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エミとの‥‥

 俺たちが立ち止まったのは、一際目立つネオンサインの下だった。

 エミは笑顔で振り返り、「びっくりした?」と言ってくる。

 その表情はいつもと変わらないけれど、どこか期待を含んでいるようにも見える。


「ここ、すごく評判のいいホテルなんだ。 ちょっと豪華な部屋を予約したから、驚かないでね」


 ホテルの入り口に足を踏み入れると、俺たちは豪華なロビーを通り、エレベーターで上の階へと向かう。

 エミの手が俺の手を握り、彼女の手の温もりが直接伝わってくる。

 緊張と期待で心臓が早鐘を打つ。


 エレベーターが開くと、そこは広々としたスイートルームだった。

 壁一面の窓からは夜景が広がり、部屋には柔らかい照明が灯されている。


「どう? 気に入ってくれた?」


 エミはそう言いながら、ソファに座る俺の隣に腰を下ろす。

 彼女が用意してくれたのは、ただの休憩ではなく、二人だけの特別な時間のための空間だった。


 俺は深呼吸をして、彼女の瞳をじっと見つめ返す。


「エミ、これは‥‥」


 彼女は指を唇に当てて、俺の言葉を遮る。


「シッ、何も言わなくていいの。 今日はここで、ゆっくりと話しましょう。 それが私のできる喜んでもらえることなの‥‥」



 ☆☆☆☆☆



「お‥‥ぃ」



「お~い!高橋君!」



「おーい!来て来て~!こっちだよ~!」


(いかんいかん!意識が遠くにいっていた!)


 俺が妄想していると、エミに声をかけられた。

 慌てて追いつくと、そこはホテルの入り口‥‥に並ぶようにひっそりと佇む一軒のお店が現れた。

 外観は古風でありながらも、どこか温かみがある。


「ここの料理、絶対に気に入ると思うよ!」


 自信満々のエミに連れられて店に入ると、温かな照明と木の香りが迎えてくれ、すぐに心地よさを感じた。

 エミが注文したのは、その店自慢の特製ローストチキンと季節の野菜を使ったサラダ、そして地元産のワイン。

 ローストチキンは外はパリッとして中はジューシーで、噛むほどに肉の旨味が口の中に広がった。

 サラダは新鮮な野菜がシャキシャキとしており、ドレッシングの酸味と甘味が絶妙にマッチしている。

 ワインは料理の味を引き立てる軽やかな味わいで、食事の満足感を一層深めてくれた。


「どう?美味しい?」


 エミが期待を込めて聞いてくる。


「本当に美味しいよ。こんな素敵な場所、どうやって見つけたんだ?」


「たまたま見つけたんだ。 良かったぁ、気に入ってもらえて」


(うっ‥‥ざ‥‥罪悪感が‥‥)


 エミの無邪気な笑顔を見て、ホテル街を歩きながら変な妄想をしていた事にちょっとした罪悪感を感じてしまっていた。


(最近ストレスでも溜まってるのかな? 少し妄想が激しい気がする‥‥)


 エミとは同期で、ずっと一緒に仕事をしてきた。

 会社で一緒にいる時間が最も長い同僚なのは間違いない。

 おっとりしている雰囲気そのままに、いつも優しさで包み込んでくれるような女性だ。


 誰とも分け隔てなく優しく接する人柄で、社内ではひそかに聖母と呼ばれており、男女共に人気も高い。

 顔も可愛く、そして社内の誰にも負けないその大きな‥‥


 当然、それだけ長く近くにいれば、意識してしまう。

 告白を考えたこともあるが‥‥


(ムリムリムリムリ!!もしフラれたら、どんな顔して会社に行けばいいのか‥‥)


 流石にそういう関係になるような声をかける勇気は無い。

 自分で自分に言い訳をしながら、もう一つの懸念が頭をよぎる‥‥


(それに‥‥)


「どうしたの?」


 気がつけば、エミが顔を覗き込んできていた。


「わっ!な‥‥なんでもないよ!ハハハ」


 俺は慌てながら、手元にあったカップに口をつけ、ゴクリと飲む。


「あ、それバルサミコ酢‥‥」



 ☆☆☆☆☆



 その後、しばらくむせて大変ではあったものの、美味しい食事に舌鼓をうちながら、仕事の話についても詰めていった。


「いろいろ参考になったよ。 これならある程度準備も進める事ができるね!」


「ああ、ありがとう。 頼りにしてるよ」


「うん! 任せておいて!」


 俺は提案やプレゼンは平気だが、準備や段取りが苦手である。

 逆にエミは書類整理や仕事の段取りが得意で、営業アシスタントとしても非常に優秀だ。

 正直エミがいなければ、雑務に追われて今のような成績は残せなかっただろう。

 本当に足を向けて眠れない。


「じゃあ、そろそろいこっか!」


 エミがテーブルの上の食器を片付けながら声をかけてくる。

 それに同意して、一緒にお店を出た。



 ☆☆☆☆☆



「いや~!ほんとに美味しかったよ。 いいお店を紹介してくれてありがとう!」


「どういたしまして。 今度はあやめちゃんも一緒に来たいね!」


 エミとあやめは面識がある。

 あやめが引っ越してきてすぐの時に、料理のレパートリーを増やしたいとあやめから相談があって、エミにお願いしたのがきっかけだ。


 エミは料理もかなりの腕前で、和洋中一通りの料理は作れるらしい。

 あやめも簡単な料理くらいは出来たが、エミの影響もあってメキメキと腕を上げている。


「そうだな、次はあやめも連れて来よう!」


 と、その時見覚えのあるポニーテールが遠くに見えた。


(あれは‥‥あやめ!?)


 ここは俺も最初に勘違いを起こしてしまうような、いわゆるホテル街だ。

 こんなところにあやめがいるはず‥‥


 いや、どう見てもあやめだな。

 誰かと一緒にいるようだが、彼氏か?

 もう大学生だし、彼氏くらいいてもおかしくないが‥‥


 だが、なんというか複雑な気分だ。

 これが父親の心境というものなのだろうか。


「あれって‥‥あやめちゃんかな?」


 俺の視線に気付いて、その方向を見たエミの言葉で見間違いの可能性がさらに低くなった。


「だよなぁ。まぁ、大学生だし彼氏くらいいてもおかしくないんだが‥‥」


 なんとも言えない胸のモヤモヤを押し殺して、続きの言葉を飲み込んだ。


「流石に気付かれるとあやめちゃんも気まずいだろうから、そっとしておいてあげよう」


「‥‥そうだな」


 エミにそう言われて、同意しようとしたその時‥‥


「やめて!」


 あやめの叫び声が聞こえてきた。


最後まで読んで頂きありがとうございます♪

あやめの活躍はもう少し後になります。

更新頑張っていきますので、応援頂けると嬉しいです✨

登場キャラクターのイラストはSNSやブログで投稿していますので、ぜひ遊びに来てくださいね!

XのIDは@candy2000aiです(*´▽`*)

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