第八十九話
家族会議によって出た結論は、十九階層まで進出という物だった。十七階層と十八階層が戦闘を回避してもスタンピードを起こさない為、素通り出来るというのが決定打となった。
朝食を食べた後、俺は母さん特製照り焼きバーガーをお弁当に持ち家族の期待を一身に受けていつものダンジョンへと向かった。
目的の十九階層までは一気に進む。今日ばかりは牛さんの誘惑も振り切り最低限の戦闘だけを熟して進む。
優としては初となる十七階層。普通ならゴーレムを倒してみてから進むのだが、かなりの時間がかかってしまうのでスルーさせてもらった。
そして十八階層に降りると念の為最短コースから外れると、玉藻へと変わり迷い家に入った。ここからは優でも玉藻でも初となるので、一応スタンスラッグを倒しておこうと思う。
さて、ナメクジというと塩を連想する方が多いだろう。それはこの世界でも同じだった。故に十八階層に出るモンスターか巨大ナメクジだと知られると、当時の探索者は塩を持ち込んだ。
塩をかけられたスタンスラッグは普通のナメクジ同様萎んでいったらしい。しかしその巨体故に内包する水分も多く、倒すまでにかなりの量の塩を必要としたらしい。
こんな所まで大量の塩を持ち込んでまで倒す必要があるかと問えば、殆どの人は無いと答える。魔石は他のモンスターで狩れば良いし、レアドロップの粘液も大して役にはたたない。
一応触れた相手を麻痺させる効果があるのだが、粘度が高いので武器に塗布するのが結構面倒。手間をかけて塗っても必ず麻痺する訳では無く、手数で勝負する武器で使って半々という所だとか。
なので落とし亀と並んでシカトされるモンスターランキングの上位に入っている。今はそんな厄介モンスターを倒す為の準備を行っている。
こいつは物理は効きにくく、魔法で倒すのが一般的だ。しかし火系魔法で焼くと悪臭を放つ為火系魔法はご法度となっている。
なので風魔法で切り裂くか氷魔法で凍らせるのが最上の対処とされているが、風魔法はまだしも氷魔法なんて国に数人という超希少魔法。現実的ではない。
では、玉藻になって何をやっているのか?という話になる。玉藻の狐火も火なので、使えば悪臭でえらい事になってしまう。
そこで塩よりも有効なナメクジ対策を使わせてもらう。用意するのはご家庭で簡単に用意できる代物、ヤカンに入った熱湯だ。
ナメクジは熱湯をかけると体内のタンパク質が凝固して死んでしまう。それを試そうというのだ。丁度お湯が沸いたのでヤカンを持って迷い家を出る。
空歩で空中から探すと程なくスタンスラッグを発見できた。高度を落とし熱湯をかけていくと、見た目の変化は無かったが動きは止まったようだ。
そのままお湯をかけているとスタンスラッグは魔石へと変化した。ナメクジにお湯というのは初めてやってみたが、確かに有効だった。
「さて、一応倒した事だし後片付けをして先に進むかのぅ」
お湯で濡れた魔石を拾い、迷い家に帰る。キッチンにヤカンを戻すと魔石をしまったリュックを手に持ち外に出た。
妖体化と女性体を解いて男に戻ると十九階層に降りる渦へと向かう。もうスタンスラッグを倒す事は無いだろう。
お湯でお手軽に倒せるとはいえ、態々迷い家で湯を沸かし持ってくるのは手間がかかる。地上から塩を運ぶよりは楽だが、そこまでして倒す意味もない。
途中で遭遇したスタンスラッグは全て無視して十九階層への渦に辿り着いた。ここからが今日の本番だ。気を引き締めていこう。




