第九十八話
「滝本君、参加という事で本当に良いよね?」
「はい、家族とも相談して参加する事に決めました」
あの後考えてみたが、不参加とする合理的な理由が思い付かなかった。そして、こんなに頭を悩ませるより参加した方が楽だという結論に至った。
別にどうしても参加したくないという訳では無いし、奇抜な服を着て百メートルを一回走るだけである。
「では一組の女子にサイズを計りに来るよう伝えておきます。今日の放課後は空いていますか?」
「特に用事は無いので大丈夫です。早く計った方が余裕を持って作成できますしね」
というやり取りを朝のHRで行い、その日の放課後にメジャーを持った女子三人が支援学級の教室に入って来た。
「このまま計ってもらえば良いのかな?」
「正確に計りたいので、上だけでも脱いでもらえると助かります」
俺は言われるままに上半身の制服を脱いで椅子にかけた。その様子を見ていた女子から溜息がもれる。
「滝本君、線は細いけど筋肉付いてるのね」
「そりゃそうよ。ダンジョンの二桁階層に潜れる探索者よ、しかもソロで」
「強いのに穏やかで謙虚。ちょっと良いスキルを貰っただけでイキってるお子ちゃまなんて比べるのも失礼よねぇ」
話からすると、クラスに戦闘系スキルを貰った生徒が居るようだ。だけどそれで天狗になり女子から嫌悪されてると。
「この世の中はスキルが重要視されるからね。ダンジョンで活躍できる戦闘系スキルを得たとなれば、多少は有頂天になっても無理ないと思うよ」
その男子生徒を庇う訳では無い。実際、軍に入った大人でもスキルで増長する奴がいたのだ。世間を知らない中学生が浮かれる位は可愛いものだろう。
「こういう所よねぇ。冷静で落ち着いた言動がたまらないのよ」
「うちは医者だから、大人の患者さんと接する機会が多かったからね。大人びた考え方をするようになったんだよ」
口が裂けても前世の記憶があるからだなんて言えない。なので家業が原因という事にさせていただく。
「言動はお子ちゃまなのにエロさだけは大人並みなんだから、気色悪いのよね。・・・っと、これで終わりね。滝本君、お疲れ様でした」
「俺はただ立っていただけだよ。三人ともありがとうね。本当に仮装を考えたり衣装を作るのは手伝わなくていいの?」
「他の走者とコンセプトを合わせる必要があるから任せてくれる?縫うのも私達に任せてね」
仮装競争は各クラスから三人が出走するらしい。公序良俗に反しなければ格好は自由との事で、何かテーマを決めて合わせる予定との事だ。
「先生、終わったのでこれで失礼します」
「お疲れ様。気を付けて帰るのよ」
取り敢えずトラブルもなくサイズ測定は終了した。クラスの男子がボロボロに貶されていたが、それは聞かなかった事にしておこう。
「仮装競争の件、出る事にしたよ」
「優ちゃんの初めての体育祭、何が何でも見に行かないとね。開催日は日曜日よね、お父さん、ビデオの準備しておかないと」
夕食時に体育祭への参加を報告すると、母さんは父さんと嬉しそうに応援に行く話をしだした。父さんも嬉しそうだし、この選択は間違えていなかったと思う。
「それでお兄ちゃん、どんな格好で走るの?」
「それはこれから決めるらしい。三人で走るのだけど、コンセプトを決めて走るそうだ」
どんな衣装になることやら。あまり走り難い衣装じゃなければ良いのだけど。