すれ違う温度
前の投稿から気が付けば1週間も経っていました…
更新が遅くなり申し訳ございません。
まだしばらく忙しい日が続きますが、更新自体は続けていきますので、どうか気長にお付き合いいただけますと幸いです。
現在投稿している「きゃんでぃタイム」の絵里子とのお話ですが、少し長くなってしまっているので、のちのち本編から切り離しをしようと思っています。
一旦は、このまま進めていきますが、改めて全体的に調整を入れる可能性がある事だけ先にお知らせさせて頂きます。
どうぞよろしくお願い致します。
「この部屋、すごく素敵だね!」
そう言ってリビングを見渡す絵里子の声は明るかった。白い壁に柔らかな光が差し込む広々とした空間は、二人で過ごすには十分な広さ。
大きな窓からは街の景色が一望できて、夜はきっと煌めく夜景を楽しむこともできるだろう。
でも、絵里子の笑顔は、どこかぎこちなかった。
実は勝手に物件を決めてしまったことで、ひと悶着あったのだ。
絵里子の会社を見に行った日の夜、借りる物件が決まった事を絵里子に電話で伝えた。
室内の写真を送り、凄くいい物件だった事を説明して、絵里子に喜んでもらおうと思っていた。
だが、絵里子からの反応は良くなかった。
良い物件を見つけた事で、喜んでもらえると浮かれていた俺。
しかし、絵里子から「なんで勝手に決めたの?」と言われムッとしてしまい、「絵里子が忙しいから」と、自分の意見を押し通してしまったことが、引っかかっていた。
絵里子も怒るように言ってきたわけでは無かったが、責められたように感じた事。
そして、会社で見かけた男性との関係がモヤモヤしていたこともあり、つい強い口調で返してしまった。
その後、絵里子は「そう‥」とだけ言って、黙ってしまった。
そして気まずいまま、部屋を借りる日が来た。
絵里子は無理に明るく振る舞っているようだった。
俺は、彼女に少しだけ罪悪感を覚えながら
「そうだろ? リビングも広いし、夜景も綺麗に見えるんだ」と、少し強引に話を進めてしまった。
引っ越し当日、絵里子は大きなスーツケースと段ボール箱をいくつか持って、疲れた様子で部屋に入ってきた。
「ハルくん、手伝ってくれてありがとうね」
「いいよ、当たり前だろ」
そして心の中で「これからは、絵里子をもっと支えていかないとな」と、改めて誓った。
9月から一緒に暮らし始めて、2ヶ月ほどは本当に幸せだった。
お互いに忙しい日々ではあったが、夜には一緒に食事をしたり、映画を見たり、たわいもない話をしながら過ごす時間は、かけがえのないものだった。
仕事の愚痴を言いながらお酒を飲む絵里子を、優しく慰める。
就職活動の不安を絵里子に聞いてもらう。
そんな毎日が、俺にとってどれほどの支えになっていたか。
絵里子はいつもより少し遅く帰って来た日でも、必ず「ただいま」と笑顔を見せてくれる。
俺も就職活動が終わり、少し心に余裕が出来たこともあり、「お疲れ様」と声をかけながら、絵里子の肩を軽く揉んであげることが日課になっていた。
「ハルくん、ありがとう。 少し楽になった」
そう言って微笑む絵里子の姿を見ていると、俺は「一緒に住んで本当に良かった」と心から思った。
しかし、11月に入ると、絵里子の帰りがさらに遅くなる日が増えていった。
「今日は残業なんだ」
「取引先との飲み会があるんだ」
そう言って、疲れた顔で夜遅く帰って来る絵里子を、俺は何も言わずに迎えることしかできなかった。
朝早くに部屋を出て、夜遅くに帰って来ては、疲れ果てて眠ってしまう。
俺が眠っている間に帰ってくることも増え、朝の挨拶をする間もなく出ていくため、丸一日顔を合わせない日もあった。
「ただいま」
「おかえり。 今日も遅かったね」
「うん、ごめんね。 ちょっと飲み会が長引いちゃって‥」
そう言いながら、絵里子はコートを脱いだ。
(あれ?‥お酒の匂いが強いな?)
絵里子はお酒が好きではあるものの、普段はあまり飲みすぎないようにしていた。
しかし、最近は明らかに飲酒量が増えているように感じられた。
「今日は、どんな飲み会だったの?」
俺は少し心配になりながら聞いてみた。
「えっとね‥同期と忘年会だったんだ。楽しかったよ」
絵里子はそう答えたが、少し表情が曇っているように見えた。
「そうなんだ。 楽しかったなら良かった。 でも、飲みすぎには気をつけろよ」
「うん、分かってる。 ありがとう」
そう言って、絵里子はシャワーを浴びるため浴室へ行った。
俺は、絵里子の様子を気にしながらも、スマホを片手にソファに寝転がった。
それから、絵里子がシャワーを浴びている間、俺は彼女がスマホをリビングに置きっぱなしにしていることに気づいた。
テーブルの上に置かれたスマホは、バイブレーションと共に画面が光る。
俺は、特に気にすることなく、自分のスマホを見ていたが、絵里子のスマホが何度も光るのが気になった。
(誰かから何度も連絡来てるのかな?)
俺は絵里子のスマホをチラリと見てしまった。
通知バーに表示されたメッセージには、「新着メッセージがあります」という表示がされていた。
(また、省吾か?)
俺は心臓がドクンと激しく脈打つのを感じた。
(一体、何の連絡なんだ?)
画面をタップして、メッセージの内容を確認したい衝動に駆られる。
しかし、絵里子との約束を思い出し、その衝動を抑え込んだ。
スマホの中身を見るのは、彼女のプライバシーを侵害することになる。
(絵里子を信じるんだ‥)
俺は自分に言い聞かせるようにそう呟き、スマホから目を離した。
しかし、モヤモヤとした気持ちは消えなかった。
それから数日後。
俺は、絵里子とクリスマスの予定について話し合っていた。
「クリスマスイブとクリスマス、仕事になったんだ。 ゴメンね」
絵里子は申し訳なさそうに言った。
クリスマスくらいは一緒に過ごせると思っていただけに、俺は正直少しがっかりした。
「そうか‥分かった。 仕事なら仕方ないね」
俺はそう答えたが、絵里子は俺の表情から気持ちを察したのか、「本当にごめんね。 代わりに年末年始は一緒に過ごそうね」と優しく声をかけてくれた。
(仕方ない‥でも、せめてクリスマスイブくらいは一緒に過ごしたいな‥)
「あのさ‥クリスマスイブは、仕事が終わるの何時くらいなの?」と俺は聞いてみた。
「えっとね‥多分、夜11時とか12時くらいかな‥」
「そんなに遅いの?」
「うん‥会社でクリスマス会があって、幹事を任されちゃったんだ‥」
「そうなんだ‥仕事で大変なのに幹事までしないといけないなんて。 断れなかったの?」
「会社の中でも新人だからね。 忙しいのは他の人も同じだし、断れないよ」
「そっか‥じゃあ、せめて一緒にケーキくらいは食べられないかな?」
「うーん‥ゴメンね。 わからない。 当日になってみないと」
絵里子は少し困ったような表情を見せた。
「そう‥」
俺は少し落胆した様子で答えた。
「ハルくん、本当にごめんね。 仕事が落ち着いたら、必ず埋め合わせするから‥」
絵里子はそう言って、俺の肩にそっと手を置いた。
しかし、彼女の言葉は俺の心に響かなかった。
絵里子は、最近はいつも謝ってばかりだ。
そして、埋め合わせするという言葉も、もう何度も聞いている。
「絵里子‥俺たちは、一緒に住んでる意味あるのかな?」
俺は、思わず本音を口にしてしまった。
「え‥? どうして急にそんなこと言うの?」
絵里子は驚いた様子で聞き返してきた。
「だって‥最近は、ほとんど顔を合わせることができないし‥一緒にいる意味を感じない‥」
「それは‥今は仕事が忙しい時期だから仕方ないでしょ? 後少し我慢してよ‥」
絵里子は少し焦ったように言った。
「後少しって‥いつまで?」
「それは‥もう少ししたら落ち着くから‥」
絵里子は言葉を濁した。
「絵里子‥もしかして、俺と一緒にいるのが、もう嫌になった?」
俺は不安な気持ちで聞いてみた。
「ハルくんのことは好きだよ‥‥」
絵里子はそう答えたが、彼女の言葉にはどこか迷いがあるように聞こえた。
「じゃあ‥クリスマスイブは、一緒に過ごせるよね?」
俺はもう一度だけ聞いてみた。
「それは‥仕事だから。 ゴメンね。 わからない‥」
絵里子は、また同じ言葉を繰り返した。
「絵里子‥」
俺は、彼女の顔を見つめた。
しかし、絵里子は俺の視線を避けるように、うつむいたままだった。
それ以降、帰りが遅い日が続き、顔を合わせる機会はさらに減り、顔を合わせてもギクシャクとした雰囲気になってしまった。
そして、クリスマスイブの夜。
絵里子は、結局家に帰って来なかった‥




