kissing ~これまた不慮の事故~
~前回のあらすじ~
女湯を覗きにきた朱雀。あ、違った。女湯を覗いてしまった朱雀。鼻血がブーッで、宇津木がジュルリで、朱雀が失神。
~予告~
けー君サイテー!
ん、お花畑が見える。あれ?おじいちゃん、おばあちゃん?え?死んだんじゃなかった?あぁ、此処が三途の川って奴か。ちょっと未練はあるけど、渚たちに合わせる顔が無いし、そのまま向こうに逃げちゃおうかな…。あ、おじいちゃん達が何か言ってる。え?“逃げんしゃい”?なんでさ?折角会うことができたじゃん。久々の孫にその態度は無いよぉ。
ダダダダダッと言う音と地響きが聞こえてきた。あぁ、何か嫌な予感がする…。
悪いほど予感は当たるようで…。片目が潰れた熊が、ピンクフリフリを着て、その上から赤ジャージを羽織って走ってきた。待って!あれって僕が今日倒した熊!?北川の先生本当に死んじゃったの?しかも何で東谷高校教師まで死んでる設定になってるのさ!!兎に角逃げなきゃ!!
死ぬ気で三途の川から遠ざかるように走った。岩を飛び越えて木の上を走り、忍者の夢である“水上走り”もやってのけた。だけど、熊もしつこい!岩は砕いて木は押し倒し、水は飛び越えて追って来た。だれか助けてよ!
「生きたいですか?それとも逝きたいですか?」
ふとそんな声が聞こえて来た。選択肢が似てるようで極端だね。前から現れたのは天使っぽい子供。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
透き通るような声で話しかけてくる。でも、飲食店のオーダーみたいな所が気に掛かる。しかも、悠々と話しているのに、何故か僕と同じ速度で飛行している。天使って凄いね!
「僕は生き返りたい。」
「恥辱を注いででもですか?仲の良い女の子の心が遠く離れてしまっても?」
ぐっ、それはキツイ…。正直、渚がいなかったら僕は崩壊してしまうと思う。僕の中で渚の存在は大きい。夢も同じくらいだ。翔太?範囲外。もしこの一件で渚たちの心が離れたとしたら…。僕は昔みたいに荒れてしまうだろう。僕は弱い。心が。でも、生きたい。半死半生の状態で逝くよりも、生きる方が。もしものときは遥が救ってくれるかもしれない。
「いいよ。なんとか足掻いてみる。」
「それならそれなら。では、此方へどうぞ~。一名様ご案内です!」
向こうから渚と夢の話し声が聞こえてくる。僕はそのまま走り抜けた。
気がつけば、僕は暖かい所にいた。再び温泉に入っているのに気がつくまで、そんなに時間は掛からなかった。二人は少し離れた場所でお湯の掛け合いっこをしていた。
「あ、けー君起きた!」
「僕、あううぅ…」
顔が真っ赤になるのがわかる。それにしても何で渚たちもまだここにいるのさ…。
「おはよ、けー君。」
「ゆ、め?僕、僕知らなかったんだよ。だって、暖簾に男湯って書いてあって…。なのに、渚たちが入ってきて…。」
「知らなかったの?八時を境に男湯と女湯が入れ替わるのよ?」
「え?じゃ、じゃぁ僕は…」
「確認に来なかった管理人さんも、悪いわね…。」
直接的には僕のせいじゃないけど…。
「うぅ…、僕、お婿にいけないよぉ…。」
「あ、あのね。それは私たちの台詞なんだけど…。」
ごもっともです。渚様。どうか寛大なご処置を…。
「見たん、だよね…」
僕は渚の質問に黙って頷くしかなかった。今更否定しても無理だろう。許してもらえるだろうか。もしかしたら、ビンタされて絶交って言われるかもしれない…。そんな事されたら、僕、僕…。
「見たんだ…。そっか、慶斗…、サイテー!」
その瞬間、僕は谷底に落とされた感覚に陥った。渚に、嫌われちゃったよ…。あはは、最低だってさ。そうだよね、いくら事故でも覗くのは最低だね…。
「本当だよ、けー君サイテ~。」
夢にまで言われちゃった。僕、あの時選択肢を間違ってたかな。あのまま熊と格闘してればよかった。
「まったく、女の子に間違われるなんて最低だよ、慶斗。もっと男らしくしなよ。」
「そ~だよ、けー君。昔の事を想ってイジイジするなんて男の子じゃないよ。」
あれ?罵倒する方向性が違うような…。
「だから、強くなって最高の男の子になって。女の子にこれ以上間違われちゃ駄目。」
よくわからないけど、二人とも怒ってないの?二人の顔を見ると、笑っていた。
「僕を…、許してくれるの…?」
「うん、許さないよ。」
へ?
「女の子の裸見るなんて、どんな理由があってもいけないんだよ!」
「ご、ごめんなさい。」
「だから、けー君も私達に裸見せなさい。ジュル…」
「夢、それは駄目っ!」
なんだろう…。一瞬夢が別人に見えた。
「と、兎に角、慶斗は私たちのお願いを聞くこと。いい?私達が一つずつ。」
「う、うん…。」
お願いを聞くと言う事はそれなりの覚悟が必要だけど、それで渚たちがまた一緒にいてくれるなら…。
「私はね、私のお願いは私の好きな時にけー君の耳をハミハミすること。」
「私はとっておくね。」
正直、どちらも怖いけど、それが対価なら安いものだと思う。
「わかった。」
「じゃ、早速ハミハミ…。」
「だ、だめだよ夢。僕達こんな格好なんだから。僕、上がるね…。」
上がろうとすると、引っ張られた。
「いーじゃんけー君。折角だから一緒に入ろうよ~。」
「でもね、常識的に考えたら、別に夫婦でもないのに混浴は良くないと…。」
「じゃ、私をお嫁さんにしてくれる?」
「え…?」
「あ~、ひど~い。…でも、冗談だよ。」
「あ、あはは、そうだよね。」
夢、冗談も程ほどにして?夢の目が冗談に見えなかったよ。
「慶斗、一緒に入ろ?」
上目遣いやめて?破壊力高いし、タオルに包まれてるからって、二人の体のラインがくっきり見えてるわけで、意外に二人とも着やせするタイプだなぁなんて思ってるけど、僕だって男だもん。
「けー君のエッチィ~。でも、やっぱり男の子なんだね。興奮した?」
あう、すごく居心地の悪さを感じます。軽く上気した顔に、夢なんて長めの髪を纏めてるから項が見えてて、色っぽいって言うか…。僕は二人から目を背けた。これ以上見てるとこっちが恥ずかしいんだもん。
「照れてる照れてる。可愛いなぁ。ハムハム…」
夢が後ろから僕を捕まえて耳をハミハミし始めた。背中に柔らかいものがぁ…。抜け出そうと試みても、しかもガッシリ掴んでて僕では動けそうに無い。渚に助けを請うべく、渚を見たら、どこかポーッとしてた。
「な、渚…、助けて…。」
「・・・・・・。」
無言でそのまま僕に近寄ってくる。
「渚…?」
「ゴメンね…。」
そう呟いたと思った瞬間、彼女の唇が僕の唇を塞いでいた。全身が硬直してるのがわかる。金縛りにでも遭った気分。心臓がこれまでに無いくらいに鼓動を早めている。数秒か数分かは分からないけど、渚の唇が自分から離れていった。
「あっ、私慶斗に…。ゴメン!?」
そう言い残して、渚は温泉を後にした。残された呆然とする顔の僕と夢。僕、今さっきまで渚にキスされてたの?どうして?モヤモヤとする頭で考えても何も思いつかなかった。最終的にひねり出された答えは、“渚もお湯に浸かり過ぎて、頭がボーっとしてて、それで事故が起きた。”と言うことだ。
「けー君。大丈夫?」
「え、あ、うん…。」
大丈夫。夢にはばれてないみたい。
「私も上がるね。私達が着替え終わったら呼んであげるから。」
「あ、OK。」
夢も温泉を後にする。なんだろう、この気持ち…。アレが渚の願い?…な分けないよね。満点の夜空の下、僕と言う言葉通りのちっぽけな人間は、人生ベスト4くらいに入りそうな事件を終えたのだった。
あまり読者数のいないこの小説ですが、読んでくださる方々にメッチャ感謝です!二日に一回の投稿をお約束しますので、良かったらお気に入り登録してくださいね~。あ、前回分の登場人物紹介忘れてました。ごめんなさい。
・椎名渚
本当の事を言ってしまうと、『ハーレムを作れ!?』からの流用キャラ。作者のお気に入り。朱雀の幼馴染。今回の話で朱雀にキスしてしまったが、その本心はいかに?この“オリエンテーション編”の次の、朱雀達の過去が描かれる(予定の)第三編、“不良編(仮)”ではあまり出番がない。女子グループの中では基本的にまともだが、宇津木に流されたりすると暴走する危険性がある。(朱雀の耳ハミハミなど。)