第九十一話
夫婦鶏の鶏肉は美味しかった。照り焼きに唐揚げ、チキン南蛮に竜田揚げ。うちはもうスーパーでお肉を買うことは無いだろう。
夏休み前に立てた目標である大盾の取得を達成し、予定外の武器まで手に入れた俺は次の目標である打撃武器の資金を貯める事に集中した。
まだ買いたいと思う武器の目星は付いていないが、欲しい武器を見つけた時に買えるだけの資金を確保しておきたかった。
そんな資金稼ぎとお肉の補充に明け暮れた夏休みも終わり、二学期が始まった。俺は自由課題で作った作品を納めた木箱を机に置いて始業の時を待つ。
「おはようございます優君、無事な姿を見れて安心しました。時に、その箱は何でしょう?」
「自由課題で作成した物です。他の課題と共に提出しようかと思いまして」
鞄から各教科の課題を出して先生に渡す。支援学級では一人の先生が受け持つので、全ての課題を一気に渡せて楽である。
「はい、全教科の課題が漏れなくありますね。で、この自由課題を見せてもらっても良いですか?」
「勿論です。見ていただいて評価をもらわないと」
箱を開けて破損防止の梱包材ごと取り出す。梱包材を剥がすと木目が美しい千手観音立像が姿を現した。
「・・・一応聞きたいのですが、市販品ではないですよね?」
「ええ、俺が一刀一刀丹念に心を込めて彫りました」
手の平の眼まで再現した自信作。高評価を得られる物と自負している。
「えっと、優君の進路希望は仏師でしたっけ?」
「違いますよ、俺は探索者になる予定です。軍に入れればそちらに行くかもしれませんが」
夏休みに関中佐との接点が出来たのは嬉しい誤算だった。直接情報部とのやり取りができれば玉藻の秘密は守りやすくなる。
困った顔の先生に促され始業式に出席する。世界が変わっても校長先生の挨拶が長くてつまらないと言うのは変わらないらしい。
始業式終了後、帰る間際に職員室に呼び出されるという小さなアクシデントはあったものの二学期か始まった。
「お兄ちゃん、何でそんな物を学校に持って行くの?」
翌朝、一緒に登校する舞が開口一番に投げかけてきた疑問がこれだった。俺でも同じ事を聞くだろうから、聞きたい気持ちはよくわかる。
「昨日自由課題で提出した千手観音立像を本当に彫ったのか疑われてな。それを晴らす為に先生の前で彫ってやろうかと」
「ああ、うん、あの仏像ね。お兄ちゃんを疑うのは許せない行為だけど、あれは職人が彫ったと思われて当然よね」
千手観音立像を思い出し遠い目をする舞。それは仏像の出来が良かったと褒められているんだよな?
「舞ちゃんおはよう!お兄さん、おはようございます・・・って、何ですかそれ?」
「お兄さんおはようございます。何故に丸太を?」
舞のお友達二人が合流してきたが、俺が持つ丸太を不思議がっている。用途を説明したのだが、舞のようには納得してくれなかった。
「じゃあ、今日彫る仏像は提出しないから持ち帰った物を見てもらうかな」
「そうね、実物を見れば納得するしかないから」
どこか呆れたような表情の舞も肯定し、お友達二人が今日の放課後遊びに来ることが決定した。
学校に登校する生徒達の奇異の目で見られながら登校し、先生の前で羅睺阿修羅王の立像を彫り上げて見せた。
他の先生に疑われないよう学校の備品のカメラで動画撮影もしておいたので、もう疑われる事は無いだろう。
「君は何処を目指しているのかな?」
「えっ、探索者ですよ。彫師にもアイドルにもなりませんから」
俺の目標はただ一つ。神様との約束を果たす事だけです。
優「何故か読者様からのアイドル推しが・・・」
作者「スキルもアイドルに適してるからなぁ・・・」




