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beat ~不良~

すいません。旅行先でネットが繋げず、一昨日の投稿を怠ってしまいました。その日の分を含め、今日は二話アップします。(あぁ、ストックが…)

 夏の夜中は蒸し暑く、不快さを感じる。時たま通り抜ける風が心地よかった。イライラを隠せず、下を向きながら歩いていた。とりあえず疲れるまで歩くつもりだった。そんな時、僕は誰かとぶつかったようだ。

「いったい!あんたどこ見てんのよ!」

「あっ、ごめんなさい。」

 目の前に立っていたのは、金に近い茶髪の少女だった。可愛い部類には入るんだろうけど、睨んでいる目が怖かった。

「あんた、この宇津木夢にぶつかって来るなんて良い度胸ね。どこの輩?」

「ごめんなさい。下向いてたから。」

「あんたね、ごめんなさいで済むと思ってたら大間違いなのよ。さっさと金出しなさい。金!」

「持ってないよ。ただ歩くだけのつもりだったから。」

「そう、じゃぁ体に覚えこませてやるわ!あんた達!」

「はいっ!」

 僕は数人の女子に掴みかかられた。抵抗しても、力が強くて動けない。そして目の前の少女が僕のお腹にパンチを入れて、僕の意識は遠のいた。


「君、大丈夫かい?」

 揺り動かされて、目を開けると、そこには会社帰りのサラリーマンのような男性がいた。

「大丈夫、だと思います。」

「いやぁ、驚いたよ。道に君が倒れてたから。救急車を呼ぼうと思ってたところだよ。」

「ご迷惑、おかけしました。」

「誰かに殴られたのか?警察を呼ぼうか?」

「特に問題はありませんから…。ありがとうございました…。」

 家に帰ろうと思って立ち上がった。だけど足に激痛が走る。どうやら気絶した後、足までやられたらしい。

「肩を貸しなさい。一度私の家に来るといい。家内が手当てしてくれるだろう。親御さんには私が連絡してあげるから。」

 親切心はありがたいけど、心配する保護者がいなければ、連絡を受けとる為の電話もない。僕はとりあえずこの人についていくことにした。

 付いたのはそこまで大きいと言うわけではない一軒家。鍵を開けて玄関に座らされる。奥から足音が聞こえた。

「お父さん、お帰り…って、誰!?怪我してるじゃない!お父さん何やらかしたの。」

「道端に倒れていてね、お母さんを呼んで来てくれ。手当てをして欲しい。」

 その後、急いで手当てをしてもらった。暗がりで気付かなかったけど、どうやら血も流れていたらしい。どうやらそれ以外は打撲で、そこまで大事に至らなかった。お礼を言って帰ろうとしたら、夕食まで招いてくれて、ご馳走してもらうことになった。大西さん一家は両親と一人娘の三人家族で、一人娘の雅さんは南陽高校に通っているという話。

「こんな可愛い顔して殴られるなんて!」

 憤慨する雅さん。

「何かあったら私を頼りなさい。今決めたわ。貴方は私の弟分、決定!」

「え、あの…」

「悪いね、慶斗君。ウチの娘は中学生くらいの弟が欲しいと何時も嘆いていてね。すまないが聞いてやってくれ。」

 手当てして貰った上に夕食までご馳走になって、お願いを否定することも無いだろう。僕は快諾した。

 “また何時でも来なさい”といわれて僕は帰路につく。なるべく人通りの多い所を通って帰った。家に帰ると、壊れた電話機が。どこか心が晴れ晴れしていた僕は、穏やかな気持ちでそれを片付ける。その日は直ぐに寝た。

 次の日もこと、渚が遊びに行こうと誘ってくれた。きっと僕を案じてくれての気晴らしなんだと思う。僕らは都市街へと出かけた。渚に引っ張られるようにして買い物を楽しみ、昼ごはんを食べて、はやくも夕方となっていた。帰りの電車に乗ろうと駅まで向かう。その時だった。前からあの青年が現れた。その隣には二人ほど強面の大人もいる。一直線に僕たちの所まで来た。

「やぁ。朱雀慶斗、だったか?」

「何ですか。またあのお話ならお門違いです。佐渡さんに言って下さい。」

「そうじゃない。どうせあの頑固親父にどうとか言った所で無駄だろ?だったらさ、お前から貰えばいい話ってこと。痛い目見たくなかったらさっさと金だしな。」

「慶斗…」

「おやまぁ、遺産もらって女の子誑かすとは、いい趣味してるじゃん。とりあえずこっち来てもらおうか。人目が有ると困るし。」

 強面の一人がチラッと拳銃を見せた。動けば撃つと暗示しているらしい。

「渚は帰っていいよ。」

「駄目駄目。警察呼ばれちゃ困るし、人質がいた方が便利だろ?」

 逆らいようが無かった。そのまま路地裏まで連れて行かれてしまう。銃をちらつかせる男を従えて、青年が勝ち誇ったように言う。

「まぁさ、全部取るってわけじゃねぇし。とりあえず半額よこせよ。俺だって親族だぜ?もらう権利があって当然。」

 権利とか、遺産とか…。中学二年の僕にはイマイチな内容だ。僕はただ、爺ちゃん達の死が悲しいだけなのに。

「一つ、聞かせてください。…爺ちゃんが死んで何とも思わないんですか?」

「は?何言っちゃってるわけ?あんなジジイいなくても変わりねぇし。まぁ、少しは感謝してるかもな。無駄金使う前に死んだことに対して。いや、そうなると病気に感謝しなくちゃだな。アハハハハッ!」

 昨日収まったはずのイライラがまた湧き上がってきた。キッと目の前の青年を睨みつける。“壊したい”。目の前の男を壊せばイライラが直る。そんな感情だけが僕を支配した。

「ぐぇっ…」

 気が付いた時に見たのは、白目を剥いた青年と唖然とする顔の渚。

「このクソガキ!」

 拳銃を振りぬいて向けるけど、時既に遅し。拳銃は宙を舞い、頭部を強打された男は、青年と同じように白目を剥いて倒れた。三人目も渚を人質に取られる前に昏倒させた。

「渚、逃げるよ。」

 駅まで走り、震える手で切符を買った。電車に飛び乗ってやっと一息つく。大きく深呼吸して、今までの出来事を見返した。

 僕は…、僕は自分のこの手で人を殴ってしまった。自己防衛かも知れないけど、本心は目の前の男たちを“壊したい”と思っていた。自分に積み重なるイライラを解消したいが為に。

「慶斗…?」

「僕は…」

「慶斗、守ってくれて、ありがとう。」

 渚、違うんだよ。僕は渚を守ったんじゃない。イライラを発散させる為に人を殴っただけだ…。

 降りるべき駅に着いた途端、僕は渚の前から逃げ出すように走り出した。家まで一度も止まらず走り続け、鍵をかけてやっと座ることができた。荒い息をしながら、自分を思い返した。さっきの行動を起こしてしまった自分への恐怖心、だがどこかで喜びを感じていた自分がいる。このままでは手近な人間を傷つけずにはいられなくなる…。

 それからの僕の行動は早かった。小遣いを全て財布に入れ、家を飛び出した。このままでは渚が一番危ない。僕が一番傷つけたくない人を壊したくなかった。

 家を飛び出したはいいものの、どこに行く当ても無い。昨日の大西さんの家は駄目だ。友達の家も駄目。今夜はどこかの公園に止まるしかない。夏の暑さにこれ程までに感謝したことは無かった。これなら風邪を引く心配は皆無。気が付いてみれば昨日と同じルートを通っていた。今日はしっかりと前を向いている。この先に公園があったはず…。

 公園の入り口に立つと、喧嘩が起こっていた。どうやら女子二人らしい。殴る蹴るの応戦続き、想像を絶する戦いだった。しばらくすると、喧嘩も収まったらしい。一人の女子が地面に伏せていた。立っている方を見れば、昨日僕を殴った女子だった。名前は…、宇津木だった気がする。

「私と張ろうなんて早すぎるんだよ。No2はNo2らしく私に尻尾振ってろ。白虎遥。じゃあね。」

 そして、僕は見つけられた。こちらを睨んでいる。

「またアンタかよ。わざわざ殴られにくるなんて、Mか?今回は財布を持ってきた?」

 一瞬、視界がグラッと歪んだ。その一瞬間、目の前の女子があの青年に見えた。何故か湧き上がってくるイライラ。どうしても抑えられない。

「壊す…」

「あ?何か言ったか?」

「お前を壊す!」

 勝手に動き出した体。次の瞬間には彼女の体は宙に浮いていた。下に落ちてきた所を鳩尾に膝蹴りを入れる。彼女は力なく動かなくなった。胸倉を掴んで頬にパンチを入れた。そうだ、この感覚だ。この感覚が僕のイライラを拭い取ってくれる…。第二発の拳を入れようとした。

「そこまでさ。不良の喧嘩はそんなに深追いするもんじゃないよ。」

 腕が止められていた。次の瞬間には僕のわき腹に衝撃が走り、一気に力が抜けてしまう。

「それに、喧嘩は力だけじゃないのさ。」

「今のは、何よ…。早過ぎじゃない…」

「宇津木、アタシが押さえとくから今日は帰るといいさ。」

「これで勝ったと、思わないことね…」

 女子の一人が見えなくなるまで、僕の腕は拘束されていたままだった。また、殴ってしまった。しかも、殴ることがイライラを解消するものだと確信してしまった。本当にどうしてしまったのだろうか、僕…。

「さて、お前は一体何者だい?見た事無い顔だねぇ。隣町のからの殴りこみかい?名前は?」

「朱雀、慶斗…」

「噂にも聞いた事無いね。本当に不良かい?」

 首を横に振ると、目の前の語尾に特徴がある女子は、うんうんと頷く。“どうりで知らない顔だと思った”とも言った。

「自己紹介がまだだったね。アタシは白虎遥。不良やってる。さっきのスピードは中々だよ。」

「怪我は無いの?」

 “無い”と即答された。不良やってる分、怪我をしても直ぐに治るとか何とか。

「で、どうしてこんな所にいるんだい?これから不良になる為とか?それだったらお勧めしないよ。」

 僕だって不良なんて異次元的空想人種だと思ってたから、さらさらなる気にはなれない。適当に帰る家が無いと言っておいた。

「んじゃ、私の家に来なよ。この先のアパートに住んでるのさ。住んでるの私しかいないから歓迎するよ。あ、猫が一匹いるけど構わないかい?」

 四の五の言わさず、彼女は僕を引きずって言った。着いた先はボロアパート。玄関を開けるとニャーニャーと猫の声が聞こえた。

「お、ノラぁ。お迎えご苦労さんだよ。」

 そのまま居間まで案内される。水道水を出された。喉も渇いていたので一気に飲み干す。

「んじゃ、ちょっとばかり話聞こうか。本当は帰る家が無いなんて嘘だろ?アタシには分かっちゃうんだなぁ、これが。」

 後ろに“言わないと殺す”的なオーラを放っていたので、僕は一つ一つ順を追って話した。爺ちゃんが死んだこと、一人になったこと、遺産をめぐる問題、電話の嵐、イライラが募って殴ればスッキリすること。全てを話し終えると、目の前の女子は最後にこう言った。

「ここに住むしかないね。」

「なんで!?」

「分からないかい?アンタの攻撃を受け止められるのはこのアタシぐらいのものだよ。逆手に取れば、アンタのイライラは私にぶつければいい。そうすればアンタは本当に傷つけたく無い人を傷つけずに済む。そうじゃないかい?」

「それは、まぁ…」

「決まりさ!アンタはこれからここに住むといいさ。ただし、家事は分担さ。いいね?女の子どうし仲良くやっていこうよ!」

 ビシッとグッジョブポーズをしたけど、不可解な点が一つ。

「僕、男だよ?」

「え、あ、嘘?嘘さ、絶対嘘さ。私よりも可愛い顔して…、いや待って、よく見れば男子っぽいかも…。」

「あの…、白虎さん?」

「まぁ、女は度胸さ!それに“遥”って呼び捨てにするといいさ。じゃ、私は夕飯作るからシャワーでも浴びて来な。」

 こうして、僕と遥は出会った。白虎遥と言う人物は、もしかしたら渚より大きい存在かもしれない。今の僕を受け入れてくれる、たった一人の人間…。

・宇津木夢の交換日記

えっと、交換日記ってどんなこと書けばいいの?そうだ、けー君の詩でも書いてみようかな♪

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