第九十九話
「滝本君、仮縫いが終わったそうなので今日の放課後家庭科室に行ってください」
「もう仮縫い出来たのですか。あまり凝った衣装じゃないのかな?」
仮装競争への参加を決めた翌週の週始め、先生から仮縫いが出来た事を伝えられた。どんな衣装になったのかは全く聞いていない。どんな格好をさせられるやら。
恙無く授業が終わり放課後。俺は特別教室が集まる別棟に移動し家庭科室を目指した。校内は体育祭の準備と練習に熱が入り、かなりの活気が満ちている。
「滝本だけど、入っても大丈夫かな?」
いきなりドアを開けずに声を掛ける。もしも中で衣装合わせをしてる途中だったら見てはいけない姿を見てしまう事になるからだ。
「大丈夫だよ、早く入って!」
すぐに返事が返ってきたので中に入る。俺の心配はいらぬ心配だったようだ。家庭科室の中は大きな暗幕で仕切られていて、その中は見えないようになっている。
その暗幕にクラスを書いた紙が貼ってあり、それぞれのクラスが他のクラスに見られないように配慮されていた。
「この家庭科室は二年生が使ってるの。一年生は工作室よ」
「三年生はやらないんだよな。まあ、受験があるから時間を取る出し物はやらない方が良いか」
急いで考えられた筈なのに、ちゃんと配慮が行き届いている。この学校の先生方は思ったよりもやり手なのかもしれない。
「これ、結構本格的に作られてるなぁ。よくこの短期間で作れたね」
「これは市販品だし、こっちもほぼ手が掛かってないからよ。滝本君の衣装にほぼ全力を投入したから」
二年一組のスペースに入った俺は、トルソーが着ている三人分の衣装を見て感心した。感心したのだが、聞き捨てならないセリフを聞いたような気がする。
「えっ、俺はこれを着ると思ったのだけど?」
並んでいる三着の衣装のうち、誰がどう見ても最も重いと即断する衣装を指差す。かなり重いであろう衣装を着るのは、最も力がある俺が最適だろう。
「私にはこのスキルがあるのよ。だから心配はいらないわ」
「確かにそれなら着られるか。でも、俺にステータスを見せて良かったのか?」
一緒に走る女子の一人が俺にステータスを提示した。俺の女性体や着せ替え人形と違いまともなスキルだから見せる事に抵抗が無いのかもしれない。
しかし、見せてもらったスキルはかなり有用でレアな物だった。後の面倒を考えたらあまり広めない方が良いと思う。
「滝本君は勝手に人に言いふらしたりしないでしょ。男子でこれを知ってるのは滝本君だけよ」
「滝本君以外の男子はお子ちゃまで信用出来ないのよね。自分のスキルを自慢しまくって、私達が『わあ、凄い』って惹かれるとでも思ってるのかしら」
前回もそうだったが、女子達はかなり辛辣である。まあ、彼女に比べたらショボいスキルを自慢されてるそうだから、その鬱憤がかなりあるのだろう。
「何が『俺とパーティー組めば有名になれるぞ、今なら特別に入れてやる』よ。そういうのは滝本君の半分の深さでも潜ってから言えっての」
「あいつ、大宮ダンジョンの二階層で兎に蹴られて逃げ帰ったらしいわよ。そんなの無理無理」
俺は少しその男子に同情してしまった。そもそも、いくらスキルを得たからと言っていきなり戦えるようにはならない。
スキルを得たとはいえ、まだまだ子供の中学生なのだ。壁に誘導すれば自爆する突撃豚と違い、きちんと戦わねば勝てない蹴撃兎に勝つには心身の鍛錬が必要だ。
「よし、特に大きく手直しする必要は無いわね」
「このまま本縫いをやっておくわ。あ、靴を渡すからそれで走る練習だけお願いね」
男子への愚痴で盛り上がりながらもキッチリと手を動かしていた女子達は、手際よく作業を終わらせた。
驚きの連続で異議を唱える隙もなかったが、これ、両親と舞が見るんだよなぁ・・・




