絵里子④
絵里子と付き合い始めて1年が経った。
お互いに忙しかったが、出来るだけ毎日会えるように調整しながら、様々な場所で遊び、色々な事にもチャレンジした。
初めて彼女が出来た俺にとってはすべてが新鮮で、毎日がとても輝いて見えた。
大学の祭りでは二人で手作りの屋台を出したり、クリスマスに初めての温泉旅行に行った。
深夜バスで東北まで行き、スノーボードで思い切り滑って、夜には温泉に入り疲れを癒した。
ちょっと奮発して、部屋に個別の露天風呂がある旅館に泊まったのもいい思い出だ。
春のある晴れた日には、俺たちは近くの山にハイキングにも行った。
山頂からの景色を前に、絵里子が「ここから見る世界は特別ね」と言ったのを今でも覚えている。
その時の彼女の目は、本当にキラキラと輝いていた。そんな彼女を見ていると、俺も何だか未来が明るく感じられた。
映画館にも二人でよく行くようになった。絵里子は特にロマンティックな映画が好きで、いつも俺を誘ってくれた。
映画が終わるたびに、俺たちはカフェで感想を話し合い、その話はいつも他の話題へと広がっていった。
そんな彼女の笑顔を見ながら、この時間がずっと続けばいいのにと思っていた。
そして夏が過ぎ、秋が深まるころ、講義を終えた俺は絵里子と出かける予定について相談した。
「おつかれさま、絵里子。 この週末のピクニック楽しみだな! しっかり段取りも終わらせてるから安心してくれ」
絵里子と付き合い始めた当初、あまりに彼女に頼りすぎていると感じていた俺は、頼ってもらえる男になろうと、様々な事を勉強した。
デートプランや、旅行の計画はもちろん、最近では映画を見に行くときもしっかり事前にリサーチし、絵里子が喜びそうな映画をチョイスして連れていく事が出来るようになった。
普段のやりとりも、絵里子にばかり判断を任せず、しっかり自分の意見を伝えて決めるようにしていた。
(俺も1年前を思えば成長出来たかな?)
少し感慨深いものを感じながら、絵里子の様子を見ていると、何やらスマホを眺めながら、彼女は気まずそうな表情をした。
「あ、ごめ~ん、ハルくん。 急にサークルの用事が入っちゃって...。 今回はパスさせて?」
「え~!そっか‥。 まぁ仕方ないな。 じゃあ、また改めて計画しようか」
絵里子が忙しいのは今に始まった事では無い、今回のように急遽予定が合わなくなってしまうことは時々あった。
俺は仕方ないと諦めて、次の機会を待つことにした。
しかしその頃から、絵里子と時間が合わない事が少しずつ増えてきた。
ある時は課題が中々終わらず、一人で集中したいからと、デートがキャンセルになったり、ディナーの予約をしていたのにすっぽかされたり。
以前よりも忙しそうな雰囲気を感じる事が多くなった。
「絵里子最近忙しそうだね。 大丈夫?」
「ありがとう、ハル。 うん!大丈夫だよ! 就活も近づいてきてるからね。 本格的に頑張らないと」
そう、絵里子は今年で3年生。
3年生の秋と言えば就職活動の開始の直前なので、かなり忙しくなってきているようだ。
(俺も来年の今頃は、忙しくなってるんだろうな)
そう思うと、絵里子が忙しい事を当然攻める事は出来ないし、むしろ応援したいと思った。
「何か手伝えることがあったら言ってくれ。 出来るだけ力になるから」と絵里子に伝えると「ありがとう」と笑顔で返事をしてくれた。
それから冬になり、今年のクリスマスは、忙しいという事で、お互い別々に過ごすことになった。
大味噌には久しぶりに顔を見る事が出来た。
「ハル。 なんだか久しぶりだね」
「うん。久しぶり。 年内に会えて良かったよ」
最後に会ったのが12月の前半だったから、3週間ぶりくらいに会えた事になる。
出会ってすぐに俺は絵里子を抱きしめた。
「どうしたの? 寂しかったの?」
絵里子が茶化すように聞いてくる。
「‥うん」
あまり情けない所を見せたくない俺としては、「大丈夫だ」と強気に出たい所なんだけど。
‥しかし、やはり長く会えず寂しかった事は事実なので素直に頷く。
「そっか‥大丈夫だよ。 今日はずっと一緒にいるからね」
そういって絵里子は頭をなでてくる。
最近では、あまり子ども扱いしないで欲しいからと、なでられても突っぱねていたが、今日はなんだかなでられているのが心地いい。
「よしよし、頑張ったね。 今日は甘えていいんだよ~」
「子ども扱いしすぎだって」
俺はそう言いながらも、しばらく絵里子になでられていた。
その日は俺の部屋で過ごすことにした。
年末ライブへの参加や、除夜の鐘を聞きに行く事も考えたが、今日は二人でゆっくりしたい気分だった。
部屋でカウントダウンライブの生中継動画を見ながら、年が明けるのを待つ。
「はーい! 年越しそばだよ」
「ありがとう。 って言ってもカップ麺だけどね」
絵里子がお湯を入れれば5分で出来上がるカップ麺という名の年越しそばを用意してくれた。
緑のパッケージが特徴的だ。
「文句があるなら食べなくてよろしい」
「いえ、頂きます」
俺はちょっとふざけつつも、ありがたく頂くことにした。
「そういえば、絵里子のスマホ結構震えてたみたいだよ。 電話かな?」
絵里子は少し驚いた様子で、スマホを見た。
普段、絵里子は肌身離さずスマホを持っているので、置きっぱなしにしているのは珍しい。
絵里子がスマホを手に取り画面を見て「ああ、色々な人から連絡が来てただけ」と言い、スマホをカバンにしまった。
年越しそばも食べ終わり、二人でくっつきながらテレビを見る。
「今年ももう終わりだね~」
「そうだね。 過ぎてみればあっと言う間って感じるね」
そんなやり取りをしている間に時間も進み、テレビの中ではカウントダウンが始まった。
『10‥9‥8‥』
年が変わっても、何が変わるという訳もないのに、この瞬間はいつもなんだかドキドキする。
『3‥2‥1』
年が明けると同時に俺は絵里子にキスをした。
「明けましておめでとう。 今年もよろしくね」
「うん、よろしくね」
カバンの中で絵里子のスマホが震え続けているけど、あけおめのメッセージが大量に届いているんだろう。
そして、俺たちはそのまま二人でゆっくりとした正月を過ごした。
次の日、俺はアルバイトに精を出していた。
年末年始は休みを取ったが、バイト先が飲食店の為、正月は書き入れ時だ。
絵里子も2日以降は予定が入っていると聞いていたので、元旦の夜に駅まで送って彼女と別れた。
そして俺は2日からバイトを入れ、忙しく働くことにした。
正月も終わり、学校が始まった。
講義で絵里子と会えるかと思ったが、就職活動が本格化して、学校でも会える機会が減ってしまった。
そうして日々が過ぎる中で、2月が迫ったある日、絵里子からメッセージが届いた。
通知画面には『バレンタインの夜どうする?』と出ている。
俺はすぐに通知をタップして、メッセージを見た。
すると、メッセージが届いたであろう部分には『このメッセージは削除されました』とだけ書かれていた。
最後まで読んで頂きありがとうございます♪
妹の活躍はもう少し後になります。
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