pig ~そうだ、漫才をしよう~
~前回のあらすじ~
何だか、色々あったけど、楽しくカレーを作る事ができました。
~予告~
玄武と二人に異変あり!
いきなりだけど、カレーが出来上がりました。お皿にご飯とカレーを乗せて食べ始める。青空の下で食べるカレーはおいしい。渚たちが切った食材は一口大に、ルーのとろみ加減も絶妙だった。カレーの出来を褒めあいながら食べていると、お皿にご飯だけを盛った鬼曹長先生がやって来た。
「検閲だ、少し貰うぞ。」
「イエッサー。」
カレーを掬って一口食べる。
「なるほど、此処は“当たり”のカレーのようだ。」
などと意味不明な事を言って、立ち去ってしまった。僕らが首を傾げる中、砂煙が上がるのが見える。しかも此方に向っている。
「渚さんのカレーじゃぁ~!」
来た、玄武大那君。フルネームには特に意味は無いけど。キキーッと急停止すると、ギラギラした目で周囲を見渡す。
「カレーの鍋はどこだ~。」
餓えた猛獣ですか?君だって自分の班のカレーがあるのに。
「ゴロちゃん、あれ追い払える?」
「これも言ったかも知れないが、朱雀、中々毒舌家じゃな。」
「褒め言葉として貰って置くね。ところで何時まで僕の右肩に乗ってるつもり?」
「あぁ、すまん。左肩に移動するとしよう。」
そう言う意味で言ったんじゃないんだけど…。
「見つけたっ!これで渚さんのカレーは俺の物じゃぁ!」
カレーの入った鍋を高々と持ち上げ、意気揚々と叫ぶ玄武君。そろそろ僕らもお腹一杯だし、あげてもいいけど、…なんだか癪だなぁ。そう思ったところに、新たなウザキャラが登場した。
「止めたまえ、そこの愚弄人。お嬢さん達の作ったカレーは古今東西俺の物と決まっているのだから。その汚らしい手を離すといい。」
ライアン・リノックだった。そう、あの東谷高校のエセ外人だ。どうやってあの貼り付け台から逃げたんだよ?あぁ、まったく、ウザいキャラが二人いると、どこかの特殊粒子を出すドライヴみたいに二乗化される。ウザさが。
「ゴロちゃん、あの二人まとめてでいいや。」
「お前も“砲丸投げ”じゃな。」
「?…ゴロちゃん、投げるのは槍だから。“投げやり”って言ってね。それに、一々取り合ってると埒が開かないし。岩でも何でもいいから。口を封じてくれる?」
「しょうがあるまい。ワシを闇から救い出してくれた恩義もあるからの。」
そう言って、何やら呪文を唱え始めたゴロちゃん。考えてみれば、僕の周りって律儀な人が多いね。
「玄武ぅ!おいコラ待てよ!自分の分のカレー食え!」
三度誰かが現れたと思ったら、翔太だった。どうやら、玄武君は自分の班のカレーを食べずに此方に来たらしい。
「誰があんなカレー食えるものか!ご飯はケシズミ、カレーもケシズミ。あんなのカレーと認めてたまるか!!」
「馬鹿野郎!“男の田舎カレー”舐めんじゃねぇぞ!あぁ、ケイじゃないか。どうだい、俺達の作ったカレーでも…」
「ハダァー!」
煩かったので、気分的に投げ飛ばしておいた。
「転生、ハァッ!」
次の瞬間、玄武君とライアン君と、たまたま“偶然的に投げ込まれた翔太”は『豚』に変わった。その拍子、宙に飛んだ鍋は蛇慰安戸君がしっかりキャッチ。
「フギーフギー!」
あぁ、誰が誰か見分けが付かないや。便宜上、豚1と豚2と豚3で。
「フガフガフギィ!」
「ブブブブブ!」
「ピュギー…」
生憎僕はバイリンガルでもバウリンガルでも、ドクトル先生でもないので、動物の言葉は分からないし、喋れない。
「ふむふむ、成程ね…」
隣に立つ遥が頷いていた。
「遥、もしかして分かるの?」
「当たり前さ、人間として当然の嗜みだよ、うん。」
一人納得してるけど、僕知らなかったんだけど?人間の嗜みなの?それより、何て言ってるの?
<遥の豚語解説>
『なんだい君たち?姿がまるっきり豚じゃないか。はっ、君の様な下郎な者にはその姿がお似合いだよ。』
『何言ってるんだこのナル野郎!てめぇも豚そのものだろうが!』
『何言ってるんだ、俺ともあろう、このライアン・リノック様がそんな下衆な動物などに…、フガッ!?』
『そら見ろ!それにな、豚を馬鹿にするんじゃねえよ!お前どれだけ豚肉にお世話になってるのか知ってるのか!』
『ふっ、馬鹿は君だ。俺は牛肉しか食べないんだ。母上が何時も作ってくれるトンカツは絶品だよ、君。』
『いや、豚肉食ってんじゃん。』
『冗談はよしたまえ。トンカツのどこの豚肉の要素が。』
『いや、トンカツの“トン”って“豚”じゃん。』
『な、なんだって!?では、今の今まで俺は騙されていたと言うのか!…しかし待て。あのトンカツに使われている肉、あれは確かに牛肉と同じ味がしたはず。母上の作る“牛丼”や“牛肉のソテー”、“牛肉のハンバーグ”…』
『お前さ、お前の母親に騙されてんじゃねぇの?だからお前が今まで食べてきたのは牛肉じゃなくて豚肉。』
『NOOOOOOOOOOOOO!それで、き、君はこう言いたいのだね?俺は今の今まで共食いをしていたと。』
『あぁ~、俺はそう言いたいのか。』
『はっきりしてくれたまえ!』
『所で玄武、お前何時までウジウジしてるんだよ。』
『うぅぅ…、俺の美貌が…。豚なんて嫌だブゥ…。』
『いいか、玄武。豚になったからってイジケル必要なんてどこにも無いんだ。豚には豚らしく、生きていく道が残されている。』
『それって…、食肉の事を指しているのか?』
『ご名答。』
『嫌だぁブゥ~!』
『あ、玄武の奴どこか走ってったぞ。狼に狙われない事を祈るか。んじゃ、エセ豚リノック、もう一つの道を教えてやるよ。』
『もう一つの、道…?』
『そう。その道に乗るための手はずも用意してきた。この紙に書かれている通りにするだけでいい。』
『わ、わかった。やってみようじゃないか。』
~数分後~
『はいどうも~。ボケ担当の豚で~す。』
『突っ込み担当、豚で~す。』
『『二人合わせて、“イベリコ豚”で~す』』
『いやぁ、最近暑くなってきましたねぇ。このままだと蒸し豚になってしまいますよ~。』
『うん、そうやな。』
『なんや、豚、元気ないなぁ。』
『だってさ、二人とも同じ名前やで。しかも二人ともエセ関西弁やで、文字だらけだと見分け付かんわぁ。』
『そやな、俺達が10年芸人生活やってても売れん訳がそれやろな。よしゃ、今日は二人の新しいキャラでも考えるとしよかぁ。』
『えぇねぇ。此処から心機一転頑張りまひょ。』
『よし、じゃあ俺は関西弁をやるさかい、お前は関東弁を頼んます。』
『分かった。任して置け…って、俺の言葉に全く特徴ないじゃないか!』
『じゃ、佐賀弁でも喋っておけ。』
『俺、“がばい”しか知らないんだけど…。』
『話が進まないからお前スペイン語でも喋っておけ。じゃ、始めるぞ。』
『どうも~、豚で~す。』
『Hora mis amigos, mi nombre es cerdo.(Hello my friends, my name is pig.)』
『なんでスペイン語を英語に訳すんや?』
『Mi auge. (My boom)』
『そんなもんかいな。ま、漫才いこか。』
『Si. (Yes.)』
『最近暑いわ~。このままでは蒸し豚になってしまうわ~。』
『A mi tampoco. (I think so too.)』
『いや、そこは突っ込みやろ。“そこまで暑くないだろ!”ってよ。』
『Yo entendo. (I understand.)』
『続き行くで~。最近俺達ラップにはまってるんや。今日は俺達の歌声聞かせてやろうぜ!』
『vale. (OK.)』
『Yo 俺達 豚!』
『Yo. (I.)』
『豆は英語で soy!』
『Soy. (am)』
『細胞 歌え cell! do! sing!』
『cerdo. (pig)』
『『We are pig!』』
「黙れー!」
思わず僕はそう叫んでいた。豚になってまでお前らは何をしたいんだよ!?てか、本当に漫才なんてしているの?
「遥、本当にスペイン語なんて喋ってるの?しかも豚語で…。」
「う~ん…。微妙なんだよね…。イノシシの声なら簡単なんだけどさ…。人間に改良された動物の言葉は、分かりにくいのさ。因みに、リオデジャネイロテナガアカザルと同じ位難しいよ。」
比べる相手がピンとこない…。そんな動物いるの?
「ピギー!ピギー!」
「ウォインク、オインク!」
しかも、これが漫才だろうか?ただの取っ組み合いにしか見えないが。
「因みに、分かりにくい所は脳内補正を施してあるから。」
「それは何%くらい?」
「う~ん、少なくとも、漫才部分は全てかな?」
なるほど、半分以上と言う訳か…。
―朱雀達の知らない所で…
「さて、今日のキャンプファイアーでのメインイベントの用意も完了しましたし。どうします?錫先生?」
「私と夕日に向って走ろうじゃないか!」
「遠慮しておきます。それに数はそろえた方が盛り上がります。」
「そうね、んじゃ、私に任せなさいっ!」
ビュンッと言う音を残してヤクミン先生は消えてしまった。
・天馬鹿狩(蛇慰安戸・馬鹿)
北川高校の不良。何かと律儀な人。朱雀とはまぁ、良好な関係でしょう。