death ~イライラ~
~前回のあらすじ~
青龍は死んだ。玄武も死んだ。
~予告~
次に死ぬのは…。(シリアスパート、“破壊編”が始まります。)
昨日は良く寝た。疲れもさっぱりと取れたし。そして最終日の今日は、昨日の後片付けなんかやって、今は施設長の人にお礼なんか言ったりしてる。この挨拶が終われば、僕らはバスに乗って住み慣れた街に戻るだけだ。お土産のお弁当を貰って、バスに乗り込んだ。帰りは基本的に各学校で途中停車するPAを決めるので、実質この場で他の三校ともさよなら。北川の蛇慰安戸君と腰巾着君と遥に簡単な挨拶とは交わしたし、西花の人には見つからないようにした。東谷のライアン君が本当に南陽のバスに乗り込んで来ようとしていたので、鉄拳制裁で追い出しておいた。玄武君もつまみ出して置きたかったんだけど、それは無理だったよ。まぁ、ヘナリとしててウザく無かったので良しとします。
バスの中で、再び玄武君虐めをしたり、思い出を話し合ったり。お昼ごはんのお弁当を食べ終わった辺りから、昨日寝たのにも関わらず、睡魔が襲ってきた。この3日分の疲れが襲ってきたのだろう。僕は眠気に身を任せることにした。
夢を見た。だけど、リアルな夢。過去の出来事がそのまま再現された夢…。
「爺ちゃん!爺ちゃんは!?」
とある初夏の日。手術中の赤いランプが消えて、白衣を着た医者が出てきた。僕の心配そうな顔を見て直ぐ、首を横に振った。“お歳の為、耐えられなかった”と理由付けされる。白装束を着せられて線香を供えられ寝かされた爺ちゃん。ガンが見つかり、抗ガン剤では間に合わず、摘出手術を行った。だが、彼の老体は手術に耐え切れなかった。
「爺ちゃん、なんで死んじゃうのさ?何でみんな僕を置いていくのさ?」
つい数ヶ月前には婆ちゃんが死んだ。特に目立った病気も無く、老衰で死んだ。僕の両親は幼い頃に交通事故で死んだ。これで、僕は一人…。親戚もいないし、いたとしても知らない。天涯孤独の身と言う言葉が嫌にしっくり来る。病院の屋上に上り、一晩中泣いていた。唯一の家族を失って誰が悲しまないだろうか…。
次の日は学校を休んだ。先生も事情を知って、快く許してくれた。“心を落ち着かせてから学校に戻ってきなさい。”と優しく言ってくれた。
その日の夕方。放課後頃だろうか、家のチャイムが鳴る。ドアを開けると、僕の幼馴染である椎名渚が立っていた。制服を着ているから、学校から直接来たようだ。
「先生に聞いたの。大変だったね、慶斗…。」
「ゴメン、今日は帰って。誰とも話したくないんだ。明日は学校行くから。」
そう言ってドアを閉めようとしたが、靴を挟み込まれて閉めるに閉められなかった。そのまま成り行きで渚を家に上げる。
「ご飯大変でしょ?私の家に来て。パパもママも歓迎してくれるから。私たち、幼馴染でしょ?…そっか、わかった。迷惑かもしれないけど、後で夕食と明日の分の朝食を持ってきてあげる。」
そう言って、彼女は家を出て行った。本当に感謝している。だけど、どうやっても今は気分が乗らないんだ。
30分位経っただろうか。再びチャイムが鳴った。渚なら好意を無碍にするのは悪いので、ドアを開ける。そこにいたのは20代前半の男の人。イライラしたような顔でこっちを見ている。
「上がるぞ。」
そう言って勝手に家に入り込むその人。何が何だか分からなくて、僕は一瞬呆然としていた。だけど、直ぐにその人を追いかける。僕はあの人を見たことが無い。それに勝手に上がった意味が分からない。
男の人を追って行くと、その人は勝手にリビングを物色していた。僕は怒りより恐れを感じていた。一体何なんだ?この人…。僕の視線に気づいたのか、その人はこっちに近付いてきていきなり胸倉を掴んだ。
「何処だ!何処にあるんだよ!」
「ま、待ってください。貴方は誰なんですか?」
「そんなの関係ねぇよ!あるんだろ!遺産だよ、い・さ・ん!あのジジイ死んだんだろ!さっさと遺産よこせよ!」
ガクガクと僕を揺さぶる男の人。僕は怖くて何も言えなかった。僕が何も言えないのを見ると、その人は僕を放り出して再び物色を始める。そして、通帳を見つけたらしい。
「すっげぇ。こんなに貯めてんじゃん。借金の元取れるし!」
その通帳と印鑑を持って、家を出て行こうとするその人。僕はそれでも何も言えなかった。しかし、玄関で怒鳴り声が聞こえてくる。
「てめっ、誰だよ!」
もしかして渚!?渚を危険な目に合わせるわけにはいけない!そう思って玄関まで出てみれば、中年の男の人がいた。怒り狂う青年男性に、柔らかな物腰で対応している。そして僕にも気が付いたようだ。
「あぁ、君かね?朱雀慶斗君は?」
「はい…。」
「怖がることは無い。私は君のお爺ちゃんの朱雀慶駕さんに雇われた者だよ。色々やる事があるんだが、少しお邪魔してもいいかな?君もだよ。」
青年をたしなめるその人。とりあえず上がってもらった。青年の方もいやいやながら付いてくる。お茶を出すと、名刺を渡された。“佐渡法律事務所 佐渡道信”と書かれている。ここに来た理由を聞くと、爺ちゃんは生前から自分の死後のことを準備していて、遺言も書いていたらしい。それをバックアップしていたのが佐渡さんだそうだ。因みに青年の人は、遠縁の親戚に当たる人らしく、借金に困っているらしい。
「では、遺言を…。“全遺産の90%を我が孫朱雀慶斗に譲渡する。残りの10%を他の親族で等分すべし。”だそうだ。まぁ君はまだ中学生。生活費が稼げる歳でもない。それを案じていたんでしょうね。良いお爺ちゃんじゃないですか。」
「何が“良いお爺ちゃん”だ!この糞野郎共が!こんな紙ッ切れがいけねぇんだよ!」
そう言って、遺言書を破く青年。更に持っていたライターで燃やした。
「ハハハッ!こんなの無ければ、遺産全員に等分されるんだよ。ザマァ見やがれってんだ!」
しかし、佐渡さんはため息をついた。
「知らないんですか?遺言書を故意に破損させた場合、遺産を受理する権利を剥奪されるんですよ?」
「なっ、そんなはずが…。」
「いいえ、今さっき貴方は自分からその権利を失いました。それはあなた自身の責任です。慶斗君、これからの事だが、遺産の分配は私に任せてくれませんか?前もってお爺さんが私への支払いは済ませているから、そこの点は心配ない。何か困ったことがあったら私に連絡をして欲しい。では此処にサインしてくれるかな?これをもって遺言書の内容を受諾したこととなるから。」
僕は言われるがままに書類にサインした。青年はそこら辺をガンガン蹴りながら帰って行ってしまった。そこでやっと僕の緊張が解ける。佐渡さんもお茶を飲んで帰っていった。渚が現れたのはその直ぐ後。一日中何も食べていないせいもあって、一気に食べた。渚はそれを見て、“また明日”と言い残して帰っていった。
その日は少ししか眠れなかったが、落ち着くことができた。気持ちの整理をして、翌日は渚の迎えもあって、登校することができた。登校途中で、近々渚が僕の家の隣に引っ越してくる事になったと聞いた。元々100mも離れていないのだけど、僕の世話をしたいからもっと近くへ引っ越してくるらしい。後で渚の両親にお礼を言おうと思った。
昨日は一大事だったけど、また普通の学校生活が送れると思っていた。だけど、そうは行かなかったのが事実。事の発端は家に帰ってから直ぐにかかって来た電話だった。
「もしもし、朱雀です。」
「あ、慶斗君?お久しぶりだね~。おばちゃんのこと覚えてるかなぁ?あぁ、でもあの時ちっちゃかったから覚えてないか~。」
どうやら親戚の人らしい。このような電話が夜中になっても何本も届くようになった。最初は優しく“大丈夫?”“一人で怖くない?”とか優しく言っている。だが、最終的に話は全て“遺産”に持っていくのだ。僕が受け取った金額、相続税とか言う税金を払ってでも、数千万はあるのだ。しかも、爺ちゃんの死亡保険でその値はまた跳ね上がる。あまり豪勢な事は好きじゃないので、倹約をしていた僕。これなら大学卒業の後、自分の仕事に付くまではなんとか暮らせるかもしれない。そう思っていた。だけど、今まで一切の連絡をしてこなかった遠縁の親戚が、今になってやたらと連絡をするようになったのだ。いくら僕でも嫌になってくる。
その内、そんな電話は学校まで掛かってくるようになった。教務室まで電話をかけてくるのだ。一応は心配してくれているようなので、途中で一方的に切ることもできない。佐渡さんにも連絡を取った。“善処するから、お金を渡すことはしてはいけないよ”とアドバイスされた。だけど、それも虚しく電話の嵐はやむことが無い。
友達には遺産の話はしていなくて、集られる事は無い。だけど、精神的に嫌になってくる。唯一慰めてるくれるのは渚。彼女だけには真実を話しておいた。
家に帰ると電話の嵐。嫌になって電話線を引っこ抜いておきたい。だけど、本当に必要な連絡が入ると悪いので、それはできない。着信拒否も試したけど、相手も公衆電話や携帯からと、手段を変えてかけるので実質無意味だった。
そんな感じで数週間が過ぎ、夏休みに入った。夏休みに入ると電話の頻度は更に高くなり、僕のイライラは増すようになった来た。とある日のこと。渚の引越しも終わったある日、何時もの如く電話に応対していた。“えぇ”や“そうですね”などと気の無い返事をしながら、僕の思考は他の所にあった。
“何で爺ちゃんの死を悲しまないんだ”
その疑問だけが頭を過ぎる。みんな電話をかけてくる人は全員そうだ。口先でも僕を心配するような口ぶりをする。だけど、今の今まで爺ちゃんの死を悲しむ人がいなかった。考えてみれば、最初に現れた青年もそうだ。爺ちゃんは遺産を残す為に死んだんじゃない!!
気が付いてみれば、僕の足元には壊れた受話器があった。でも何故だろう?今までのイライラを中和するように、スッキリとした気分があった。壊れたと思っていた電話が再び鳴り始める。本体を手にとって受話器に投げつけた。今度はどちらも完全に壊れた。それに応じて僕のイライラは消えていく。だけど、そこで理性が働いた。なんで僕は物を壊しているんだ、と。
物を壊してイライラを発散させるなんて小さな子供のすることじゃないか。何をしているんだ僕は…。あぁ、矛盾するようなこの感覚がまたイライラする…。僕は何も持たず、家から出た。
・椎名渚の交換日記
はぁ、やっとオリエンテーションが終わった。ちょっと疲れたかな…。慶斗もよく寝てるけど…。何の夢見てるのかな?