頭を振ってかき消す。僕は不良になって後悔していない。これが僕の正しい生き方だ。
「ほい、着いたぞ。お二人とも。ちょーっと値段が張るね…。」
考え事をしている間に、何時の間にかついた様だった。遥を起こして支払いを済ませる。万札を三枚取り出して“お釣りは取っておいて、運ちゃん”と言ってタクシーから出る。まぁ、僕たちのお金じゃないしね。
・天馬鹿狩(蛇慰安戸・馬鹿)の交換日記
うむ、パンは元々スペイン語。