第九十三話
俺はヘラクレス症候群により高い身体能力を持っていた。なので徒競走などに出れば圧勝してしまう。そうなれば嫉妬や恨みを買うのでこれまで参加しなかった。
ダンス系は参加出来ただろうけど、万が一の可能性を盾に不参加を貫いた。身体は子供でも精神は大人なのだ。小学生と一緒に踊るのはかなり恥ずかしい。
「スキル保有者枠なら全力を出せるんじゃないか?」
「いや、多分圧勝する。ダンジョンの十九階層まで到達する身体能力は半端じゃない。参加しない方が無難だと思う」
この学年から生徒がスキルを授かる。運動系スキルを授かった生徒とそうではないスキルを授かった生徒を一緒に競わせるのは不公平なので、二年生から別々に分けている。
では、俺はどうなるだろうか。スキルは運動系ではない。しかし、運動能力は運動系の最上位クラスになる。
スキルだけ見れば非運動系での参加となり、身体能力を見れば運動系での参加が妥当だろう。実質と名目が乖離してしまうので、また論争の種になるだろう。
そこに能力の高さが問題となる。ヘラクレス症候群の効果は身体強化に匹敵するか上回る。全身の強化を可能とする身体強化は運動系でも上位のスキルだ。
脚力強化や持続力強化などのスキルの生徒は、それを上回る能力を持つ俺に勝つ事は出来ないだろう。その時彼等はどう思うのか。
戦闘に有効な運動系スキルを授かった者は差こそあれど自尊心が高くなる。自分はダンジョンで活躍する選ばれた者だと思ってしまう。
そんな連中が非戦闘スキルを授かった俺に勝てなかったら?彼等は俺を妬み恨むに違いない。俺はその懸念を正直に伝えた。
「それはあるわね。ただでさえ優ちゃんは女の子からの人気が高くて男の子に恨まれてるから」
「お兄ちゃん目当てに私にすり寄る子も居るのよ。喜久子ちゃんとめぐみちゃん、私と仲良しだから妬まれてるわ」
舞は家族だから影響があるかも、と思っていた。しかし、お友達の喜久子ちゃんとめぐみちゃんにまで影響しているとは思わなかった。
「いじめとかされてないか?少しでもそんな兆候があったらすぐに相談するんだぞ」
「今の所は大丈夫。何かあったら相談するから心配しないで」
舞はしっかりしているから、そこは信用して大丈夫だろう。俺が何かしようにも、特別扱いしたら嫉妬を加速させて逆効果になりかねない。
「あっ、じゃあ送って行ったのは拙かったかな?」
「理由あっての事だし、大丈夫じゃないかな。もし何かあっても私がフォローするわよ」
舞は優しいだけでなく、芯の強い良い子である。これはシスコン故に目が曇っている訳では無いと明言しておく。
「じゃあ学校の方には父さんから連絡しておくぞ。早めに通達した方が学校も助かるだろうからな」
「ありがとう、父さん。お礼は夫婦鶏の皮煎餅でいいかな?」
「あれ、ビールとの相性良すぎなんだよな。ついつい飲み過ぎてしまう」
鶏肉の皮の部分だけを焼いた皮煎餅は、パリパリしていておやつにも酒のツマミにも良い料理だ。それを夫婦鶏の鶏肉で作ると、やめられない止まらない状態となる。
「私、普通のお肉の料理では満足出来なくなりそう」
「使うお肉全部がダンジョン産なんて、贅沢な話よね」
それに関してはダンジョン様々だなと思う。食肉がほぼ無限に入手出来るダンジョンは、食料自給率が低くなる筈だった日本には福音と言えるだろう。
しかし、このダンジョンはどんな理由で発生したのだろう。神様に会う機会があったら聞いてみようか。




