第九話
「それでは優君、着せ替え人形を出して下さい」
「あっ、はい」
汗臭い男子更衣室とは明らかに違う甘い匂いが漂う女子更衣室の空気に意識を持っていかれていた。お姉さんの指示に従いデッサン人形のような着せ替え人形を出す。
「これがお兄ちゃんのスキル・・・」
「ではスキルを発動して下さい」
羞恥に顔を赤くしつつ着せ替え人形のスキルを発動した。目の前の人形が一瞬で服を纏い、俺の素肌に空調の効いた風が吹き付ける。
「顔だけじゃなく身体も極上・・・」
「我が子ながら、見惚れてしまう美しさね」
「実の兄妹でなければ押し倒すのに・・・」
俺が着せ替え人形に気を取られていた数瞬、三人の女性は俺をガン見していた。その視線で素っ裸である事を思い出し、女性陣に背中を向けてしゃがみこむ。
「何をガン見してるんですか。息子や兄の裸を見て楽しいの?そしてお姉さん、仕事して下さい」
「ああ、御免なさい。綺麗だったからついね。これで身を隠して頂戴」
役得役得と呟くお姉さんからバスタオルを受け取り胴体を隠して立ち上がる。お姉さんがこの仕事をやっているのは危険なのではなかろうか。
「では優君、もう一度スキルを使ってみて下さい。バスタオルがどうなるか確認します」
お姉さんに言われるに従ってもう一度スキルを発動する。俺の身体は一瞬で服に覆われ、着せ替え人形にはバスタオルが巻かれていた。
「バスタオルも衣服として判定されたようね。判定は厳格ではなく曖昧な所もあると。では着せ替え人形を消して頂戴」
着せ替え人形を消して脳裏で確認する。感覚的に何も付けていない着せ替え人形とバスタオルを巻いた着せ替え人形があるのがわかる。
「次に女性体を試してもらうのだけど、バスタオルを巻いた姿になる事は出来るかしら?」
「女性体スキルを意識すると二つの着せ替え人形も浮かびますが、両方何も着けていません。男性の着せ替え人形と女性体の着せ替え人形は別枠みたいです」
共用出来るのならばバスタオルを巻いている状態で女性体になれたのだが、そこまで都合好くいかないようだ。
「では優君、女性体を使ってみて下さい」
「はい。・・・女性体」
覚悟を決めてスキル名を呟く。明らかに重心が変わり、倒れるのを防ぐ為たたらを踏む。素肌に風を感じるので裸の状態で女性体になったのだろう。
「基が美形だから美少女になるとは予想してたけど・・・」
「この姿で外出したら男に声掛けられまくりね」
「でも、お姉ちゃんとお出掛けしたい」
自分で自分は見られないので自己評価は出来ないが、三人の反応を見る限り美少女と言っても差し支えない容姿をしているようだ。
「舞、お姉ちゃん言うな。それとお姉さん、バスタオル貰えませんか?」
見た目同性となったとはいえ、全裸を晒す事には抵抗がある。なのでバスタオルを渡して欲しい。
「さっき渡して着せ替え人形が纏ったままよ。だからそのままで居て頂戴」
恥ずかしいが、これはバスタオルを外しておかなかった俺のミスでもある。そう自分を納得させて我慢する事にした。