lost ~食べられる!?~
~前回のあらすじ~
勇者討伐も無事(?)に終わって起きてみたら、両手両足に花の状態の朱雀。“僕に罪は無い!”と言い張るが、周りは寝ていて聞く耳持たず。一人だけ状況を見ていた腰巾着の人には茶化される始末だった。そして夜の肝試しは北川に手にゆだねられることに…。
~予告~
貞操の危機ってなんだ?
これから何をしようか。飯盒炊爨まで一時間くらいあるしな…。班のメンバーも決まってるし。暇だなぁ。渚たちといるのは何だか気まずい。翔太は何時ものことながら論外。玄武君?あんなの管轄外だよ。う~ん、蛇慰安戸君の所でも…。
そんな事を考えていたら、肩をトントンと叩かれた。それに即座に反応した僕は、その手を握って一気に背負い投げ!…はしなかった。勿論、僕の後ろに立つな的な台詞もなし。
「あ、あの…。ご主人様?」
はい!?僕は驚きのあまり振り向いてしまった。そこにいたのは、僕より少し背が高い女の人。年はあまり変わらないみたいだけど…。
「えっと…。」
「あ、申し遅れました。ボク、小波希と申します。朱雀慶斗様で宜しいでしょか?」
「えぇ、そうですけど…。」
「やっぱり!男の子にしては小さめの背格好。なんと言っても可愛らしい顔。やはり慶駕様の言う事は正しかったです。」
女の子じゃなかったら初対面だけどいきなり殴ってたよ。誰に聞いたって?慶駕様?…、慶駕…。この名前どこかで聞いた覚えが…。
「あれ?やっぱり覚えてませんでしょうか?貴方のお爺様じゃないですか。」
そうだ!僕の祖父の名前だ。何時も“爺ちゃん”って呼んでたから、うろ覚えだったんだ。
だけど、この人は一体誰なのだろう。爺ちゃんの知り合いにしては若すぎるにも程がある。僕の知らない親戚の子だろうか?
「えっと…、爺ちゃんと君とはどう言う繋がりが?」
正直言って、爺ちゃんから紹介されたことも、存在を教えてもらったことも無い。
「希とお呼びください、ご主人様。それに、慶駕様とは別に特別なつながりなど…」
イヤンイヤンといいながら、赤い顔に手を当てて首を振る目の前の人。思考が何処かへフライアウェイしてしまったらしい。
「こほん、失礼いたしましたご主人様。取り乱してしまいました。実を言うと、ボクはご主人様のお世話をする様に仰せつかっております。以前より慶駕様ご夫妻も先は長くなく、ご主人様が独り立ちするまで生きていられない事態も想定されておりました。その為、当時メイドの訓練を続けていた私にお呼びが掛かったのでございます。ですが、慶駕様たちは病に倒れ、予定よりも早くこの世を去ってしまい…。本当はあの後直ぐにでもご主人様の元へ馳せ参ず、と思っていたのですが、教官より訓練を全て修了しない限り駄目だと言われまして。その為、今の今までご主人様のお目にかかる事が出来ませんでした。申し訳ありません。」
流暢に一気に長い言葉を喋ると、深々と頭を下げる目の前の人。爺ちゃんたち、僕の為に色々考えていてくれたんだ…。目頭が熱くなってくる。僕は、なんで不良なんかやってたのだろうか…。つくづく自分が嫌になってくる。
だけどさ、僕は今の生活で間に合ってるんだよね。う~ん、渚に食事の面倒は見てもらってるのは確かだけど…。
「えっと、希さんだよね?僕は一人暮らしでそれなりにやってるから。爺ちゃんや君の好意はありがたいんだけど、君だってまだ学生でしょ?自分の生きたい様に生きればいいじゃん。ね?」
「駄目です!慶駕様には前金を頂いております。お金があるなしの問題ではないのですが、対価を貰っている以上、私もご主人様に尽くす義務があるのです。どうかボクを使ってやって下さい。ご主人様の為なら火の中水の中竜巻の中でも馳せ参ずることが出来ましょう。それに家事は勿論の事、あらゆる分野の学問に精通しております。家庭教師としても役に立つことが出来ましょう。…ボクは夜のお供も出来ると存じ上げます。」
再び顔を赤らめる希さん。この人は自分の言葉に責任をもてない人だ。でもさ、僕だって罪悪感と言うか恥ずかしさと言うか、そういうの感じるわけで…。あ、そうか。
「希さん。」
「希とお呼びください。もしくはノゾミンでも。」
「じゃ、希。一つ聞くけど、僕の言う事なら何でも聞いてくれるんだよね?」
「勿論です!掃除洗濯食事の用意、予習復習や軍事関係、そしてあーんな事や、こーんな事まで…。ハグゥッ!」
また顔が赤いけど気にしない。
「じゃぁ早速。“君の家に帰って”くれるかな?僕の命令だよ、聞いてね?」
「あ、はい!勿論でございま、す…?え、あぁぁ…。」
クルリと向きを変えて歩き去っていく希。彼女には悪いけど、これでいいんだ。あ、一つ聞くの忘れてた。
「希、どうやって此処まで?」
「こうやってでです!」
ビューンと砂埃を撒き散らして、新幹線にも劣らないだろう速度で走っていってしまった。今時のメイドは身体能力も凄まじいんだね…。ま、これでお別れだけど。あ、あの人に飯盒炊爨が始まるまで話し相手になって貰えばよかった。また暇じゃん…。
未知との遭遇の後、僕はまた何気なく歩き回っていた。メンチきってる北川の男子諸君は無視して、西花のあの恐ろしい視点も掻い潜ってきた。どうやら昨日の一件が知れ渡ってしまったらしい。言い寄ってくる東谷の生徒は片っ端から投げ飛ばしておいた。そんなこんなしている間に、時間は残り20分。
「で…、ここはどこなの?」
一言で表しましょう。“迷子になりました。”色んな物から逃げ回る内に迷ってしまったようです。元の道をたどる方法もあるけど、獣道では意味が無い。更に迷い込む危険性がある。闇雲に歩くのは危険だ。
「ウオオォォォォ…」
ギクッ、何か、今、吠えたよね?何?昨日熊は倒したから、今日は狼とか?ニホンオオカミ?見つけたら僕新聞に載るかもしれないって。…生き延びられたらだけど。
「ウオオオォォ!」
段々近くなってる!これはやばいって。僕は喧嘩するときは主に援護が主体だから、遥かもしくは夢がいないと…。って、そんな事考えてる場合じゃない!
僕はとりあえず走って逃げることにした。足の速さと瞬発力なら誰にも負けない。あのメイドさんには負けるだろうけど…。
「ウオォォォ、グヘェ…」
え?今間抜けな声が聞こえた気がする。しかもよく考えてみればこの声どこかで…。
「朱雀よ、助けて欲しいのじゃが…」
「ゴロちゃん!?」
目の前に倒れていたのは、茶色の体毛を持った動くテディベア、ゴロちゃんだった。暗黒物質から復活したあのゴロちゃん。何で此処に?
「秘湯を探しに行って、迷ってしまったのじゃ…。朱雀、渚のところへ…」
「あぁ、僕も迷い途中なんだ…。」
「何と!朱雀も迷子と来たか!これはヤバイの。ワシが此処に来るまでに熊五頭と戦ったのじゃが。」
熊はゴロちゃんでしょ?と言う突っ込みは、二番煎じになりかねないので割愛させていただこう。って言うか、熊五頭とか強いね!?
「ふむ…、朱雀よ、ここは力を合わせようぞ。“三人寄れば文殊の知恵”じゃ。」
「僕達は二人しかいないんだよ、ゴロちゃん。」
「ならば、もう一人呼べばいい話じゃろ?」
もう一人?どう言う事?その時だった。“お~い!”と言う声が聞こえきたのだ。もしかして僕を探しに来てくれた人?
「此処だよ~!僕達はここ~!」
こちらも大声で居場所を伝える。しばらくすると、近くの茂みがガサガサと揺れて、人が一人出てきた。
「やぁ、ケイ。君の愛の守護者が来たぞ。」
今回ばかりは大目に見ることにしよう。今回ばかりは助けてもらったんだから。
「さぁ、ケイ、帰ろうじゃないか。…ところで、帰り道はどちらだ?」
前言撤回。殴った、蹴った、千切った、散らした。
「さて、翔太。少しばかりジックリトップリ聞かせて欲しいんだ。“どうやって此処に来たのか”について。」
「ふふん、勿論“ケイの匂い”を辿って此処まで来たんだ。そう難しいことじゃないぞ。」
死ね☆ 君は変態だよ。ここまで失望したのは初めてだよ。
「け、ケイ…。その目は…。なんというか…。興奮する。」
ドガバキグシャボグドゴッ!変態変態ドM!人生終わってるね。ドンマイ☆
風に散らした翔太を見送りながら、僕は再びゴロちゃんに問いかけた。
「さて、どうしようか?」
「うむ、朱雀も中々やるようじゃの。」
「それはどうも。で、どうする?」
「仕方あるまい。ワシの仙人術を使うしか無かろう。」
そんなのあるならさっさと使って欲しいって言いたいけど、今まで使わなかったことにちょっと感謝。ゴロちゃんは呪文を唱え始めた。そして、閉じていた目をカッと開く。
「朱雀、向こうじゃ。この方向に真っ直ぐ行けば昨日バスを降りた所に戻れる。ワシをおぶれ。」
「はいはい。」
まぁ、道を教えてもらっただけありがたく思わなくちゃだね。
だけど、そうは問屋が卸さなかったみたいだ。僕が意気揚々とゴロちゃんを持ちながら歩いていると、ガサガサと茂みが動き出したのだ。どうせ風に散った翔太の残骸がフュージョンを起こして、元の体に戻っただけだろうと考えていたのだが…。
「グルルルルルル…」
なんて吠える声が聞こえたら、その考えは外すを得ないよね…。
「ゴロちゃん、岩投げられるんだよね?」
「シュピ~…」
何で寝てるの!?それに何で何時もはジジくさい喋り方なのに、寝息とかは無駄に可愛いのさ!くそ、こんな時に限って身代わり翔太や自己犠牲玄武君がいない。役に立つ時にいないなんて!
「グルルルルルルルルル」
これはマジでやばいよ。これは未曾有の危機に瀕していると考えていいだろう。人生の危機ベスト5には確実に入るに違いない。下手に今走り出したら向こうも走るはずだ。足は速いけど、無駄に危険に手を出したくない。今は慎重に出方を見るべきだ。音をたてない様に静かに足を運ぶ。
「グルルルル、ジュルリ…」
なんだか今、一番聞きたくない台詞を言われた感じ。心臓を冷たい手で握られたような感触。嫌な汗が一筋、背中を流れる。これは本当にヤバイ。本能が告げている。頭に“貞操の危機”と言う五文字が流れたが、なぜ野生動物にそんな事をされてしまうのかが疑問だ。
「ジュルリ、ここで待ち伏せを謀ったのが正解だったわ~!」
草むらから出てきたのは、ニホンオオカミではなかった。茶色やグレーの体毛の変わりに、ピンク色でフリフリの付いた服。耳は頭の上ではなく、横についていた。とがった鼻は無く、丸い鼻。嫌らしい表情のおっさんの顔があった。
「ヒュルッ。さぁ、あたしの思うがままに…。」
「ピンクフリフリー!」
ポケ○ン的に言えば、“ピンクフリフリがでてきた。朱雀はどうする?”と言う感じだろう。そして次の画面に表示されるのは、“逃げる”“逃げる”“逃げろ”“逃げる”に違いない。選択コマンドがそう違わないのは気のせいだろうか?それに、一つだけ違うのが入っている…。兎に角逃げよう!
「待ちなさぁい!今度こそ逃がさないんだからぁ~!」
僕は今、地獄を見ているのかもしれない。後ろから迫りくるピンクフリフリ、そして僕は未開の地に至ろうとしている。これだけの悪条件が揃う日がそんなにあるだろうか?いや、あったらあったで困るけどさ…。
必死で走り続ける。突然僕は空を飛んだ感じに見舞われた。あぁ、崖から飛んだんだ、僕。願いも虚しく、僕の体は重力に則り下へ下へと落ちていく。
「い~やぁ~ん」
僕の隣をピンクフリフリが通り過ぎていく。それもそうか、無重力じゃない限り体重の軽い僕の方が遅く落下するからね。
これは死んだな。落下しながら僕はそう思った。
「助けてやろうかの。」
突然僕の腕の中のゴロちゃんが発光し、フワリと浮遊する感覚に陥った。どうやらゴロちゃんの力らしい。仙人って凄いね。まるでラ○ュタだよ。あ、下に人が見える。ははは、人がアリのようだ!
「すまん、スタミナ切れじゃ…」
再び落下する感覚。ゴロちゃんのバカァ~!
「けー君!けー君!目を覚ましてよ!」
ん、ここは…。気が付くと僕は大人数に囲まれて寝かされていた。どうやら屋外らしい。隣には渚と夢がいた。夢は半泣き状態だし、肩にゴロちゃんを乗せた渚も心配そうな顔だった。あ、ゴロちゃんは無傷ですか…。
「ここは…」
「飯盒炊爨する場所。さっきそこの崖から慶斗が落ちてきたんだよ。…変なピンク色の塊と。」
渚の話を要約すると、僕は崖から落ちた後、一時的に速度が遅くなったものの落下は止められず、足元にピンクフリフリを敷いて九死に一生を得たらしい。あんなピンチでよく回避できたね、僕。そして妖怪ピンクフリフリ、南無…。
「流石はケイ。俺と将来を誓い合っただけある。」
何気に僕より早く帰っている翔太には、玄武君と共に火あぶりの刑に処そうと思います。え?何で玄武君がいるかって?彼に理由なんて必要ないでしょ。ドンマイ☆
「さて、慶斗も揃ったしカレーを作りましょう!」
オリエンテーション編終了しました。(執筆が)これから不良編(仮)を書き始めますが、皆さんは引き続きオリエン編を楽しんでください!
・玄武大那
虐められキャラ。ハーレムを作る事を目指しているらしいが、ほとんど無理だろう。異常なまでの行動力とリーダーシップを発揮することがある。この後の話でちょっと大変なことに…。




