fire ~豚の丸焼き~
~前回のあらすじ~
朱雀が一緒に回った肝試しの相手、それは妄想癖の激しいあの人…、ではなく、敬語系武闘家少女。チート的立場の新キャラはこの後どうなって行くのだろうか?
~予告~
さらば、玄武君…
羞恥まみれの肝試しが終わった後、お風呂に入っていた。今日は間違えないよ。翔太達ルームメイトと一緒に行ったし、今日は男子が後だから。絶対の絶対に間違いようがないからね。
僕が源泉の近くに寄って、一人温まっていると、プクプクプクプクと泡が立ち始めた。すかさず足で泡の発生源と思われる場所に蹴りを入れる。すると、プカ~ンと言う効果音が似合いそうな感じで、翔太の体が浮いてきた。どうやら当たり所が良かったらしく、失神している。まぁ、せめてもの情けと言うことで、源泉の熱いお湯が流れ出す所に置いておいた。
「け、ケイ…、熱湯プレイとは俺でさえも思いつかなかったぞ…。」
次は翔太がバタバタしなくなるまで顔をお湯に鎮めておく。動きが止まった所で手を離すと、アクアラングを背負った翔太が浮上。どこに持ってたのさ?
「ふっ、ケイの愛情を完全に受け止めるにはこれ位標準装備なのさ。」
煩かったので、酸素タンクの気圧を上げて、酸素中毒にしておいた。これで黙るだろう。まぁその内生き返るだろうけど。だって、コメディーですから。後でファブ○ーズか消○元でも飲ませれば一発のはず。
「神速、やっぱり非道だなぁ。」
「男子にだけね。」
「それじゃ、俺も気を付けないとだぜぃ。」
冗談を言いながら近付いてきたのは、蛇慰安戸君の腰巾着君。名前は知らない。知る必要が無いって言われたから。彼自身も僕を“神速”としか呼ばないし。
他愛も無い話をしながら、途中で蛇慰安戸君を交えながらも会話をしていた。昔は僕も不良をやっていたせいかもしれない。ウマが合うと言ったところだろうか?
上せてしまうのもアレなので、僕らはあがる事にした。そうそう、言うの忘れてたけど、ここに玄武君はいないんだ。彼は天に召されました。話は数時間前、キャンプファイアーまで逆上る。道理でキャンプファイアーに関する話の内容が薄いと思ってたんだ。
『これより!メインイベントを始めるぞ!』
『ウォーッ!』
『今年のメインイベントは、“豚の丸焼き”だ!生きが良いのを一匹仕入れることが出来た為、急遽計画を変更した!まずは、豚の入場だ!』
『ウォーッ!』
プシューッとこの広場の入り口に、白いガスが噴射され、その中から北川の人が神輿らしき物を担いできた。それに乗っかってるのは、足を組んで偉そうにする豚。あぁ、何か豚で思い出したような…。どうでもいいか♪
「慶斗、アレはただの豚じゃないよ。」
突然僕に話しかけてくる遥。そして再び通訳を始めるのだった。
『いやぁ、俺も有名になった者だなぁ、照れるぜ!』
この一文で僕が気になっていた事が解決した。あれ、“玄武君”が突然変異した豚だ!何か勘違いして歓迎されてると思ってる。こうしちゃいられない。行動を起こさなくては…。
僕は、手に持っていた皿とフォークを捨ててその場を立ち去った。それだけ。え?僕が玄武君っぽい豚を助けるとでも?それは大間違いだよ。僕は豚肉は好きだけど、人肉は好きじゃないんだ。あ、渚たちも呼ばなくちゃ。
「と言うことで、豚は玄武君なんだ。あの時森に逃げて行って行方不明になったと思ったら、メインイベントの材料になったみたい。」
「けー君、これからどうするの?」
「う~ん、見学する?真実を知ってる少数派としての、せめてのお見送りって奴。」
「じゃぁ、私はお線香とか買ってくるね。」
「あぁ、大丈夫だよ渚。そこら辺の雑草をお供えすれば十分喜んでくれるはずだから。」
「は~い。」
てな分けで、僕らは玄武君の最後を見に行くことになりました。広場では既に、北川を中心として何処かの部族の儀式的なものが執り行われていた。中心に据えられた神輿に乗るのは、やっぱり玄武君=豚。足を組んでふんぞり返ってる。完全に豚としての骨格を無視しているよね、あれ。
『僕の為にこんな晩餐会を開くなんて、僕も崇められる対象になっちゃったみたいだ。いやぁ、つくづく俺ってすごなぁ。』
逐一の遥の通訳も忘れない。そして、皆が静まったと思うと、人垣が割れて一人の人がその間を歩いていく。その人は長い髪で、顔には目元だけを覆う仮面。黒いレザースーツは所々破いてあった。そして右手には長い鞭。黒髪や黒のレザーと相まって、やたらと露出している肌が白く見える。いだい、いだだだだだ…
「けー君、アレが趣味?」
違う違う違う!僕はただ状況を説明しなくちゃいけない立場にあるだけで…。
「これより、裁きの時間だ。では、頼んだ。身を削らない程度に皮を剥いてくれ。」
鬼曹長先生が宣言する。すると、隣のレザーの人は鞭をパシン!と地面に叩いた。思い出した!あの人西花の先生だ!なんでこんな所であんな格好をしてるのさ?しかも鞭で皮を剥くの!?どこの拷問ですか。
「西花~、スミコだよぉ。豚を虐めつくしてから食べようって言う輩はどこのどいつだ~い?…お前らだよ!」
ワハハハと笑い声が上がる。笑えないって、どこに面白いツボなの?
「キャハハハハハ!面白いよ、あの人ホントに面白い!西花だって!本当は西岡なのに!!自分の高校名と掛けてるよ~!」
だから夢の笑いのツボがイマイチ理解できないんだって。
『え、虐める?食べる?皮を剥ぐってどう言う意味?』
遥の通訳。文字通りの意味だよ。ドンマイ☆ それからと言うものの、豚の騒ぎ声が激しくなった。それを見た鬼曹長先生が、木に縛り付けてしまう。そして、キャンプファイアーで炙られ始めた。
「ギーギーギーギーピギーッ!」
『熱い、暑い、厚い、篤い!あっ、でもこれはこれで楽しいかも…』
遥は本当に通訳をしているのだろうか?甚だ疑問に思うんだけど…。
豚は木に縛り付けられたまま、火の中でクルクルクルと回されながら炙られている。どうやら皮むきの刑は免れたらしい。縄が燃えて、木と豚を縛り付ける物を無くして行く。そして、最後の一筋が切れた。豚は火の中へ真っ逆さまに…。
「熱ぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
『明智ぃぃぃぃぃぃ!』
遥、君は適当に通訳していたようだね。今さっき炎の中から現れた玄武君の言葉で知ったよ。何故か炎の中から飛び出してきたのは、人間態に戻った玄武君。どうやら人間に戻ることが出来たらしい。めでたしめでたし。チッ…。
「玄武!」
「玄武君!」
「玄武さん!」
などなど言いながら玄武君に駆け寄る周囲の皆。玄武君自身も涙目で、“やっぱり俺の事を探していてくれたんだ…。”などと言っている。これぞ、正しい青春。だと思わないよ?
「おい、玄武、豚は何処へ行った?」
「火だ!火を消せ!」
「豚の丸焼きが見えないぞ!」
「何処に逃げた!?」
「違う、炎の中からでてきたのは玄武だけだ!」
「ッて言う事は…!玄武!お前が全部豚の丸焼き食ったのか!」
「ひっ捕らえろ!」
「血祭りに上げようぜ!」
反論の余地無く、玄武君は何処かへ連れて行かれるのであった。ドンマイ☆
以上、回想シーン終了。今はロビーでスプ○イトを飲んでる。やっぱり炭酸だったらコーラよりこれでしょ。隣では蛇慰安戸君が5本目の牛乳をグビグビ飲んでいる。腰巾着君はコーヒーだ。眠れなくなるよ?
「大丈夫でさぁ。“ノンカフェ”なんで。」
既に女子は部屋にいるのだろう。女子の人影は見えなかった。オリエンテーションも明日で最後か…。行きたく無いと思ってたけど、意外に最終日を前にすると帰りたくなくなるのはどうしてだろう?やっぱり楽しいと感じているだけだからだろうか?
明日はお昼前にここを発つ。学校への到着時間は夜だったはず。
「ケイ、こんな所に。さぁ部屋に戻って野球拳でも…」
殴った蹴った翔太は死んだ。人が余韻に浸ってるのに、ぶち壊して…。
「冗談だよ、本当は僕の考案した“脱衣枕投げ”をしようと…」
翔太は再び死んだ。それに、パクリエーションは駄目だよ。
部屋に戻って、成り行きで枕投げを始めた僕ら。こんな直線コースの枕なんて目を瞑っても避けられる。最終的に僕と腰巾着君の頂上決戦となった。
「枕投げに夢中になるケイ、萌え…」
何も言わず、枕を投げて昏倒させておいた。枕でも、中に鉄アレー仕込んで喉元にヒットさせれば十分に出来るよ♪いい加減、僕も疲れてきたので、明日また寝れるかもしれないけど、今日は寝た。
この時はまだ、明日に訪れる悪夢を知ることは無かった。過去の思い出したくない古傷を舐めることになるなんて…。
・青龍翔太の交換日記
あぁ、ケイ。俺はこんなにも君への好意を向けているのに、どうして分かってくれないんだ。あの時から君と言う存在に心を奪われた故、君を思い続けている。いや、もしかしたらケイはこの現状を楽しんでいるのかもしれない。そうだ、そうに違いない。だからこそ俺に対して毎日毎日わざわざ新しいプレイを考えてくるのだ。あぁ、ケイも恥ずかしがりやだなぁ。所謂ツンデレと言う奴だろうか?おぉっと、この文は消さなくては…。またケイに新しいプレイの実験台に…。いや、それはそれでいいかもしれない。