bathing ~不慮の事故~
~前回のあらすじ~
崖を上った勇者たちには友情が芽生えた。桃源郷を目指した彼らを待っていたのは果てしない森。その前に友情ははかなく砕け散り、変態どもの体には赤い印が植えつけられたのだった。
~予告~
朱雀が役得物。夢が壊れます。
あぁ、やっと開放された。また西花の人たちに囲まれちゃった。心が、折れそう…。でもやっとお風呂に入れる。翔太達、もう上がっちゃったかな…?
僕が脱衣室のドアを開けると、調度お風呂へ続くドアから翔太達が入ってきた。なんだか、全員意気消沈してるし、お腹が赤いよ?どうしたのさ?でも、僕がいくら尋ねても、“現実は卑怯だった”って答えるだけ。そしてさっさと部屋に戻っていってしまった。風邪引かないでね…。さぁて、僕もお風呂に入ろうッと。服を脱いで、タオルを巻いた。あれ?これって大きすぎない?いや、僕の背格好が小さいのは分かるけど、腰に巻くだけのタオルで全身を巻けるはずないでしょ?これってまるで女の人用じゃん。
取りあえず、二つ折りにして巻いて湯船に向った。おっと、その前に体を洗わなくちゃ。今日かいた汗をしっかりと流す。血の臭いを落とすように丹念に…。
―さてその頃、青龍たちだが…
「あぁ、君たち。調度良かった。これから男湯と女湯を入れ替えるのだが、君たちで最後かい?」
宿泊施設の管理人さんらしき人が、青龍たちに聞いてくる。当の本人たちはほとんど生気がなく、今にも魂が抜け出しそうな感じで、マトモに人の質問に答えられそうになかった。
「え、あ、はい。そうですよ…。」
「それなら問題ない。ありがとう。」
管理人さんは去って行ってしまった。
「女の子似の男子はいますけどね…。」
そのまま、トボトボと部屋へ戻っていった。誰も真相に気づくものはいない。
そして、脱衣所に続くドアの前。管理人さんは“男湯”とかかれた暖簾をはずし、“女湯”と書かれた暖簾を掲げる。この施設、実は温泉が一つしかなく、時間制の交代で男女を入れ替えていたのだった。因みに、一日ごとに順番が異なり、明日は女子が先となる。
「これでよし。タオルの入れ替えは既に済ませたから、完璧。」
そのまま管理人さんは事務所に戻ってしまう。この後に起こる事件など知る由もなく…。
―戻って朱雀慶斗。
「ふぅ…。やっぱり温泉っていいなぁ…」
僕は白濁系の色の湯につかりながら夜空を見上げている。誰もいないから貸切状態。泳いでも誰にも文句言われないね。やらないけど…。それにしても皆上がっちゃったのか…。少しつまらないなぁ。あっ、そう言えば今何時だろう…。確か八時までに上がらなくちゃいけないんだっけ…。
ガラッとドアが開いた。誰か来たんだ。暇だったしありがたい。ついでにあの人に時間も教えてもらおう。
「あら、おかしいですわ。誰もいない…。」
な、なんで~!?なんで女の子が入ってくるのさ?しかもあの喋り方だと西花の人だよね?嘘嘘、どうして!?一度落ち着け~。どうしてこうなったのか考えてみよう。一つ、僕が不本意ながらも女湯に入ってしまった。それは無いか…。だって、脱衣室にいた時に翔太達に会ったもん。いくらなんでも真正面から堂々と女湯に行かないよね、普通。えっと、他には…。そうだ、時空が改変されて男湯が女湯に繋がったとか…。それはSF過ぎる…。
そうか、分かった!ここは“混浴”専用のお風呂なんだ。だから皆恥ずかしがって人がいないわけだし、翔太達がここにいたのも納得が行く。あの表情は自分が願った通りに物事が進まなかったからに違いない。うん、完璧。…だけど、僕が恥ずかしいよ…。どうにかしてあの人に気づかれない内に逃げなくちゃ。早くしないと他の人が来てしまう可能性が…。
タオルを取って、腰に巻き、お風呂を出ようとした。
「お待ちなさい。」
ギクッ!見つかっちゃったよ…。でも、知らない振りして逃げよう。
「私がお待ちなさいと言っているのが聞こえないの?南陽の人。えぇ、分かるわ。あなたが脱いだ体操着を見れば一発ですわ。さぁ、観念して此方にいらっしゃい。あら、あなたなんて格好を。いくら女の子同士の裸の付き合いとは言え、胸にタオルを巻かないのはどうかと。そうですわ、たとえ“まな板”だとしても。」
凄くたくさん突っ込みたい所がある!待って、この人は僕が南陽の生徒だと知っている。そして、僕を女の子だと思い込んでいる。そして、此処は…“女湯”!?どうしよう…、このままだと僕覗き魔として現行犯逮捕だよ~。どうにか切り抜けないと。早く逃げないと渚とか夢とか…。グッ、ヤバイ…。鼻血が…。
「どうかなさったの?まぁ鼻血なんて…。此処にいらっしゃい。洗ってあげるわ。」
どうしよう、下手に逆らって疑われるのも困る…。いやいやでも!逆にタオル一枚しか巻いていない男女が近付いても駄目でしょ!
「え、えっと私のぼせちゃったみたいで…。失礼しますっ!」
裏声を使ってなんとか逃げようと試みる。間に合う!ドアに手をかけたら…。
「此処のお湯、すっごく気持ち良いんだって。」
「へぇ~。」
えぇぇぇぇ~!?何この展開!追い詰められちゃったよ。どどど、どうしよう…。取りあえずばれない様に。
僕はタオルを全身に巻いて、さっきの西花の人の所に戻った。
「やっぱり洗ってください。」
ひとまずこの人を蓑にして、人目を誤魔化そう。この人も、完全に僕を女の子だと思ってるし。
「此処に座りなさいな。」
示された場所は、西花の人の前。ここで逆らったら終わりだと思って、そこに座る。鼻から出た血を洗い流す人。そして、いきなり胸をもみ始めた。
「え、あ、一体何を!?あ、キャン…」
「うふふふ、可愛いわね。さぁ、ちっちゃなオッパイを大きくしてあげるわぁ…。」
揉んでも僕のは一生大きくなりません。ってか、背中に柔らかい物がぁ…!この人百合だ、だって瀬波さんと同じ感じがするんだもん。
「誰も来ない内に…。ンフフフフ…。さぁ、今度は私のを揉みなさぁい。私の胸を揉んだ娘は確実に自分のが大きくなるんだから。“オッパイの女神様”なんて呼ばれる日も近いわ。」
それだけはご勘弁願います。ばれたときが本当に恐ろしいので。
「早くぅ。さっさとしなさいって。ハァハァハァ…。」
僕の手を取って自分の胸元に持っていこうとする人。やばいぃ…。これは確実に…。その時、ガラッと再びドアが開いて他の人たちが。助かった…。
「つまらないわね。さ、お風呂に入りましょ。」
半分引きずられるように湯船に連れて行かれて、入った。タオル外さないのが不幸中の幸いって奴かな。だけど、これって色々やばい状態だよ。
「ふふふ、さぁさっきの続きを…」
「え、あ、僕にはまだ早いと…っ」
あっ、今一人称に“僕”って言っちゃった…。
「今、あなた…“僕”って…。まさか、あなた…」
まずい、これは決定的にまずい…。
「ボクっ子キャラなんて、すっごく可愛いじゃな~い!」
なんか勘違いされてるけど、まぁ、大丈夫?
「う~ん、久しぶりに興奮したらのぼせかけちゃった。じゃぁね、本当はお持ち帰りしたい所だけど。」
一度ウィンクして去って行った。あれなら男の人を大半は落とせると思うんだけど…。使いどころを間違ってるね。
その後、他の女子がたくさん入ってきて、僕は隅っこの方で隠れてた。見つかったら覗き魔確定だ…。皆がいなくなるのを待つ。どうか、どうか見つかりませんように!
ガラガラ…と最後の人が上がっていった。よ、よかった…。なんとか切り抜けられたみたい…。僕は温泉から出て脱衣所へ向う。ずっと湯に使っていたから頭がボーっとして足元もふら付く。だめだよ慶斗、こんな所で倒れたら全てが水の泡…。必死の思いで脱衣所の扉に手をかけた。すると、勝手にドアが…。
「あ、ゴメンなさい。さっきの人が最後かと思ってて。」
な、渚!?何で今頃…。既に上がってたと思ったのに…。しかも夢まで…。しかもタオル一枚…。
僕の意識は闇に堕ちた。
―変わって渚視点
ドアを開けたら、人がいて急に倒れた。急いで倒れるのを支えようと思ったら、慶斗!?え、ちょっと待ってよ。どうして慶斗が此処に…。まさか、覗き?そんな事、慶斗に限ってあるはずが…。でも、慶斗だって年頃の男の子、いつまでも子供じゃないわけだし…。
「けー君、けー君、大丈夫!?」
夢が駆け寄る。完全に気絶してる。体全身が真っ赤。長い間入ってたのかしら。まさか、寝過ごした?いやいや、そんな事…。女子と間違われて連行されてきた?ありえる、慶斗ならありえる。夢がペシペシ慶斗の頬をたたいている。あ、夢、それはやめて!
「夢、今慶斗を起こさないで!」
「何で、けー君死んじゃうよ!」
「私たちの今の格好考えてよ…」
「あっ…」
今起きられたら大変。お風呂の外に出しておきたいけど、そんな事出来ないし、第一、慶斗に服を着させるにしたって…。顔が凄く赤くなるのを感じた。だめ、私変な妄想しちゃった。
「と、取りあえず、脱衣所に寝かせておきましょ。起きたら勝手に帰るだろうから、私たちは知らない振りをすればいいの。って、夢!」
夢ったら慶斗のタオルはがそうとしてるし…。
「夢、何やってるのよ!」
「え、あ…。で、でも、こんなけー君見てると本当に男の子なのかなって…。」
うぐ…確かに言い返せない。湯上りのせいで上気した顔、赤みの差した頬、男子とは思えないくらいの白い肌、細い手足。何を取っても“女の子”と言う言葉がピッタリ来る体つき…。男の子だと言われてすぐに納得できる方が異状かもしれない。
「男の子なら、…付いてるよね?確認する位なら。」
「夢、何言ってるの!きゅ、急に何を…」
「でも、けー君私たちの裸見たよね?それなら…。おあいこでしょ?」
何か危ない目をしてる夢。ヤンデレ症状?慶斗が危ない!
「止めなさいって…。」
必死で夢を引きとめようと引っ張るけど、夢の力が強すぎて逆に引きずられていく…。どうにかして止めないと…。ゴロちゃんは秘湯を探しに行くって旅立っちゃったし。
「けー君の耳、ハミハミする…」
だめだめ、今の夢だと耳だけで済まない気がする!慶斗、起きて!
「ん、僕は…」
良かった、起きた!
「渚と夢…」
何でまた顔真っ赤にして倒れちゃうの~!?ふと考えてみれば、私も夢もさっき格闘まがいのことしてたからタオルが相当はだけてる…。すごく恥ずかしい…。私、慶斗に見られちゃったの…!?思わず叫ぼうとしたら、口元押さえられた。抑えているのは夢。右手で私の口を塞いで、左手で“シーッ”のポーズを構えている。
「叫んじゃだめ。大騒ぎになるから。」
「ングモゴゴ…。プハッ…。夢は恥ずかしくないの?」
「女は度胸なの。それに裸見られたくらいでキャーキャー言わない言わない。好きな人なら余計にね♪」
ウィンクした夢。
「夢、まさか慶斗の事が…。」
すると、またさっきのポーズをした。
「そういう話は、就寝後って相場が決まってるのよ♪」
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