第九十四話
「お父様から連絡がありました。体育祭に参加しないというのは滝本君の意思で間違いないですか?」
「はい。余計な軋轢は避けたいですからね」
翌日、学校で先生が顔を合わせて一番に出てきたセリフがこれだった。父さんはもう学校に連絡してくれたようだ。
「去年まで体質を理由に不参加だったと聞いています。だけど、今年からは運動系スキル枠で出られますよ」
生徒には出来るだけ学校行事に参加してほしいという親切心からのセリフだと思う。普通の生徒ならば有り難い配慮だが、ここは敢えて断らせてもらう。
「ではお聞きしますが、俺が参加するとしたら運動系スキル枠ですか?一般枠ですか?」
「え、それはもちろん・・・えっと、運動系よね?」
自信なさげに答える先生。問題があると気付いただろうか。念の為に説明を加えておこう。
「俺のスキルは運動系ではありません。なので一般枠で出る事になります。しかし、身体能力は運動系スキル上位並みです」
一般枠で出れば勝負にならない。かと言って、運動系スキル保有者という訳では無いから運動系スキル枠で出たら問題視されるだろう。
「どちらで出ても問題が起きるでしょう。なので参加しないというのが最も簡単で現実的な対応なんです」
「滝本君、年齢誤魔化してない?大人よりも危機管理能力高いよね?」
実際に精神年齢は誤魔化しているが、それを正直に言う訳にはいかない。言っても信じられない可能性も高いしね。
「こんな体質ですからね。普通の人よりトラブルを起こす恐れが高いんです。なので、それを回避する為に恒常的に考えて行動する必要があったんですよ」
そう答えると先生は少し悲しそうな顔をした。特殊な体質に生まれたが為に普通の生活を送れない事への憐情だろうか。
「でも、それと引き換えに優れた身体能力を得てますからね。ソロで十九階層まで行ける代償と考えたら安いものですよ」
「えっ、十九階層?滝本君、もう十九階層まで潜ったんですか!」
「ええ、夏休みに良い武具が手に入りましてね。それのお陰ですよ」
先生は口を半分開けたままフリーズしてしまった。余程驚いたのだろう。その反応は無理もないもので、うちの家族の反応はかなり軽い部類だ。
スキルを得て一年も経っていない新人探索者がソロで十九階層なんて深い階層まで到達する。俺は着せ替え人形や迷い家のお陰でサクッと達成したが、普通ならば獣人化スキルでも貰わない限りまず無理な記録なのだ。
「先生、驚かれるのは無理もないと思います。だけど、そろそろ授業を始めてもらえませんか?」
「あっ、はい、そうですね。滝本君、マジで優良物件よね。私が三年若ければ・・・いえ、十歳差ならいける?」
小声で不穏な事を呟いているのが聞こえるが、ここは聞かなかった事にしてスルーさせてもらう。今は恋愛をするつもりはない。
その後は恙無く授業が進んだ。二学期は体育祭で授業時間が潰れるので時間を無駄に出来ない。まあ、支援学級で臨機応変に進度を変えてもらえるので俺への影響は少ないのだが。
この日の放課後、俺は知らなかったが職員会議の議題で俺の体育祭不参加の件も上がったそうだ。しかし俺の懸念と解決策は正論だとされ、俺の不参加は承認されたらしい。
これで今年も不参加という事で一件落着・・・となる筈だったのだが、世論とは本人の意志と関係なく騒ぎ立てるものなのだった。
作者「この世界にも体育祭あるよ、でも優君は不参加で終わったよ・・・で終わる予定だったんだがなぁ」
優「おい作者、不穏な事を言わないでくれよ!」




