サンドキャニオンのピラミッドパニック
今回で紋章探しはラストです!
最後の紋章があるサンドキャニオンに着いたつばめ達。そこは砂漠で彼女達は汗を流しながら歩いていたのだ。
「暑い……昼間になるとキツい……」
「砂漠とはそんな物だからね……」
「もう駄目!脱ぐ!」
つばめは暑さでたまらずTシャツを脱いでしまい、パイルマンは慌てて後ろを向く。
「もういいか?」
「もういいよ!」
パイルマンはつばめの方を見ると、なんと裸サロペットスカートになっていた。
「確かに涼しそうだが、恥ずかしくないのか?」
「こっちの方が涼しいからね。Tシャツは汗塗れだし」
「あのな……」
パイルマンが呆れたその時、フードを被った一人の女性が彼等に近付く。
「あの……もしかして勇者一行ですか?」
「そうですが……」
女性からの質問にリリアンヌが頷きながら答える。
「やはりそうですか。ここではまずいのですぐに転移しましょう」
「いきなり転移?もしかしてあなたは……」
リリアンヌが質問しようとしたその時、突然魔法陣が展開されて彼女達はそのまま転移されてしまった。
※
女性の魔術で彼女達は神殿内に転移し、リリアンヌ達は辺りを見回す。
「ここって神殿?」
「凄いところね……」
シリアとエルメダスがキョロキョロ見回す中、女性はフードを脱いで素顔を見せ、服もアラビアンスタイルに姿を変えた。
「いきなり転移して申し訳ありません。私はファールス。最後の紋章を渡す者であり、スベラスの姉です」
「「「ええっ!!??」」」
ファールスの自己紹介につばめ達は一斉に驚きを隠せなかった。
「あなたがファールスさんですね。俺達を待っていたのは、スベラスの事でしょうか」
「はい。皆さんには大変ご迷惑を掛けています。うちの弟が本当に申し訳ありませんでした!」
ファールスの土下座での謝罪にパイルマン達は慌ててしまう。
「いやいや、そこまでしなくてもいいですから!」
「そうですよ!悪いのはスベラスですから!」
「土下座しなくても大丈夫です!」
パイルマン達の説得にファールスは立ち上がり、服の埃を落とし始める。
「ありがとうございます。まずはスベラスについて説明します。彼は元はと言えば普通の怖がりな性格で、子供の頃に虐められていました。ところが、あの日を切欠に変わったのです」
「あの日?」
ファールスの説明にパイルマン達は疑問に感じる。
「はい。私が神官の訓練校から帰っていた日ですが、ボロボロの姿のスベラスが笑顔で駆け寄ってきたのです。「もう虐めが終わったから大丈夫」と。私はその時にホッとしていましたが……その後、私は衝撃の事実を耳にしました。子供達が崖下で死んでいると……」
「それってまさか、スベラスが苛めっ子を殺していたのですか!?」
「ええ。そのまさかです」
リリアンヌの質問にファールスはコクリと真剣な表情で頷く。
「その後は格闘と魔術で思う存分の好成績を発揮し、貴方方勇者達のパーティーに配属される事になりました……けど、私があの時の彼の行動に危機感を感じていたら、こんな事にはなりませんでした……」
ファールスは後悔の涙を流してしまい、パイルマンが彼女に近付く。
「もしかすると、スベラスが変わっていたのはあの時に誰かに出会ったんじゃないかと思います。その事に心当たりはありませんか?」
「ええ……親切な人と出会ったと……」
「じゃあ、それが切欠で今のスベラスがいるという事ね……」
「はい。恐らくスベラスはあの人の指示に従ってアンバラスを復活させようとしています。その人については不明ですが……」
「その人は誰なのか気になるけど、今はアンバラスの復活を止める為に集中しないと!」
リリアンヌの決意につばめ達も頷く。
「そうですね。紋章についてはピラミッドの中にあります。しかし、そこは迷宮となっていて複雑な構造となっていますが、ゴールの間にその紋章があります」
「ブレイブバングルについては?」
「紋章の試練をクリアした後にお渡しします。そして、ゴールの間に待ち受けているのは紋章だけでなく、勇者であるリリアンヌさんへの試練もあります」
ファールスはリリアンヌを指差し、彼女はゴクリと息を飲んでしまう。
「その試練とは自らの影との戦い。その影を自ら打ち破り次第紋章を手に入れる事ができます。クリア次第ブレイブバングルを渡すだけでなく、パイルマンさんとリリアンヌさんには少し儀式を行いますので宜しくお願い致します」
「別に構いませんが……」
「私も……」
ファールスのお願いにパイルマンとリリアンヌは承諾し、ファールスは笑顔で応える。
「では、ピラミッドに転送させます。ご武運を!」
ファールスはパイルマン達の足元に魔法陣を展開し、そのまま彼等を試練の場であるピラミッドに転送させたのだ。
※
ピラミッドの入口前に転送されたパイルマン達は、ピラミッドの圧倒的な大きさに驚きを隠せずにいた。
「ピラミッドって、改めて見るとデカい……」
「今回はリリアンヌが自らの影を倒す試練だからな。これはリリアンヌ一人でやらなければならないし、俺達はただ見守るしかできないけどな……」
「勇者である私がしっかりしないとね。さっ、行くわよ!」
リリアンヌを筆頭に皆はピラミッドの中にそのまま入り始める。中はとても広く、3つの道に分かれていた。
「ここは私に任せて!」
フェリカはすぐに全体のマップを確認し、目的地を見つける。
「こっちよ!」
フェリカはつばめ達を連れて真ん中の道を通り、そのままゴールの間へと向かい出した。
※
フェリカのお陰で罠に掛からず、見事ゴールの間に辿り着いたつばめ達。ゴールの間には石版と紋章が置かれていた。
「石版ね。シリア、解読できる?」
「うん。確か……「勇者よ。紋章を手に入れたければ、己の影を打ち倒せ。自身の未来を切り開く為にも……」って」
シリアが解読した直後、煙が突然姿を現し、黒い影のリリアンヌとなった。
「リリアンヌ、準備はいい?」
「ええ。覚悟はできているわ!」
リリアンヌは駆け出したと同時にロングソードを強く振るう。
「やっ!」
剣と剣がぶつかり合う音が響き渡り、二人の戦いは互角と言ってもいいくらい激しくぶつかり合っていた。
「あの影……目茶苦茶強い……リリアンヌと同じ強さなのに……」
「リリアンヌに勇者としての資格があるかを確かめているからね。私達としてもこの戦いは見守るしかないけど、リリアンヌなら大丈夫だと信じているわ」
「どういう事?」
つばめが冷や汗を流す中、シリアはリリアンヌを信じている事につばめは疑問に感じる。
「リリアンヌは私達の誰よりも勇敢で、どんな時でも諦めずに強くなった」
「仲間思いの優しさもあって、私達もそれに救われたわ」
「だから俺達は信じるのさ。リリアンヌなら大丈夫だって!」
「……そうね。私もリリアンヌを信じるよ!」
シリア達の説明につばめもリリアンヌを信じたその時、リリアンヌの斬撃が見事影を切り裂く事に成功する。
「影を切り裂いた!」
「イケるぞ、リリアンヌ!」
影は悪あがきをしようと剣を振り回すが、リリアンヌはロングソードを持つ影の右手を切断した。
「私は勇気の力がある限り、何度でも戦い続けるわ。これで終わりよ!」
最後はリリアンヌのロングソードの一突きが影の心臓部分に突き刺さり、影はそのまま霧散して消滅した。
「終わったわ!」
「リリアンヌ、凄くカッコ良かったよ!勇気の力を持っているなんて……」
リリアンヌの笑顔につばめは彼女の手を取る。その目には涙が浮かべられていた。
「お父様から教えてもらったの。何事も勇気さえあればどんな困難も乗り越えられる。勇者になれたのもそれがあったからこそよ」
「そうなんだ……」
リリアンヌの説明につばめが納得したその時、紋章が彼女達の前に移動してきた。
「これで4つ目……!」
リリアンヌは紋章を手に取り、これで全ての紋章が集まった。
「色々あったけど、後はブレイブバングルのみね」
「すぐにファールス様の元に戻りましょう!」
つばめ達は魔法陣を展開し、そのままファールスのいる神殿へと転移した。
※
「お疲れ様でした!罠に掛かるかと思いましたが、紋章を無事に手に入れた事にホッとしました」
神殿に戻ったリリアンヌ達は、これまでの事をファールスに報告していた。
「さて、次はブレイブバングルですね。アカシアの宝玉をお願いします」
「はい」
シリアはアカシアの宝玉をファールスに渡し、ファールスは魔術でリングを召喚する。
「はっ!」
更にファールスはリングとアカシアの宝玉を宙に浮かび上がらせ、そのまま合体させる。するとアカシアの宝玉が埋め込まれた黄金のバングルへと姿を変えたのだ。
「これが……ブレイブバングル……」
ブレイブバングルの姿につばめ達は驚きの表情で見惚れていた。
「ええ。紋章、ブレイブバングル、勇気の心の3つがあればアンバラスを消滅させる事が可能です。皆さんには勇気の心があるので大丈夫だと信じています」
「ありがとうございます!」
ファールスのアドバイスにつばめが代表して一礼をする。
「さて、最後は儀式です。まずはパイルマンさんから」
「俺ですか?」
パイルマンが前に出てファールスに近付き、彼女は彼をじっと見つめる。
「あなたはスベラスによって呪いを掛けられていますが、元に戻す事も可能です」
「本当ですか!?」
「ええ。元の姿に戻る事は可能ですが、今持っている武器は使えなくなってしまいます。それでも良いのですか?」
ファールスの質問にパイルマンは前を向く。
「いや、結構です」
「良いのですか?」
「確かにスベラスのやり方には憤慨を感じています。けど、この姿にならなかったらつばめやフェリカにも出会えなかったし、リリアンヌ達とも再会できなかった。この思い出を大切にする為にも、このままでお願い致します」
パイルマンの一礼にファールスは微笑みを見せる。
「素晴らしいご決断ですね。はっ!」
「うわっ!?」
ファールスはパイルマンに魔術を掛けた途端、彼の姿が変わってしまった。その姿は狼の顔をした戦士となっていて、鎧とマントが着けられていた。
「これが……俺なのですか?」
「ええ。武器はそのまま使えますし、この姿なら戦いやすいです。これからの活躍を信じています!」
「ありがとうございます!」
パイルマンが一礼し、回れ右をしてつばめ達の元に戻り始める。
「パイルマン、凄く格好良いよ!私達との出会いを残す為に決断するなんて!」
「勇気ある行動は勿論、この方がとても似合うわ!」
「そうかな……大した事じゃないけどな……」
つばめとフェリカの笑顔にパイルマンは照れ臭そうに頬を掻く。
「パイルマンは素直じゃないみたいね」
「お、おい!それは流石に……」
パイルマンが慌てる中、リリアンヌは前に出たと同時に一礼する。
「アンバラスと戦う事に後悔はしないのですね」
「はい」
リリアンヌは用意された椅子に座り、ファールスは彼女の耳に小さなリングを付ける。
「痛っ!」
リリアンヌが小さな悲鳴を上げるが、ファールスは彼女の両耳に小さなリングを付けた。
「あなたは私達と同じ一族と男性では無いのですが、これは一族の男性の成人儀式です。立派な姿ですよ」
「おお!とても似合うじゃない!」
「そうかな……」
エルメダスに褒められたリリアンヌは、照れ臭そうに頭を掻く。
「いよいよ残すはアンバラスとスベラスの戦いです。その前に貴方達はこの世界の神様に出会わないといけません。スベラスを今の姿にした元凶、更にはアンバラスの復活を阻止する為のカギが見つかる可能性、そして、つばめさんをこの世界に呼び出した理由が見つかります」
「でも、その神様は何処にいるのですか?」
つばめの質問にフェリカが手を挙げる。
「それなら私が知っているわ!アミルド神殿という場所に神様がいるの!今から魔法陣を使って転移するわ!」
「いきなり!?」
フェリカは魔法陣を展開し、そのまま転移を始める。
「あなた達のご武運を信じています!そして……スベラスの暴走を止めてください!」
「必ずご期待に応えます!」
ファールスのエールにパイルマンは強く応え、彼等はそのままこの場所から転移した。
※
アミルド神殿に転移したパイルマン達を待っていたのは、黒い短髪の神様だ。しかも美しくて礼儀正しい雰囲気を纏っている。
「皆様が来るのを待っていました。フェリカ、お疲れ様です」
「はい、クルーゼ様」
クルーゼの姿を見たフェリカは一礼し、彼はつばめに視線を移す。
「あなたが私をこの世界に転移させた神様ですか?」
「ええ。私はクルーゼ。この世界の守護神です」
「しゅ、守護神!?」
つばめの質問にクルーゼは優しい笑みで自己紹介をしたが、彼女は驚きを隠せなかった。