出社
目覚まし時計が鳴る前に、妹のあやめの声で目が覚めた。
「お兄ちゃん、おはよ~!」
部屋のドアが開き、そこにはいつも通り元気いっぱいのあやめが立っている。
「もう朝か‥‥」
「うん! 朝だよ~ 早く起きてね!」
まだ眠たい目をこすりながら、俺はあやめに挨拶をする。
「おはよう、あやめ。 今日からお前の大学生活が始まるんだな。 ドキドキするか?」
俺は彼女に笑みを投げかけた。
「うん! でも、お兄ちゃんがいるし、きっと大丈夫だよ~!」
と、あやめは言って、キッチンへと向かう。
彼女の表情には、新しい学校生活に期待とわくわくした表情が浮かびあがっていた。
そんな彼女を見ると、俺もなんだか気合が入り力が湧いてくる。
キッチンからは、朝食を作る音が聞こえてくる。
フライパンで卵を焼く音、そして漂ってくるみそ汁の匂い。
あやめが朝食を作ってくれているようだ。
「お兄ちゃん、朝ごはんできたよ!」
「今日は朝から豪華だな」
彼女にそう伝えると、あやめはご飯を茶碗によそいながら、えっへん!と得意げにうなずいた。
「今日から大学生だからね。 ちょっと気合入れてみたよ~!」
テーブルには、鮭の塩焼きと卵焼き、そしてほうれん草のお浸しにみそ汁も並んでいる。
「助かるよ。 ありがとう、あやめ」
俺は感謝の気持ちを込めてそう言い、彼女は嬉しそうに笑った。
朝食を食べながら、あやめは大学でやりたいこと、楽しみにしていることを話し始めた。
彼女の目は輝いており、その話を聞いていると、俺までワクワクしてきた。
「ふぅ~美味しかったよ。 ごちそうさま!」
「おそまつさまです。 お兄ちゃん、今日も一日頑張ってね!」
あやめは笑顔でそう言いながら、俺に弁当箱を手渡す。
中を見ると、彼女が作ってくれたおにぎりとおかずが入っているようだ。
この弁当があれば、今日一日乗り切れそうだ。
「ありがとう。 お前も大学初日頑張れよ」
俺はそう返しながら、彼女の頭を軽く撫でる。
彼女は「えへへ」と笑い、俺たちはそれぞれの一日を始める準備をする。
食事を終えると、あやめは自分の部屋へ戻って行った。
俺も部屋に戻り、今日の仕事に備えてスーツに着替えた。
新しい生活が始まった今、朝のルーティンも少しずつ変わってきた気がする。
「あやめ、俺は先に行ってくるからな」
俺が玄関で靴を履きながら言うと、彼女が「お兄ちゃん、行ってらっしゃい♪」と返事をした。
そんなやり取りを交わし、俺は家を出た。
☆☆☆☆☆
朝の通勤ラッシュ。いつものように人で溢れる電車に揺られながら会社へ向かう。
あやめのおかげで、今日はいつもより早い時間の電車に乗れたお陰で、いつもに比べれば空いている。
(少し早く出るだけで空いてるなら、この時間に出社するものありだな)
そんな事を考えていると、電車が停車し、新たな乗客を迎えるためドアが開く。
扉が開いたところで目に飛び込んできたのは、会社の同僚エミ(桜井恵美)の姿だった。
「おはよう! 珍しいね、高橋君とこんなとこで会うなんて」
「おはよう、エミ。 ああ、今日はあやめが起こしてくれたから少し早くに出れたんだ」
エミはいつも通り、少し長めのショートヘアで、短めの三つ編みをチャームポイントにしている。
いつもおっとりした雰囲気をまとい、誰にでも分け隔てなく優しい性格の女性だ。
顔も可愛く、そして性格も良いため会社でも人気がある。
そして、彼女のおっとりした母性溢れる性格に合わせるように、その外見は少し目立つ部類だ。
そう、男からの視線を集めやすい双丘‥‥
「どうしたの?」
「え! いや‥‥なんでも無いよ!」
そんな事を考えながらエミを見ていた俺は慌てて答えた。
エミとは同期入社で、これまでの4年間、色々なプロジェクトを共に乗り越えてきた。
彼女とは仕事の話はもちろん、プライベートな話もよくする仲だ。
「この前は助かったよ。 今日もあやめが美味しい朝食を作ってくれたんだ」
先日、あやめが料理の腕を上げたいと言っていたので、エミに声をかけてみたら快諾して、家まで来てくれた。
(あの時は、お願いしてすぐの週末に来てくれたから驚いた。 エミは本当に面倒見がいいなぁ)
「そうなんだね! 早速役にたってるようで嬉しいよ♪ でも、あやめちゃん基礎は出来てたから、少しレパートリーとかを教えた程度だけどね」
少し照れながら、謙遜するエミだが、あやめは色々な調理法を学べてご満悦だった。
「あやめも喜んでいたよ。 引っ越して来たばかりで、友達もいないから一緒に料理が出来て嬉しかったのもあると思う。 本当にありがとう」
「なるほど~そういう事ならいつでも呼んでね!」
「ああ、これからも仲良くしてもらえると嬉しいよ」
「もちろんだよ!」
エミはそう言って、優しい笑顔を見せた。
その後は、あやめの大学が本日初日である事や、エミの新たな料理のレパートリーなどたわいもない話をしながら会社へ向かった。
☆☆☆☆☆
会社に到着するとすぐに、二人の同僚と挨拶を交わす。
「センパイ! おはようっす!」
元気よく挨拶を返してきたのは、鈴木渚
2年後輩の女性で、性格は明るく、いつもふざけた態度だが、仕事に関しては真面目な一面もある。
ただ、おふざけが過ぎて真面目な一面が表に見える事は稀だ。
「センパイ、なんか失礼な事考えてないっすか?」
彼女はトレードマークのメガネの縁をクイっと持ち上げて、じーっと見てくる。
だがいつもの軽口なので、軽くあしらい、もう一人の女性に顔を向ける。
「おはよう。 今日も一日、頑張りましょう」
いつものように仕事モード全開で挨拶を返してくれたのは松本美香
元々同じ部署の先輩だったが、最近昇格して上司になった。
モデルのように長身で綺麗な黒髪を長く伸ばしている。
仕事に対しては、自分にも周りにも厳しいストイックな女性である。
仕事が始まると、いつものように朝のルーティンが始まる。
朝礼、メールのチェック、その日のスケジュールの確認。
その日は特に重要な会議があり、俺はその準備に追われていた。
そんな忙しい中でのエミのサポートは本当にありがたい。
彼女の存在が仕事の負担を軽くしてくれることが多い。
昼休みには、エミ、なぎさ、そして美香さんと一緒にランチを取ることになった。
今日はお弁当を持ってきていたので、会社の食堂でランチだ。
エミもお弁当を持参していたようで、嬉しそうにお弁当箱を広げている。
エミは料理を作るのも好きだが、食べるのも大好きである。
食べ歩きの趣味もあるらしく、美味しいお店もたくさん知っている。
(エミはほんとにご飯の時が一番幸せそうだな‥‥)
そんなことを考えながらエミの方を見ていると。
「センパイ! またエミさんの胸ばかり見てるっす!」
なぎさはいつも通り眼鏡をクイっと持ち上げて光らせながら、からかってくる。
俺は慌てて「見てないから!」と返すが、少し声が裏返っていたかもしれない。
美香さんは俺たちのやりとりを、呆れるような、それでいて優しい表情で眺めている。
そんな雰囲気の中で食事をしながら、仕事の話やプライベートの話で盛り上がる。
この時間が、俺にとっても大切な息抜きの時間だ。
☆☆☆☆☆
業務が一段落した夕方、美香さんから「今日は少し飲みに行かない?」という誘いがあった。
仕事の話はもちろん、プライベートな話もできる数少ない機会。
俺はその提案を快く受け入れた。
仕事を終えた後、俺は美香さんと約束したバーへと向かった。
最後まで読んで頂きありがとうございます♪
あやめの活躍はもう少し後になります。
更新頑張っていきますので、応援頂けると嬉しいです✨
登場キャラクターのイラストはSNSで投稿していますので、ぜひ遊びに来てくださいね!




